第15話 2周目の裏ボスと妹(魔王)との再会


「……よし、誰もいないな。」



決闘の興奮も冷めた深夜、俺はひっそりと中庭に足を運ぶ。獅子との戦闘終了後に流れたメッセージの確認をしなければいけない。


一時は俺が不用意に起こした爆音で警備が付いていた中庭も、今は誰の目もない。俺は易々と石碑の裏に回り込むと、土で隠された地下に繋がる蓋をどかして階段を降りる。……うん、問題なさそうだ。


俺はゆっくりと封印され扉に手を当てて、そっと魔力を流し込む。



「これでどうだ……」



数秒のち、ガチャリという軋んだ音とともに扉が開かれる。


それと同時に、俺のなかで失っていた何かが戻ってくるような感覚に襲われる。沸き上がってくる全能感にも似た感情を抑えながら、俺は扉の先に続く階段をさらに下っていく。構造が変わっていなければ、この階段の先は玉座の間の裏側へと繋がっているはずだ。


石畳の階段を打ち鳴らす踵の音が30回程を数えた時、視界が開けて玉座の間が姿を現す。……体感ではつい数週間前にここで勇者に止めを刺したのだが、それでもどこか懐かしい感覚がする。


そして、思った通りというか、騒がしい足音が聞こえてくる。


勢いよく部屋の扉が開かれたかと思えば、大きな角を生やした少女が俺に向かって一目散に駆け寄ってくる。……これは腰をいわさないように受け身の態勢を取った方が良いな。



「あああああああああにいいいいいいいいいいいじゃあああああああああ!!!!!」


「ぐふっう!!」


「兄者ぁ!!会いたかったです!!!!」


「お、おう。ありがとな。でも、角が刺さってますよ、魔王様」


「これは兄者への罰です!!どれだけ私達を心配させたと思ってるんですか!!」


「さすが魔王。容赦ないな……」



いきなり俺に抱き着いてきた小柄な身体と大角がアンバランスな少女。彼女こそこの世界ゲームのラスボスとなる人物、魔王ヤエス・マグウェル・ダリアその人である。そして、彼女は俺の生き別れの妹だ。


これは1周目に知ったことだが、人間との子供で魔族の証である角がなかった俺を伝統的な魔王であった親父は田舎の孤児院に捨てたそうだ。そして、そんな親父を打倒して魔王に成り上がったのが、俺の目の前に立つ妹(魔王)のダリアだった。……1周目の時はいきなり飛びつかれて思わず反撃したまま何が何だか分からなくて彼女を泣かしてしまった。



「本当に、本当に心配してたんですからっ!!」


「あはは、ダリアはやさしいね。ありがとう」


「ふふ、兄者、いい匂いがする」



俺は抱き着いて離れない妹の頭をゆっくりと撫でる。


嬉しそうにはにかむ異母妹を受け止めながら俺はゆっくりと玉座に腰掛ける。これまで魔王としての責務を果たし続けてきた彼女だ。俺は俺で、彼女が唯一甘えてもいい存在として、兄の責務を果たそうじゃないか。……まあ、開け放たれた扉の向こうで魔王軍の幹部が部屋に入るタイミングを伺っているのが丸分かりなんだけどね。



「ダリア、そろそろ良いかな?」


「いやです」


「そうは言っても、幹部のみんなが入りづらいんじゃないかな?」


「なら一緒に玉座に座りましょう。兄者の膝の上に座ります」


「あ~……まあ、いっか。みんな、入って大丈夫だぞ」


「「はっ!!」」



俺が声を掛けると、9人の魔王軍幹部一同が一斉に俺達に膝を付く。

……この感じもなんか懐かしいな。うん、当然だけど、みんな元気そうだ。


1周目は彼ら、彼女らもまた勇者との戦いに身を投じていくことになる。



「みんな、久しぶりだね。イズ、君も元気そうでよかった」


「はっ!! デュース様のご立派なお姿、我々幹部一同、感動しております」


「うん、君達には別れも言えずに離れてしまったからね。まあ、妹には敵わないけど、またお世話になるよ。よろしく」


「「はっ!!」」



最初っから幹部達が俺に下賜づく理由。それは俺の金色の瞳と額に刻まれた魔痣だ。

この2つに加えて大角の合わせて3つ。これが歴代魔王に引き継がれた特徴であり、俺とダリアはこの特徴を2人で分け合っている。つまり、俺は魔王眼と魔痣を、ダリアは魔王眼と大角を宿している。


本当なら俺も魔王の子である証がある訳だが、親父としては人間の娘と子供を作ったというスキャンダルを隠したかったのだろう。そんなこんなで俺達兄妹は袂を分かたれたのである。


それにしても、こっからどうしよ。

何も考えずにここまで来ちゃった感があるが、このまま魔王城を復活させる訳にはいかない。



「…………とりあえず、再会を祝して久々にみんなで飲むか?」


「そうですね、兄者!! 飲みましょう、祝いましょう!!」



ダリアの一声で宴の開催が決定される。

まあ、ひとまずは飲もう。


せっかくの再会だ。それに、俺には1周目で彼らを救いきれなかった罪悪感もある。

せめて今は、今だけでも、みんなで飲んで、語って、騒ごうじゃないか。



▽ ▲ ▽



「……あたま痛ってえぇ」


「デュース先輩?どうかしたっスか?」


「いや、なんでもない」



派手に飲み過ぎた。とは言っても騒いではないけど。


今は1・3年生合同の授業の真っ最中。

具体的には実技の時間だが、ちゃっちゃと課題を済ませた俺とリオネは演習場の端でのんびりしている。


まあ、教授陣の前であんだけ暴れた効果か、特にお咎めもない。



「それにしても、どうすっかなあ……」


「なにがっスか?」


「人生」


「何かと思ったら、そんなことっスか。安心してください、デュース先輩の人生は私が責任を持って幸せにするっスよ」


「それもそうかもな」


「へぁ?」



適当な会話を交わしながら俺はぼんやりと課題に勤しむ生徒達で溢れる演習場を眺める。何故かリオネは横で固まっているが、まあ放っておけばそのうち復活するだろ。……それよりも、これからどうすべきかだ。


昨晩の飲み会のなかでいくつか分かったことがある。


1つは地下魔王城にいる魔族は先代勇者の封印で地上には出てこれないこと。そして、今すぐには魔王城を復活させることができないこと。これに関しては、俺個人としては世界ゲーム運命シナリオを不用意に進めるのは嫌だから願ったり叶ったりの状況だ。


もう1つ、どうやら地下の魔王城は"この世界ゲームから分離された別の空間である"こと。そして、その空間の支配者が俺になっていること。そもそもシステムメッセージの"分離拡張空間"というワードが気になっていたが、つまりは、そういうことのようだ。


……とするならば、この分離拡張空間は世界ゲーム終末エンディングの後も存続し続ける可能性がある。もしそうなのであれば、終末後の世界の存続のための重要なカギになりうる。




「……せんぱーい?」


「ん? ああ、すまん。考え事をしてた」


「難しい顔をしてるから何かと思ったっス。ほら、ユーリちゃんたちが来るっスよ」



リオネの声で俺は現実に引き戻される。

顔を上げると課題を終えてこちらに近づいてくるユーリ嬢とサリーが見えた。


ともかく、ひとまずは学生と地下魔王城の主の2重生活を送るしかないようだ。

世界存続の希望が見えただけでも1周目からの大きな進歩といえる。まあ、せいぜい前回と同じ結果にならないように頑張ろう。


……俺の人生は隣でアホみたいに笑う勇者様が保証してくれるみたいだし。



「なんスか? いきなり見てきて。従順でかわいい後輩に惚れ直したっスか?」


「うるせ。そもそも惚れてすらねえわ」





(第1章「分離拡張空間:地下魔王城」完)

―――――――――あとがき―――――――――


これにて第1章は完結です!!

ここまで楽しんで頂けたでしょうか?


ストーリーの続きが気になる方は、この機会にぜひ、画面下の★★★で評価して頂けると幸いです‼


まったく毛色の違う作品も書いています。

良ければそちらもご一読いただけると作者が喜びます。


【#異世界V】ド底辺Vtuberの俺、気づけば異世界に飛ばされてた件。仕方なく異世界から配信をしているだけなのに、有名女性Vtuber達からのコラボ依頼が舞い込むのは何故ですか?

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それでは引き続き物語をお楽しみいただけると幸いです!!

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