第18話 2周目の裏ボスと似た境遇の同級生


「ミサイル・イージス」



勢いよく飛び出した盾の魔法がサリーのカースドピアを相殺する。戦闘開始から数十分、サリーの攻撃を俺が完封し続ける状況が続く。


とはいっても魔法はもちろん投擲にナイフでの肉弾戦とサリーの戦闘能力は思っていたよりも正直かなり高かった。まあ、高いというよりは暗殺技術が極まっている、という印象だけど。



「サリー、俺の獅子との戦闘は見てたろ。勝てると思ってるのか、それとも死ぬ気か?」


「…………」


「だんまりか。ユーリが悲しむぞ」


「…………」



サリーの放つ魔法をイージスで防ぎつつ、俺は黒梟魔杖のウィズを呼び寄せる。杖に姿を変えたウィズを握り、地面を一突きする。……そろそろ状況を変えないとな。



「サーチ・アクセル」



捜索魔法の進化系である魔法の発動によって杖の先端を中心に同心円状に周囲の全ての構造物が情報として脳に流れ込んでくる。…………見つけた、そこか。


俺はゆっくりと人差し指をサリーに向ける。



「カースドピア」



呪いを込めた魔弾はサリーを掠め、その奥にいたカラスを射抜く。大丈夫とは思っていたが、サリーが避けてくれてよかった。


当然サリーも俺が何を撃ち落としたか分かってるはずだ。



「で、もういいだろ。喋ろうぜ、サリー」


「…………さすがやな。完封されたんは初めてやわ」


「俺もこんなに強い同級生がいたなんて知らなかったよ」


「同級生、ね」


「訓練を受けたのはオルタフェザードの方か?」


「ちゃうちゃう、ウェルヘザードや」


「そうか。さすが公爵家、家臣の層も厚いな。それでサリー、もう一回聞くよ。君の忠誠心は誰に捧げているんだ。ウェルヘザードか、オルタフェザードか」


「ウチの忠誠は……」



サリーは少しだけ躊躇した表情を浮かべる。そりゃ躊躇するか。どこに目や耳があるか分かったもんじゃないからな。まとめて異空間に呑み込んじまうか。


……攻撃系以外の特級魔法を使うのも久々かもしれない。



「なっ!?」



俺が指を鳴らすと真っ白な空間が俺達を呑み込む。ここは時間の流れすらも隔絶された異空間。本来は世界ごと異空間に持っていくことで世界を存続させようとして開発した特別な魔法。まあ結局は規模がデカすぎて無理だったけど。



「ここなら誰の手も、目も、耳も届かないぞ」


「デュース……アンタ……」


「まずは俺の質問に答えて欲しいな」


「ウチの主人はウェルヘザードのお姫様の1人だけ。これだけはホンマや。信じて欲しい」


「ウェルヘザードのお姫様ってことはユーリだな? それじゃ、なんで俺を狙った。なぜコルレ嬢の手先のようなことをしている。そもそも俺に勝てるとも思ってなかっただろ」


「それは…」


「人質か」


「…………」


「図星だな。オルタフェザードのご令嬢も性格が悪い」



サリーはすっかり下を向いて項垂れている。


恐らくは家族を人質に取られているんだろう。戦闘能力の腕前から逆算すればサリーが孤児院の出身で、ウェルヘザードの懐刀としての訓練を受けたことは想像できる。となると、サリーの存在を知ったオルタフェザードが彼女の兄弟を抑えたか、孤児院を抑えたかのどっちか、だろうな。


……そしてユーリは孤児であったサリーを救った命の恩人になる、と。



「だいたい事情は分かったよ。それじゃ、サリー。君が正直に話してくれたと信じて、君には俺の秘密をお教えしよう。俺からすればオルタフェザード家なんざ脅威ですらないってことと、俺には君の大切なものを救える力がある事を示そう」


「……は?」


「聞くより見るが易し、だな」



俺は上半身の衣服を脱ぐと髪をかき上げて魔痣がある方の額を見せる。


ズキンとした痛みとともに額の魔痣が輝き、俺の肌に赤い紋様が浮かび上がってくる。それは入れ墨のように俺の肌を染め上げていき、魔力が血液のように紋様の上を流れていくのが見える。


サリーはというと俺の突然の変化に言葉を失っているようだ。



「な、なんや、これは……」


「そう言うことだ。俺の身体には魔族の血が流れている。それも、かつて魔族を統べ、世界を二等分にしたもう一人の王・・・・・・の血が。その証拠がこの瞳と痣って訳だ。」


「やけど、魔王に……」


「子供はいない、か。人間の王にだって隠し子がいるんだ。魔族の王に隠し子が1人や2人居たって変じゃないだろう。まあ、俺が育てられたのはサリーと同じように孤児院だけどな」


「……そうやったんやな」



サリーは俺の出自に憐憫の表情を浮かべる。


……大丈夫そうだな。彼女はまだ他人の痛みを分かって共感できる人間性を持っている。主人の意のままに振られる刃にまでは堕ちていない。



「そんな訳で、申し訳ないが俺は簡単には死ねない身体なんだ。刺客が誰だったかは気付かなかったことにするから、今日のところは帰ってもらって良いか?」


「せやけど……」


「孤児院が心配か?」


「ちゃうねん。 どっちかって言うたら……」


「ああ、なるほど」



俺はステータスを開くとストレージから翡翠の埋め込まれた木製の護符を2枚取り出してサリーに渡す。護符の効果は”身代わり“。



「これ、マジックアイテムやんな?」


「効果は言わないが、万が一のときにサリーを助けてくれると思うぞ。あと、ユーリにも渡してあげて欲しい。俺もリオに渡しておく」


「……なんでアンタを殺しにきたウチにそんなことまでしてくれるん?」


「うーん……相手の出自に同情しているのは君だけじゃないってことだ。あとは、リオネやユーリが悲しむところは見たくないからな」


「……やさしいんやな」


「うるせ。あと、俺に攻撃するときは全力で良いから。そっちの方が怪しまれないだろうし。んじゃ、戻るか」



俺は指を鳴らして異空間から夜の王立騎士学校アカデミーに戻る。そのまま潜伏魔法で認識阻害をかけて校舎跡地を去る。……サリーは俺の姿が見えなくなってキョロキョロとしていたが、そのうち帰るだろう。



▼ △ ▼



深夜の生徒会室。

窓から差し込む月明かりが生徒会長席に座る私、コルレ・オルフェタザードを照らす。



「…………神よ、どうかお赦しください」



私は祈る。デュース・ヘラルド暗殺の成功を。

そして願う。今宵の悪事が赦されることを。



”失敗とは、すなわち自身の死である”



私はオルタフェザード家の家訓が刻まれた黒革の分厚い本を開いて、そこに目を落とす。


それは公爵家および王国に仇為す者の名前が刻まれる禁忌の書。オルタフェザード家当主である父によって国家の脅威になると断された者達が名を連ね、そして1人を除いてその全てがこの世を去っている。そして、もうじき残りの1人もこの世を去ることになるだろう。



「………そろそろ戻るか」



そっと本を閉じて私は会長席を立つ。


早ければそろそろサリーが報告しにするだろう。その前に部屋に戻っておこう。



▲ ▽ ▲



コルレ・オルフェタザードが出ていった後の生徒会室の外。窓から部屋の中を眺めていた1羽のカラスが西へと飛び立っていく。その瞳は紅く、爛々と輝いていた。


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