第11話 2周目の裏ボスと巨龍との殴り合い


《GYAAAAAAAAAAAA!!!!》



長い眠りから目覚めた山脈龍モンクは咆哮とともに俺を睨みつける。


山脈龍なんて大それた名前が付いているが他の龍種に比べると、言っちゃ悪いがただデカいだけがヤツの特徴だ。だからこそ腕試しにはちょうどよくはあるんだけど。



「せっかく封印を解いて起こしてやったのに反抗的だな」


《GYAAAAAAARURURURUR!!!》


「なんだ、叫んでるだけか? そっち行ってやるよ」


《GYAUUU!!!》



湖から姿を現した山脈龍モンクは、たしかにデカい。島と見まがう背中のこぶ・・を含め、その全長は70mにも及ぶ。本来は土龍種であったモンスターが突然変異して生まれたのが目の前のモンクと名付けられたドラゴンだ。そもそもが上位種ではないため魔法も使えない雑魚ではあるが、耐久性はピカイチと言える。


せっかくリオネが見ているんだ。魔法であっさりというのも味気ないだろう。俺は地面を蹴ってモンクの顔面に向かって跳び跳ねる。



「それじゃ、殴り合いの時間だ。 ―――ファイア・フィスト」


《GYRUAAAAAA!!!》



マナを固めた空気階段を駆け上がってモンクに接敵する。


モンクも鋭い牙を輝かせて大きな口を開く。モンクの牙が迫る刹那、業火を纏った俺の拳がモンクの顔面を横から殴りつける。衝撃で仰け反ったモンクに、俺は続けてアッパーパンチを喰らわせて、そのままステップバックする。



「足場が欲しいな。―――スルト・アーム」



俺の詠唱とともに湖から巨大な腕が生えてくる。

俺は炎の巨神の手のひらの上に着地して、起き上がってくるモンクを見つめる。流石の耐久力だ。まだまだ楽しめそうで嬉しい。



「元気なもんだ。もう一発くれてやるよっ!!」


《GYAAAAAAAAAAAA!!!》


「その調子だ!! ――――サイコキネシス」


《GYRUAAAAAA!!!》



迫ってくるモンクの長い尻尾を念動力で操った岩で跳ね返し、さらに俺を狙って振り下ろされた鋭い爪を思いっきり殴り返す。……なかなかに根性がある。人間の冒険者が苦労するのも分かる。ただ……



「その程度じゃあ全然届かないぞっ!!」



互いに拳と攻撃が交わるが、その結果は一方的である。何打も、何打も俺の攻撃がモンクに襲い掛かり、そのすべてが命中する。



《GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!》



やがて、山脈龍はその巨大な四肢を立たせるだけでやっとの状態まで追い込まれる。


それでも、龍種としてのプライドだろう。高々と咆哮を上げて俺を睨む。………素晴らしい。もうこれ以上いたずらに痛めつける必要はないだろう。



「もういいだろう。動くな。 ―――クロックワークス・フローズン 」


「GYAAAaa……」



時間凍結魔法の効果でモンクが動きを止める。


仕方がないとはいえ、この手の大型モンスターで時間魔法耐性がないと完全な雑魚に成り下がってしまう。そもそも時間魔法の使い手が少ないのが人間界の現状ではあるが。



「痛覚を感じないうち終わらせよう。 ――――グリップ・ハート」



これは敗者をせめて安らかに眠らせる魔法。

ヤツのHPが2割を割り込んでいれば問題なく発動できるはずだが……いけたな。


魔力の見えない手がモンクの心臓を掴む。



「山脈龍モンク。ありがとう、楽しかったよ」



衝撃音とともに山脈龍モンクの身体が弾けて光の粒子へと変わる。緑色の煌めきの中で俺は宙に浮かんだ翡翠のブレスレットを掴み取る。



〘アイテム:山脈龍の手形 を取得しました〙




俺に視界にシステムメッセージがポップアップする。1周目の時はわざわざこんなの出てなかった気がするが……もしかしたら何か意味があるのかもしれない。


というか、リオネ視点だとこんなメッセージが沢山出てくんのか? それはそれで面倒臭そうなもんだけど。


何はともあれ、目的は達成した。リオネの下に戻るとしよう。



▼ △ ▼



「はあぁぁ~!!凄いっス!!」



私はデュースくんとおっきなドラゴンの戦闘を眺めて思わず声を上げる。目の前の光景があまりにも非現実的過ぎて、改めて異世界にいることを実感した。


魔法が使えて、空も飛べて、なによりデュースくんが近くにいる。異世界、最高過ぎるっ!! …………あっ、とうとうドラゴンが負けた。



「それにしても、やっぱり強いなあ」



しみじみ呟いて私はデュースくんを眺める。


ホントなら勇者の私が将来、デュースくんを倒すことになるんだけど、そんな未来が想像できないくらいにはデュースくんは強い。ドラゴンを倒しても全然余裕があるみたいだし、追いつける気がしない。


そんなことを思っているとデュースくんがこちらに戻ってくる。



「少しは楽しんで観れたか?」


「はいっス!! デュース先輩、強かったっス!!」


「なら良かった。それじゃ、帰るか。ウィズ、おいで」



デュース先輩のペット?のフクロウのウィズ君が飛び出してきて大きくなる。ウィズ君の背中にデュースくんと2人で乗って学園に帰る。



「前に乗ると自然とデュース先輩がハグしてくれるから役得っスね」


「アホなこと言ってると落っことすぞ」


「冗談っスよ」



目下に広がる絶景を見ながら私は大きく息を吸い込む。……なんだかデュースくんと決闘するリカルドが可哀そうに思えてきたなあ。


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