第20話 2周目の裏ボスと魔王軍幹部達


「アクセス・ゲート」



サリーを退けて部屋に戻った俺は転移魔法で地下魔王城へ移動する。ゲートをくぐると魔王ダリアが俺を待ってましたとばかりに玉座の間で仁王立ちをしている。


俺の身体に刻まれた魔紋に目を向けた後、ジッと見つめてくる。



「おう、ダリア……えっと、俺、何かした?」


「兄者っ!! そのお姿、やっぱり魔力を解放したのですねっ!! 敵がいたのですか? 何故ダリアを呼んで頂けなかったんですか? 異空間であればダリアも行けるのをご存知ですよね?」


「あー、いや、別に敵がいた訳じゃないんだ。」


「むう、本当ですか?」


「ホントだって。ほら、傷一つないだろ?」


「そうですけど……」



ジト目を向けてくる妹の視線から逃れながら俺は2つ並んだ玉座の片方に腰掛ける。


いつの間にか設置されている俺用の玉座。1周目の時は最終的に玉座に俺が、幹部筆頭の席にダリアが座っていたが、俺的には今の兄妹で並ぶ構図の方が気に入っている。……まあ、1周目のときは俺とダリアが戦って勝者を決めた経緯があるから仕方がない部分があるけど。


俺に続いてダリアが玉座に座ると控えていた魔王軍幹部達が並ぶ。



「みんな、ご苦労様」


「「はっ!!」」



いや、そんな一斉に膝を付かなくていいんだけど。


前も思ったけど、先代魔王を倒したダリアは良いとして俺にそこまで仰々しくする必要ないんだけど。先代魔王である親父が相当厳しい人だったのとダリアが俺を兄として接しているのが原因だろう。



「顔を上げてくれ」


「「はっ!!」」



……やりづれえな。


ひとまず俺は幹部の面々の顔触れを確認する。

左右の2列に並んだ幹部達は俺の身体に浮かび上がる魔紋に目を輝かせている。



「イズ、俺が生きていられるのは君のおかげだ。それにジミーも、イリナも、サージも、俺がここを脱出するのを助けてくれた、あの時のことは幼いながら憶えている。今更だが、ありがとう。感謝している」



俺達から見て左側に並ぶのは非戦闘員系の幹部達。


非戦闘幹部筆頭にして魔王秘書を務める堕天使イズ。執事長の竜人ジミー、メイド長の吸血鬼イリナに料理長の土妖精ドワーフサージの4名。非戦闘員とは言ってもコイツら、ゴリゴリ戦えるけど。


彼らは俺が人間との不義の子として親父に殺されそうだった時に俺達を助けてくれた配下だ。”憶えている”というのは正確ではなく、本当は1周目に知ったことだが、感謝しているのは本当だ。僅かながらだが、母親との時間を過ごせたのも彼らのおかげだ。



「デュース様、感謝など勿体なく存じます。我々一同、この瞬間をお待ちしていました。ご立派に成長されて、ダリア様と並ばれて君臨されるお姿に、このイズ、感動しております」


「うむ。そしてラウド、さらに四天王のみんな。先代魔王から続く魔王城封印の苦渋を強いていること、申し訳なく思う。ダリアと俺の力で魔族の復活を果たす。これは悲願であり、俺との約束だ。必ず実現する」


「はっ!! ありがたき幸せ!!」



右側に並ぶのは戦闘員系の幹部達。


戦闘幹部筆頭にして魔王軍司令長官の老悪魔ラウド。そして魔王軍四天王の魔獣人ジュード、闇妖精ダークエルフパトリック、不死騎士アンデットセイバーフランシス、イズの弟の堕天使ルカの4人が続く。四天王はそれぞれ魔獣軍、魔族軍、不死者軍、悪魔軍を率いる大将でもあり、それぞれの種族の責任者でもある。



「最後にダリア。俺に帰る場所を作ってくれて、ありがとう。不甲斐ない兄ですまなかった。俺なりに少しは強くなって戻ってきたつもりだ。こんな俺だが、受け入れてくれるだろうか?」


「もちろんですっ!! 兄者っ!!」



突っ込んでくる大角おおつのの痛みに耐えながら、俺はダリアを受け止める。


……どうしても1周目では言えなかった感謝を、みんなに伝えたかった。本来のシナリオであれば彼らはやがて勇者リオネとの戦いに身を投じていくことになるのだが、そんな未来は絶対に避けたい。



「ありがとう、ダリア」


「はいっ!! 兄者っ!!」



世界を存続させる。俺の大事な人達を失わない。

絶対に俺の望む結末を得る。そんな決意を胸に俺は改め魔王軍幹部を見る。


魔王軍は組織の頂点たる魔王に魔王秘書と司令長官が紐づくピラミッド型の組織だ。基本的には命令や報告が役職を飛び越えることは許されていない。とは言っても、先代魔王の時のような完全な上意下達体制から少しは雰囲気が変わっているようで、それはダリアの人柄の成果だろう。


しかし、たった1人、魔王軍には組織のピラミッドから外れた幹部が存在する。

そして、その最後の魔王軍幹部たる人物の姿が見えない。



「それで、ラウド。ワイトの奴はどうした?」


「はっ、ワイトですが、現在は魔王軍を離れております」


「ほう、離反か?」


「………」



押し黙るラウドを眺めて俺は考えを巡らせる。


最後の魔王軍幹部にして唯一組織の体制から外れた存在、地底龍ワイト。魔王側近の相談役にして魔王軍全体の監督者である彼女が魔王軍を離れるとは正直考えづらい。1周目でも彼女の忠誠心が揺らいだことはなかったはずだ。



「兄者、ワイトは魔王城最下層に引き籠っております」


「そうなのか? なんでそんなことを」


「分かりませぬ。ただ、扉を固く閉ざしダリアも入れないのです」


「そうか……そしたら試しに2人で行ってみるか?」


「そうですねっ、兄者!! ふふふ、ダリアは楽しいです」


「……最下層の様子を見に行くだけだぞ?」



そのまま俺達は幹部達を解散して最下層へと向かう。


なぜかダリアは腕を組んできてルンルンしていたが、まあ兄貴に甘えたい年頃なんだろう。


それでもダリアが突然現れた俺を率先して受け入れてくれるのは本当にありがたい。幹部達も思うところはあるかもしれないが、それでも笑顔で受け入れてくれている。





「さて……」



ダリアと俺は魔王城最下層へと繋がる扉の前に立つ。


重苦しいデザインの大扉は静かに閉ざされている。なんというか、ちょっと前もこんなことがあった気がするなあ。ひとまず、魔法ぶっ放しちゃっていいかな?



「ダリア? 魔法撃っていい?」


「はい。ただ、ダリアの魔法でもダメでした」


「そうか……――アステ・ディアス!!」



光の奔流が扉に直撃して……扉は無傷だった。

やっぱりこの光景、最近見た気がする。



「兄者、すごいです!! 最高位階魔法を撃てるのですね」


「いや、ダリアも扱える魔法でしょ。まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど」


「うふふ、兄者、お強いのですね」



なぜか上機嫌なダリアを眺めつつ、俺は閉ざされた扉に触れる。

ゆっくりと魔力を流し込み、そして予想通りのポップアップが表示された。



〘このエリアはロックされています〙



やっぱりか。そんな事だろうとは思ったけど。

地下魔王城の次は魔王城最下層とその下にある地底ダンジョンか……



「兄者?」


「いや、俺もこの扉は開けられないみたいだ。玉座の間に戻ろうか。付き合ってくれてありがとう」


「いえ、ダリアも兄者の魔法が見れて良かったです」


「そう? でも確かにこの扉、魔法の訓練にちょうどいいかも」


「ストイックなのですね」


「あはは、そんなことないよ」



俺達は軽口を交わしながら玉座の間へと戻る。


ひとまずは情報収集から始めよう。恐らくアカデミア勲章のようなトリガーがあるはずだ。……2周目は退屈になるかもと思っていたが、やるべきことが多くて嬉しい限りだ。


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