第13話 2周目の裏ボスと決闘、もしくは稽古


大講堂に特設された入場ゲートの前に立つと、反対側のゲートにいるリカルドの姿が見え、特大の歓声が聞こえてくる。



「両者、入場!!」



学園長からの号令に従い俺はゲートを通って会場に入場する。周囲を見渡せば観客席がいっぱいになっており、生徒以外の大人達も目に入る。……どうせ噂を聞きつけて見物に来た貴族連中だろう。



「本日の決闘に関して、その一切を学園長たる私、ユリウス・アルベラントが主宰する。また、本決闘の保証人として王立正教会より司教モンベール殿にお越し頂いた。そして我が生徒達よ、其方らもこの決闘の目撃者となる。よく観戦するように」



特設の観覧席の上でユリウス学園長とともに司教らしい坊主が一礼する。……司教ってことはそこそこ役職者じゃないか。こんなくだらない決闘の為にわざわざ王都から呼んできたのか。学園長、どんだけ気合入ってんだよ。


戦闘フィールドは50m四方の正方形で、教授陣の尽力のおかげで物理、魔法ともに結界が張られている。つまり、フィールド内であればどれだけ暴れても問題ないということだ。


さて、お楽しみの前にまずは面倒くさい儀式からだ。



「王立正教会司教のモンベール、確かにこの決闘の保証人を拝命した。これより、この決闘は神々が御覧じる正式な物となった。はそれでは、まずは発起人より宣誓を述べよ」



司教様が儀式用の燭台を掲げて何やら不思議な動きをしている。ぶつぶつと何かを言っているようだが、観客のざわめきで全く聞こえやしない。パイプオルガンでもあれば様になるのだけど、まあ儀式ってのはそんなもんなのかもしれない。


そんなことを思って見ていると、リカルドが一歩前に進んだ。



「天上12柱の神々に宣言する。これよりリカルド・アルファザードはデュース・ヘラルド殿とリオネ・メリュジーヌ嬢の相棒バディとなる権利を巡って決闘を行う。正々堂々と戦うことをここに誓う。」



……聞けば聞くほど決闘の原因がくだらないというか、なんだかなあという感じである。そもそもリオネの意志をガン無視しているのも本人からすれば釈然としないだろうし。


リカルド的には話を大きくして決闘という謂わば言い逃れのできない状況を作りたかったのかもしれない。とはいっても、大局観で見れば本来の運命シナリオでは勇者の相棒バディになるはずのリカルドから、俺がリオネを奪うための決闘とも言える。そういう意味では、これは避けられないことだったのかもしれない。


さて、今度は俺が宣誓をする番だ。



「……宣誓しよう。デュース・ヘラルドは決闘を受け、勝利の暁にはアカデミア勲章を譲り受ける。そのうえで決闘の意志が揺らがなければ、俺の篭手を拾い上げよ」




宣誓が終わって、俺はリカルドの方を見る。

視線が合った瞬間、思わず口角が上がってしまう。



――――儀式は大詰めだ。


俺は手に持っている鉄製の篭手をリカルドの方に投げる。

ガシャンという音を立てて篭手がリカルドの前に落下して転がる。



「貴殿との決闘、受けて立とう」



リカルドがそう言って落ちた篭手を拾い上げる。

これで儀式は終わりだ。さあ、戦いを始めよう。



▲ ▽ ▲



「決闘開始!!」



学園長の声が響き渡る。



「”エンチャント・マジック”、”エンチャント・スピード”。サラマンダーよ、悪しき者を祓いたまえ。”ファイア・ボム”」



最初に動いたのはリカルドだった。

あらかじめ詠唱をしていたのだろう。戦闘開始の合図とともに魔法陣が展開されてスイカ程度の大きさをした業火の火球が俺めがけて放たれる。学生にしてはなかなかの腕前だ。



「……いったん魔法なしで避けてみるか」



身体強化の魔法を使用しつつ右脚に力を込めてサイドステップをする。

さっきまで俺が立っていた場所を火球が通り過ぎていき、後方の壁が焼けこげる。



「まだまだ!!”エンチャント・スピード”。サラマンダーよ、悪しき者達を祓いたまえ。”ファイア・ボム・フォース”」



再びリカルドが魔法陣を展開して火球を放つ。

今度は4つの火球が放たれた。初っ端から俺相手に手加減をするとは良い度胸だ。



「その魔術はさっき見たぞ。もっとやれるだろ」


「なっ!! なんだと!!」



俺は軽く火球を避けながらリカルドを煽る。リカルドもリカルドで、すぐに乗っかってくる。チョロいかよ。まあ、すぐに決着がつくのも退屈だろうし、沢山の学生も見ている。せっかくだ、少しだけ稽古をつけてやろう。



「そのままじゃ一生俺には当てられないぞ。工夫をしないと」


「うるさい!!”エンチャント・コピー・フォース”。サラマンダーよ、悪しき者達を祓いたまえ。”ファイア・ボム・フォース”。これでどうだっ!!」



詠唱とともに、またまた魔法陣が展開される。今度は魔法陣が何層かに重なっている。

多重連弾ってやつだな。すぐにここまで対応できる魔術のセンスは買うが、努力の方向性が惜しい。


俺が殺到する16個の火球をやすやすと回避するとリカルドは驚いた表情を浮かべる。



「…火球が曲がったりして追随してきたら厄介だな~。なんだっけな~、”ホーミング”って属性だっけ? 図書館の本で読んだことがある気がするな~」


「くっ!! 舐めやがって!!」


「北の雄アルファザード家の嫡子殿はこの程度じゃないだろう?」


「あんまり俺を怒らせるなよっ!!”エンチャント・ホーミング”。サラマンダーよ、悪しき者達を祓いたまえ。”ファイア・ボム・フィフス”」



新たに放たれた5つの火球が一直線に俺のもとへ飛来する。

俺がさっきまでのように横に回避すると、火球もそれに合わせて方向を変化させた。……やればできるじゃないか。遠距離攻撃はこれが出来るか、出来ないかで大きく効果が変わる。



「やっぱ、センスは伊達じゃねーな!! そろそろ防御しないとな。”イージス”!!」



俺の手元で盾の魔術が展開され5つの火球を防ぎきる。

さて、本当の稽古はまだまだこれからだ。そんなことを思いながらリカルドを見れば、重なり合った魔法陣が展開されている。ざっと20個ほどの火球か。面白い。



「これなら防げまいっ!! ”エンチャント・コピー・フォース”、”エンチャント・ホーミング”。サラマンダーよ、悪しき者達を祓いたまえ。”ファイア・ボム・フィフス”」


「成長が速くて助かる。”ミサイル・イージス”!!」



リカルドの火球とほぼ同時に盾の矢が放たれて俺に迫る火球と衝突する。

爆音とともに魔法の盾は全ての火球を相殺して砂埃を巻き上げる。


これでお互いの視界が塞がれた。さて、リカルドはどう出る?

魔視を発動させると、どうやらリカルドはこの機に接近を試みているようだ。純粋な魔法の撃ち合いじゃ勝てないと判断したのだろう。良い選択だ。



「”エクスパンド・パリィ”!!」


「ぐっ!!」


「そう簡単に近づけると思うなよ。」



範囲展開した反射魔法にぶつかってリカルドが後方に飛ばされる。

そろそろ始末をつけよう。観客も十分楽しめただろう。



「それじゃ、漢らしく拳で決着をつけよう。殺しはしないから、存分に戦おう」


「貴様、なにを……」


「行くぞ、”ファイア・フィスト”」


炎を纏った拳がリカルドの頬に直撃し、真横にリカルドが吹っ飛んでいく。

フィールドの端の壁まで吹っ飛んだリカルドが辛うじて立ち上がる。



「結構強めに殴ったんだが…立てんのか。感心した。」


「まだまだ!!」


「その意気だ。さあ、思いっきり殴り合おう」



そこからはさっきまでとは打って変わってインファイトが始まった。

俺とリカルドは互いに拳を交え、蹴り合う。とは言っても、すぐに状況は決する。


数分後、フィールドには倒れて気絶したリカルドとそれを見下ろす俺が立っていた。

予想外の結末に決闘を観戦していた観客は静まり返って、ただ無言で俺達に視線を送る。



「しょ、勝者、デュース・ヘラ…」


「待てっ!!」



俺は学園長の勝者宣言を遮る。

倒れたリカルドの胸元に光るアカデミア勲章が怪しく輝く。


緑の光を発する勲章の輝きが徐々に増していき、最終的にフィールドを覆うほどの眩い光を発する。そして、強い光が収まった時、観客たちが一斉にどよめき出す。



……そこには一匹の巨大な獅子がいた。


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