第14話 2周目の裏ボスとバーバリライオン



≪Gyaaaaaaaaaqa!!≫



フィールドの中央で巨大な獅子が咆哮を上げる。

観客たちは突然の出来事に騒然とし、悲鳴が周囲から聞こえてくる。



「ふふっ、ははははっ!!!!」



そんな事態の中で、俺は声を上げて笑ってしまう。


直感的に分かる。目の前にいる、獅子コイツこそが俺が乗り越えなきゃいけないものだ。

運命シナリオの抑止力。それが俺の前に出現している物の本質だ。リカルドが勝利し、彼がリオネの相棒バディとして学園生活が進むという定めへと結末を引き戻す世界の強制力。それが顕現した姿、それがこの獅子である。



「やってやろうじゃねえか!!」


「デュース先輩っ!! ファイトっス!!」



考えるよりも先に、俺は走り出していた。

観客席からリオネの声が聞こえる。彼女の声に自身の力が満たされるのを感じながら俺は、久々に沸き上がる勝利への渇望を胸に宿すのだった。



▽ ▲ ▽



「まずは小手調べだ。―――クロックワークス・フローズン」


≪GAaa......Gyaaaaaaaaoooooon!!≫



氷が軋む音がして巨大な獅子が動きを止める……が、すぐに何かが割れるような音とともに再び獅子が咆哮を上げる。流石に時間系魔法への耐性はあるようだ。悪くない。


ならば、今度は力比べと行こうじゃないか。



「なかなか良いじゃないか。少しは楽しめそうだな。それならば、こんなのはどうだ? ――――ウッド・ハンド、そして、スルト・アーム!! 」


≪Guuuuaaaaaaaaaa!!≫



地響きとともに巨大な2本の腕が出現する。

片方は炎の巨神の、もう片方は神木の根でできた腕が獅子に掴みかかろうと迫り、獅子もそれを受け止めるように前足を上げて2本の腕に体当たりをする。さあ、どうなるか。



「……ほう。受け止めるか。驚いた。」


≪Guuuuu……GYAAAAAAAAAAAA!!≫



なんと獅子は吹き飛ばされることなく2本の腕を受け止めた。そして緑色の炎を身に纏うと、炎を2本の腕に放出して燃やし尽くしてしまう。……ダメだ、口角が上がるのを抑えられない。これだけの相手と戦うのは本当に久しぶりだ。



「ふふふ……いやはや、君を甘く見ていたようだ。この程度が俺の本気と思われたくないから、少しだけ本気を出そうじゃないか。こんなのはどうだい? ――――アベンジャーズ・レイジランス」


≪Guuuuaaaaaaaaaa!!≫



業火が燃え盛る8本の槍が真下から突き出して獅子を貫く。


苦痛の叫びをあげた獅子が、俺に向かって駆けてくる。防戦一方を打開したいらしい。ダメージを受けているだろうが、良い判断だ。にしても流石、足も速いな。



≪Gyaaaa!!≫


「先輩っ!!」


「悪いが攻撃を受けてやるつもりはないぞ。――ランドシュリンク」


≪Gya⁉≫



俺めがけて振り下ろされた鋭い爪を縮地で移動して避ける。

ははは、驚いてる、驚いてる。それにしても、今、リオネの声が聞こえたな。


周囲を見ると、いつの間に避難を済ましたのか教授陣と司祭だけが観客席に残っている。そして何故かリオネだけは残って学園長の横でちゃっかり俺と獅子の戦闘を見ている。……特等席じゃないっスか。



「かわいい後輩が見てるんだ、カッコ悪いところは見せられないな。あと、先輩として、できるだけ沢山の魔法を見せてやろう。それと、後輩ちゃんが俺の心配が出来ないように格の違いを見せてやらないとな。ってことで、”ストリング・アイビー”」


≪Gyaaaa!!≫



詠唱とともに俺の足元から無数のツタが生え始めると、触手のように獅子の脚にまとわりついていく。獅子も負けじと脚を振り上げるが、無意味だ。構造上、君が全ての脚を浮かせることが出来なければ、その間にツタは全ての脚にまとわりついて君を動けなくする。


さあ、もう身動きはできないだろう。終わりにしようか。



「まあまあ楽しめたかな。せめてもの誠意で、この魔法を餞別に贈ろう。――――”ステラ・カデーレ”」



ステラ・カデーレ。通称”銀河堕とし”。それは禁忌の魔法。俺が別の世界線で勇者を殺した魔法。


戦場が漆黒と無数の煌めきの魔術で塗りつぶされる。全てを呑み込んだ魔法の後には、巨大な獅子の屍だけが残った。



「さようなら、偉大なる獅子バーバリ・ライオンよ。これで運命シナリオの抑止力は膝を付き、俺達は解き放たれた。」



そっと俺が斃れた獅子に触れる。

その刹那、ガラスが割れるような音が鳴り響き、獅子が光の粒子に姿を変える。


光の粒のなかで、ふわっと浮き上がったアカデミア勲章を掴み取る。



キーの取得が確認されました〙

〘新規エリアのロックが解除されます〙



〘エリア:地下魔王城へのアクセス権が解放されました〙

〘エリア:地下魔王城の支配権が貴方へ譲渡されました〙

〘部下:魔王ダリアおよび魔王軍が部下へと復帰しました〙




……なんだこれ。


突然表示されたポップアップが俺の視界を奪う。

なんか物凄く気になることが書かれている。ロック解除?ってことは、中庭の扉が開くってことか?ヤバい、今すぐ確認しに行きたい。てか、支配権の譲渡って書き方的に当然、元々の魔王城の主もいるってことだよな?



「デュースせんぱあぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!!!」


「うおっ、リオネか」


「先輩、凄かったっス!!」



その時、観客席にいたはずのリオネが駆け寄ってきて俺に抱き着いてくる。

不意のことだったから避けずに受け止めたが、教授陣が見ているぞ、この問題児め。



「あんなにいっぱい魔法使えるなんて知らなかったっス!!さすがっスね!!」


「お、おう。ありがとな。」


「それに、それに!!めっちゃカッコ良かったっス!!」


「そうか、そうか。分かったから、離れてくんない?」


「いや、離れないっス!!」


「いや、離れて? めっちゃ先生方見てるよ?」


「い~や~だ~」



俺は無理やりリオネを引き剥がそうと悪戦苦闘する。


いつの間にか戦闘終了を察した生徒達が大講堂に戻ってき始める。……マズい。この状況をみられるのは非常にマズいことになる。ってか、リカルドの奴はどうなったんだっけ?


あっ、フィールドの端っこで伸びてる。あぶね、危うく銀河堕としで巻き添えにするとこだった。



「先輩、もう手遅れっス」


「へ?」


「もう、ばっちりみんなに見られてるっスよ?」



気付けば観客席には生徒達で埋まっており、俺に囁きかけるリオネに視線が集まっている。

そして、リオネは小悪魔のような笑みを浮かべる。まるで俺を逃がさないと言うかのように。


リオネによる再びのハグ。そして湧き上がる生徒たちの歓声と拍手。


こうして無事(?)に決闘は終了し、俺はリオネの相棒バディとなった。もはや、なぜ相棒選択程度の問題でこんな大事になったのかは分からないが、もう受け入れるしかない。



そして後日、何故か俺は魔法騎士特待生として生徒会委員に推薦されることになる。しかも、ついでに優秀ってことリオネも一緒に。って、いや、マジでなんで?

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