第19話 2周目の裏ボスと各々の眠れぬ夜
「ん〜なんか引っ掛かるッス」
二段ベッドの上段で近めの天井を眺めながら私、リオネこと綾瀬いぶきは小さく呟いた。ベッドの下からはユーリちゃんの寝息が聞こえてくる。もうとっくに深夜だけど、なんだか眠れない。
とりあえず攻略情報を開いてストーリー概要を軽く漁ってみる。
「当然っスけと、全然参考にならない……」
そう、もはや現実が本来のシナリオと違い過ぎて当てにならない。そもそも、デュース先輩は私の
そんなことを考えながら、私の手は無意識のうちにデュース先輩のキャラ紹介の画面を開く。
「それにしてもデュース先輩、改めて見てもめちゃめちゃ恰好良いっスね」
今日も今日とて私の最推しは最高です。神様ありがとうございます……と、それは後にして、問題はコルレ会長だ。
本来のシナリオではコルレ会長が裏で糸を引いて貴族令嬢たちの大騒動を起こし、主人公であるリオネを殺そうとしていたのをリカルドが助けてくれる。そして、そのまま5月連休に入ってコルレ会長が帰省している間にオルタフェザード家の当主が亡くなってコルレ会長が当主になるというストーリーだったはずだ。そう攻略情報にも書いてある。
「でも、そもそも恨み買ってないっス」
正直、デュース先輩が決闘を始めた辺りからシナリオがぐちゃぐちゃだ。
超個人的には推しからの供給過剰でありがたすぎるけど、もう今後の見通しは全然立ってない。こうなったら私自身がある程度強くなるしかない。ゲームの世界ですぐに死にたくないし。
「あと気になるのはサリーさんっスよね……」
ユーリちゃんの
「う~、全然眠れないっス!!」
私は寝返りをして枕に顔を埋める。
明日も授業だ。そろそろ寝よう。私は無理やりに目を閉じて眠ろうとする。
こういう時は逆に寝ないようにしてると眠れるってお医者さんに言われたあことがある。とりあえず、羊を数えてみようかな。
▼ △ ▼
「万が一の時に助けてくれる、ね」
アタシ、サリーは1人残された校舎跡地でデュースから渡された護符を眺める。
まさかデュースがかつて世界を震撼させた魔王の息子だったとは。リカルドはもちろん、アタシの戦闘能力程度で倒せるような相手ではなかった。しかし、彼の表情は魔王には似つかない穏やかなものだった。
それでも、戦闘能力の底すら見えないとは思わなかった。
全ての攻撃が完封され、まだ余裕があるようだったし、そもそもの魔法、身体能力、反射神経が相当高い感じがした。上半身も相当鍛えこまれている。…………いい筋肉やったな。
「才能があって、努力されちゃ、そりゃあ勝てんわ」
諦めるように吐き捨てて、アタシは覆面を被る。
コルレ様に暗殺失敗を報告しなければ。そのまま殺されんといいけど。
”リオネやユーリが悲しむところは見たくないからな”
ふと、デュースの言葉がアタシの脳裏をよぎる。
これまではそんなことを考えてこなかった。自分の命は、かつて自分を救ってくれたユーリお嬢様の為に使うと誓った。ウェルヘザード家にオルタフェザード家の手の者が入ってる以上これまでは渋々コルレ様の指示に従っていたが、もはやがんじがらめの状態だ。
せめてユーリ様が笑っていられるように、アタシも動いてみよう。
△ ▼ △
「失礼します」
「入りなさい、サリー」
「はい」
女子寮の部屋で私、コルレ・オルタフェザードが窓の外を眺めているとサリーの声が聞こえる。
思ったより時間がかかった印象だけど、サリーのことだから抜かりはないだろう。
「それで、どうだった?」
「申し訳ございません。失敗いたしました」
「…………」
「申し訳ございませんっ!!」
覆面を被ったサリーが慌てて頭を下げる。
まさかサリーがミスするとは思わなかった。
「いや、驚いただけだよ。君が失敗するなんて、接触できなかったのかい?」
「いえ、接触して逃げられました。次こそは必ずや」
「……分かった。今週末までに必ず成功させなさい」
それで駄目なら直接手を下さなければならない。
その時にはサリーにも落とし前を付けてもらわなければいけない。
それはサリーも分かっているはずだ。なんせ、我が家の家訓は”失敗とは、すなわち自身の死である”なのだから。
「もう下がって良いよ」
「はっ、失礼いたしました」
部屋を出ていくサリーを見送って、私は再び窓の外の夜空を見上げる。デュース・ヘラルド。一筋縄では行かない相手なのかもしれない。
それでも、父上が決めた以上は彼を殺さなければいけない。失敗は許さない。失敗は文字通り自身の死を招く。
「さてさて、どうしようかな」
小さく呟いて紅茶を一口飲む。
恐らく父上も私の行動を見張っているだろう。
そうであれば、サリーの失敗も含めてそこまでの猶予はない。
「直接手を下す方法を考えるか……」
夜空に浮かぶ満月を眺めつつ、私は策謀に思考を埋めていく。コルレ・オルタフェザードの名において、失敗は許されないのだから。
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