第17話 2周目の裏ボスと差し向けられた刺客



「よく来たね。待っていたよ。」



俺達が生徒会室に入るとコルレ会長が不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。


この世界に珍しい黒髪に紅い瞳。パンツスタイルの女子生徒用制服の襟にはいくつもの勲章が煌めいている。その一つには、先日俺がリカルドから奪ったアカデミア勲章もある。


まるで俺達が来るのを事前に知っていたかのような雰囲気だな。コルレ会長は妖しげな微笑みを浮かべて佇む。


会長以外にも執行部の面々も勢ぞろいだ。ひしめく大貴族のご子息達の視線が俺達3人に集中する。その中にはリカルドの姿もある。



「お久しぶりです。コルレ会長」


「やあ、ユーリ。久しぶりだね。元気にしていたかい?」


「はい。お手紙も、ありがとうございました」


「うん。せっかく同じ学び舎で学ぶことになったんだ。たった1年だけではあるけど一緒に楽しい時間を過ごそう、ユーリ。それで、今日は後ろの2人を紹介しに来てくれたのかい?」



いわゆる貴族っぽい会話をしつつ、コルレ会長の視線が俺達に向けられる。


……流石は辣腕の公爵令嬢。醸し出す風格が違う。そこいらの貴族のご子息様が敵う相手ではないだろう。とは言っても、俺もリオネも平民出身だし、どちらも肝が据わっているからあんま関係ないんけど。



「はい。こちら、私のルームメイトのリオネさんと、リオネさんの相棒バディであるデュース先輩です。コルレ会長が生徒会に推薦されたということで、お連れしました」


「リオネ君はユーリと同室だったんだね。これも何かの縁だ。ユーリをよろしくね」


「ハイっス!! ユーリちゃんは私の親友っスよ!!」


「ふふ。君は元気が良いね、リオネ君」


「ハイっス!!」



流石はリオネ。空気を読まない元気のお押し売りはこういう時に助かる。俺だとこうはいかないな。


さて、会長の視線がこっちに来た。そして何故かずっとリカルドに睨まれている。うーん、なんでだろ。そんなに恨まれるような原因が思い浮かばないな〜。ホントナンデダロウ……



「ふふ、そして君が噂のデュース君か。生意気なウチの後輩にお灸をすえてくれたみたいで感謝しているよ。決闘も観させてもらったけど、今の3年生の中にこんなに強い子がいるとは思わなかったよ」


「ありがとうございます。辛うじて勝利することが出来ました」


「謙遜しなくていいよ。私としては本当はリカルドがユーリの相棒バディになって欲しかったんだけど、ウチの元相棒リカルドが迷惑を掛けたね」


「いえいえ、勝負は時の運です。今更ですがリカルド殿はコルレ会長とは相棒バディでしたね。今回は失礼しました」



とにかく、この人とは深くは関わりたくない。

なるべく上辺だけの会話を意識しよう。作戦名のらりくらり、だ。



「ふふふ、君はなかなかに慎重な性格のようだね。そんな君には答えにくい質問をしても良いかな?」


「……なんでしょうか?」


「デュース君。リオネ君ともども私の配下にならないかい?」



コルレ会長の一言に執行部の面々の顔色が変わる。


5大公爵家の一角を担うオルタフェザード家の次期当主が直接のスカウトだ。しかも、これまで付き従ってきた貴族を差し置いて平民の俺達に声を掛けたのだ。心中穏やかではないだろう。……クソが、どうせそんなこったろうと思ってたよ。めんどくせーな。



「……それは生徒会に入れ、ということでしょうか?」


「それもあるが、それだけじゃない。つまりは我がオルタフェザード家の家臣にならないか、という意図で聞いている。君も分かって誤魔化したんだろう」


「そうですか。それでは……生徒会には・・入らせていただきましょう」


「なっ!! デュース、正気かっ!?」


「リカルド、落ち着かないか。それでは、リオネ君はどうだい?」


「私はデュース先輩に付いていくっス!!」



さらに執行部の奴らがざわめく。うるせーな、マジで。


平民風情が公爵家の誘いを断った。しかも2人も。騒ぎたくなる気持ちも分からんでもないが、そんなことより俺は早くここから出ていきたくて仕方がない。とにかくこの空間は居心地が悪い。



「……そうか、分かった。なら1年間、生徒会のメンバーとしてよろしく頼むよ。まあ、この1年で気が変わったら何時でも行ってくれ。オルタフェザード家の臣下として迎え入れよう」


「寛大な処置、ありがとうございます。」


「まあ、リカルドの話からそんな気はしていたよ。リオネ君も、よろしくね」


「ハイっス!! それでは、失礼しましたっス!!」


「うん、下がって良いよ。それでは、また明日」



俺達は深々とお辞儀をして生徒会室を後にする。

外は既に陽が沈み始めていた。別に長時間いたわけではないが、どっと疲れた気がする。……これからの活動が思いやられるな、マジで。



「なんか、疲れたっス」


「そうだね、リオネちゃん。私も緊張したよ~」


「ユーリちゃんも疲れたっスか? なら2人でゆっくりお風呂っスね!!」


「……」


「先輩、私達の風呂、想像したっスか?」


「してないわっ!! 2人とも寮まで送ってってやるから、さっさと戻るぞ」


「先輩が送ってくれるなんて珍しいっス。なんの気まぐれっスか?」


「うるせ。ほら、行くぞ」



俺はリオネとユーリを軽くせかしつつ女子寮の入口まで送っていく。軽口を交わしながら歩けば、すぐに女子寮の前に着く。



「ほい、それじゃまた明日」


「えー、もうっスか? 私達の部屋、気にならないっスか?


「リオネちゃんっ!?」


「はいはい、気になる、気になる。んじゃ、おやすみ~」


「ちぇ、先輩、ツれないっス。おやすみっス」


「おやすみなさい、デュース先輩」


「はいはい。じゃあな」



俺は2人に軽く手を振って女子寮を後にする。

向かうのは男子寮、ではなく校舎裏の旧校舎跡地。


もう外は真っ暗だし、向こうさんもちょうどいいだろ。



▼ △ ▼



「……もういいだろ。出て来いよ」



誰もいない旧校舎を月明かりだけが照らしている。


俺があえて聞こえるように声を出すと、1人の少女が姿を現す。素顔は隠されており、手には投擲用のナイフが数本ずつ握られている。……要するに刺客のお出ましだ。



「殺意高い恰好の割には仕掛けてこなかったな」


「…………」


「答えが返ってくるとは思ってないさ。てか、わざとバレるように追跡してたろ。


「…………」


「答えるつもりはないか。……それにしても、コルレ嬢も見切りが速いな。まあ、王立騎士学校アカデミーは自分の庭と思ってんだろうけど」


「…………」



無言でナイフが投擲され、俺はそれを躱す。

さっそく攻撃とは、機微が分かっていないな。そもそも会話を楽しむつもりがないのか、それともコルレ嬢の名前を出したからなのか。どっちでもいいけど。



「それで? 君の忠誠心はどこにあるんだ? 」


「…………」


「言ってる意味が分からないか? 君の心はユーリ嬢とコルレ嬢のどちらにあるかを聞いてるんだよ、サリー。俺が君を警戒していない訳ないのは分かってただろ?」


「…………」



今度は無言で魔法が放たれる。

瘴気を纏った尖った魔力が俺を捉えようとして、イージスで相殺される。カースドピアかな?殺意高いな。


……会話は戦闘後のお楽しみってことで。


まさか同じ週に2回も同級生と戦うことになるとは思わなかったが、まあそんなこともあるだろう。ひとまず、目の前の戦闘を楽しもうじゃないか。


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