第2章 分離拡張空間:地底龍ダンジョン

第16話 2周目の裏ボスと生徒会長


「2人ともお疲れさん」


「お疲れ様でしゅ!!」



課題を終えたユーリ嬢とサリーが声を掛けてくる。今日も今日とてユーリ嬢は緊張気味だ。


……たぶん嫌われている訳ではないと思うが、威圧感を感じてるなら申し訳ないな。まあ噛んでるのもリスっぽくてかわいいから良いか。



「ふあ~、めっちゃ疲れたわ~。やっぱ、デュース君もリオネちゃんもさすがやな。お姉さん敵わへんわ」



嘘である。


今日の演習中も注意して観察していたが、サリーは明らかに手を抜いている。まあ、あからさまに敵対しない限りは追及はしないが、それでも気にはしておいた方がいいだろう。



「そうか? まあ、そう言うことにしとくか。それにしてもユーリ嬢は成長著しいな」


「せやろ~。ウチのお姫様のリオネちゃんに負けんくらい才能あるで」


「さ、サリーさんっ、恥ずかしいです……」


「いやいや、ホントに。リカルドの奴よりもよっぽど魔法の才能あるぞ」


「だってさ、お姫様。褒められてよかったやん」


「えへへ」



サリーがユーリ嬢に微笑みかけ、ユーリ嬢も嬉しそうにはにかむ。


恐らくこの2人は主従関係なんだろうけど、もしかしたら互いに信頼できる友人としてそれ以上の関係なのかもしれない。


……まあ、少なくともユーリ嬢の魔法の才能は勇者の仲間になるくらいには本物な訳で、それは純粋に誇っていいと思う。



「私はどうっスか!? 才能あるっスか、先輩!!」


「どうだろうな。みんなに褒められるくらいにはあるんじゃないか?」


「"みんな”なんてどうでもいいっス!! 私はデュース先輩に褒めて欲しいんス!!」


「はいはい凄い凄い。リオの才能は世界一」


「でへへ~」


「あんたらホンマに仲ええな。生徒会まで一緒になったんやろ?……って、どしたん?そんな嫌そうな顔して、え、ウチなんか変なこと言った?」



サリーの口から”生徒会”というワードが発された瞬間、俺とリオネの表情が曇る。突然の変化に珍しく慌てはじめるサリーを尻目に、俺達は揃って溜息をつく。……なんというか、この学園の生徒会ってとにかく面倒そうなんだよなあ。



「ええやん。生徒会いうたら、この学園の生徒の憧れやで?」


「いや、貴族のご子息からすりゃ憧れだろうけど、俺もリオも平民出身だぞ? 別に叙爵される訳でもないから単純に嫉妬だの僻みだのの的になるだけだよ。つい最近にその謎の嫉妬心で決闘までさせられたんだから」


「あーたしかに。まあ、ファイトやで」



どうやらサリーにも心当たりがあるのだろう。

彼女は微妙な表情を浮かべて誤魔化す。その時、横で俺達の話を聞いていたユーリ嬢が口を開く。



「生徒会といえば会長さんにお二人ご紹介しましょうか?」


「あれ? ユーリちゃんってコルレ会長とお知り合いっスか?」


「うん。オルタフェザード公爵様とお父様は仲が良いから、小さい頃からコルレお姉様に遊んでもらってたの。王立騎士学校アカデミーに入学するときにお祝いのお手紙を貰ったから、お礼に行かなきゃと思ってたから」


「わーお、貴族様の社交って感じっスね。ユーリちゃん、大物っス!!」


「やめてよ、リオネちゃん」



そう言ってユーリ嬢は恥ずかしそうに頬を赤らめる。……ユーリ嬢には悪いことをしたかもしれない。


普段は圧倒的に平民の俺が少数派だったから気にしなかったが、俺達4人の中ではユーリ嬢だけが貴族の血統だ。もしかしたら俺のさっきの発言で不快にさせていたら申し訳ない。ただでさえ気の小さそうな女の子だ、変に気を遣わせないように気を付けなければ。



「そうしたら、ユーリ嬢さえ良ければ、ぜひ俺達を会長に紹介してくれないかな?」


「はいっ! もちろんです!」


「良かった。ありがとう」


「あの、えっと…………」



俺が感謝を述べると、急にユーリ嬢がもじもじとしながら俺に視線を送ってくる。上目遣いと合わさって怯える小リスにしか見えない。そういう意味ではリオネは自分のサイズを理解していない大型犬ってとこか。……そんなことは置いておいて今は目の前のユーリ嬢だ。



「どうかした?」


「あっ、あの……私のことも”ユーリ”って呼んで欲しいです!! デュースせんぴゃい……あうう」


「なっ!! ユーリちゃん!!」


「……分かったよ、ユーリ。これからはそう呼ばせてもらうね」


「はいっ!!」


「偉いで、お嬢!! よう言った!!」



ユーリの突然の発言に俺達は三者三様の反応を示した。

驚愕の表情のリオネ、微笑ましさを隠せない俺、そして娘の成長を喜ぶ勢いのサリー。



《~~~♪》



その時、授業の終了を知らせる鐘の音が演習場に鳴り響く。


俺達4人も教師の指示に従って演習場の中央に向かう。そんなこんなで授業終わって俺達は各々の教室へと戻る。…………結局最後のやり取りは何だったんだ?まあ、みんな呼び捨てでいいなら楽だし良いか。



▽ ▲ ▽



放課後、俺とリオネはユーリに連れられて生徒会室に向かう。



「それで、コルレ会長ってどんな人っスか?」


「えっと、優しい人って印象かな? 私が知ってるのは王立騎士学校アカデミーに入る前だけど、その頃から聡明で大人びた綺麗な人だったよ」


「そうなんスね~。なんか隙がなさそうな人っスね。要注意っス」


「まあ、ここの生徒会長ってのはそういうもんだろ。良家の出身とはいえ3年生の時からここのトップを張ってんだ。そりゃ伝説の一つや二つ持っててもおかしくない人だ」


「学年的にはデュース先輩が1年生の時の3年生っスよね」


「そうだな。まあ、直接話したことはないけど」



嘘である。


コルレ・オルタフェザード。

王立騎士学校アカデミー在学中の弱冠19歳にして5大公爵家の一角たるオルタフェザード家の当主となり、麗しの公爵姫として王国内でその辣腕を振るうことになる彼女と俺は、1周目では協力関係にあった。



「……できれば関わりたくなかったな」


「ん? なんか言ったっスか?」


「いや、なんでもない」



彼女には麗しの公爵姫としての顔とは別の、裏の顔がある。


彼女の出身であるオルタフェザード家にはまことしやかに語られる噂がある。それはオルタフェザード家は裏街の支配者であり、影から王国を支配している一族である、という噂だ。まあ、裏街の惨状とはかけ離れた場所にいる公爵家ビック・ファミリーが支配者だなんて普通は信じがたい話だが、これは事実である。



「ユーリもコルレ会長と会うのは久し振りなのか?」


「そ、そうです……でも、たまにお手紙は交換してました!!」


「そうか……なんというか、会長とは程よい距離感が大切かもな?」


「?」



ユーリの不思議そうな、純真な視線が痛い。

コルレ・オルタフェザード嬢には才能があり、そして彼女は冷徹な人物でもあった。


魔王復活の混乱に乗じて武器販売やら傭兵調達やらで大稼ぎしたみたいだし、敵対する貴族を暗殺したり失脚させたりと大忙しだったようだ。そして、俺は裏でそれに協力をしていた。まあ、彼女としては魔王であるダリアと取引をしていると思ってたようだが。



「おっ、そろそろっスね」


「会長か。まさか学園生活で関わることになるとはな」


「なに言ってんスか、先輩。私達、生徒会に入るんスからね」


「デュース先輩も、リオネちゃんも頑張ってね!!」



なんとか断れねえかな。正直、彼女の下につくのは怖さがある。最悪は地下の魔王城に引きこもれば良いんだけど、それだと勇者の監視が難しくなってしまう。



「失礼いたします。」



ノックをしてユーリが生徒会室の扉を開く。


さて、生徒会長サマとのご対面だ。まあ、なるようになんだろ。

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