第12話 2周目の裏ボスと控室への訪問者


気が付けばあっと言う間に週末になり、リカルドとの決闘の日を迎えていた。


すっかり周囲の視線に慣れてしまったが、学園内はもっぱら俺とリカルド、そしてリオネの噂話で持ち切りになっている。


そもそも学園で公式に決闘が行われるのが約10年振り。しかも優等生と首席新入生が絡んだ三角関係が拗れての決闘である。そりゃ噂にもなるわな。……俺だけ場違い感が凄いとは思うが。


朝から学園内は活気に満ちており、いつの間にか屋台や露店まで出現している。



「それにしても、大げさだな。」


「楽しくていいじゃないっスか。……あ、この豚の串焼き美味しい。」


「なんで当然のように俺の控室にいるんだ?」



何故か俺の控室にいて、何故か露店で買ったであろう串焼きを食べるリオネが俺の呟きに応える。当事者のくせして一番イベントを楽しんでいるようだ。気楽なものである。



「リオはどこまでも他人事だな……そもそもの話、なんでこんな大事になってるんだ? 大講堂にわざわざ観客席を作って、教授陣は魔術で結界まで作ってるんだろ?」


「滅多にないことらしいっスからねぇ。あ、そう言えば先輩のオッズ、20倍だったんで私の全財産賭けておいたっス。これで私も億万長者の仲間入りっスね。」


「賭けまでやってのかよっ!!」



俺の絶叫をリオネが軽く笑って流す。てか、こんなことに全額賭けんなよ。…………いや、それにしても俺の人気低すぎない?オッズ20倍とかどんだけだよ。まあ一般の生徒からすれば平民で普通のモブである俺が貴族で優等生のリカルドに勝てるとは思わないか。



「はあ、こんなことなら……ん?」



その時、控え室のドアがノックされる。

こんな時に誰かと思って見ると、2人の少女が控室に入ってくる。


2人とも王立騎士学校アカデミーの制服を身に纏っているが、1人は小柄でスカートタイプの如何にもお嬢様といった雰囲気で、もう1人はスッとした長身にパンツタイプの制服を着ている。



「あっ、ユーリちゃんっス!!」


「リオネちゃん、やっぱりここにいた。あっ、初めまして…」



ユーリと呼ばれた少女が俺に視線を向ける。

小柄な体格と栗色の髪と新緑の瞳。なんというか、全体的にリスっぽい。


彼女のことは既にプロファイルしている。

ユーリ・ウェルへザード嬢。公爵家ウェルヘザード家のご令嬢にして、勇者と女子寮での同部屋に割当てられた少女。近い将来、勇者の仲間となって“翡翠姫”という名を世間に知らしめる優秀な魔術師。


そして、1周目の世界で俺は彼女を殺した、ことになっている。



「初めまして。ユーリ・ウェルヘザード嬢、ですね? デュース・ヘラルドです。お会いできて光栄です。以後、お見知りおきを」


「は、はい。よろしくお願いいたします。」



俺は膝を付いて彼女の手を取ると、にっこりと微笑む。彼女は少し驚いたような表情を浮かべるが、すぐに笑顔を返してくれる。



「デュース先輩、私の時と全然対応が違うっス!! ユーリちゃん、ズルいっスよ!!」


「麗しのご令嬢を無碍にはできないからね」


「う、羨ましいッス!!」



俺がわざわざ膝を付いて挨拶したことが、どうやら勇者様はご不満なようだ。まあ、お相手が公爵令嬢様だからこれくらいしとかないとな。…若干、リオネへの当てつけの意味もあったのは事実ではあるが。



「それで……えっと?」


「あ、私が紹介しますね。こちら、私の相棒バディになって頂くサリーさんです。」



そう言ってユーリ嬢が横に控える女性を紹介してくれる。それと同時に前に進み出た少女は、一見取っ付きづらい印象を抱かせるが、ニッコリとした笑顔を浮かべて俺に手を差し出す。



「はじめまして、君が噂のデュース君やんな? ウチのかわいい姫の親友を誑かしたヤツ言うから見に来たんやけど、案外真面目そうやん。おねーさん、期待外れやわ~」



話し方で随分と印象が変わるな。


俺は差し出された手と握手をしながら、彼女に微かな違和感も抱く。話し方はフランクだし、表情は笑顔だ。……ただ、なんというか、目が笑っていない感じがする。



「えーっと?……サリーさん、君って3年生だよな? 俺と会ったことあるか?」


「すれ違ったことくらいはあるんちゃうか? まあ、ウチもアンタのこと知らんかったし。あ、それとウチのことは呼び捨てでええよ。同学年なんやし」



そう言って目の前の少女は白銀の長髪をから覗くエメラルドグリーンの瞳で俺を見つめる。


……おかしい。そんな訳はない。俺は新入生を含め、王立騎士学校アカデミーに在籍する全ての生徒・職員のプロファイルをしている。つまり、俺の知らない人間などこの学園には存在しないのである。


その中で、今、俺の目の前に立つサリーという少女を、俺は知らない。そして、なにより、彼女からはどことなく強者の風格が漂っている。それこそ、“公爵家お抱えの暗殺者アサシン”のような雰囲気が。よっぽどリカルドより強そうだ。



「……そうか。なら、これからよろしく。あと2年の学生生活をお互いに楽しもう」


「せやな。ウチもアンタみたいな強そうなヤツがまだおって良かったわ。リカルドとの決闘も楽しみにしてんで」


「ははは、ユーリ嬢とサリーも観戦するなら頑張らないとな」


「まあ、余裕っスけどね!!」


「なんでリオの方が得意げなんだよ……そう言えば、2人は何しにここに来たんだ?」


「別に用があったわけやないよ。お姫様がお友達を探してて、ついでにアンタの顔も気になったから見に来ただけや。それに……ウチのお姫様がアンタのこと気になってたみたいやし」


「さっ、サリー!!」


「あはは、冗談やで〜。ほな、ウチらはおいとましますわ。試合、頑張ってな~」


「あっ、頑張ってくだしゃいっ!! あっ、えっと、失礼しましゅっ!!」



控室を出ていく2人の背中を見送って、俺とリオネの2人は部屋に残される。……あっという間に来て、あっという間に去っていったな。


それにしても……



「……2回噛んでたな」


「……2回嚙んだっスね、ユーリちゃん。相変わらずカワイイっス」



その時、角笛の低い音が聞こえてくる。


なんというか、古臭い。この後の流れも確認したが、本当に古臭い。


伝統を重んじていると言えば聞こえはいいが、そもそも決闘なんて文化自体が、もはやいにしえの代物である。まあ、この平和な時代に騎士という職業が残っているから、そんなものなのかもしれない。


……魔王が復活してその平和も終わるんだけどね



「んじゃ、行ってくっかあ」


「デュース先輩、ファイトっス~」


「ここにきてノリが軽いな」


「先輩もっスよ。めちゃめちゃ気が抜けてましたよ」


「そんなことないぞ」



さあ、決闘のお時間だ。

リカルドには悪いが、アカデミア勲章を頂戴するとしよう。



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