第21話 2周目の裏ボスとデートの誘い
「せんぱーい、おはよーございまーす」
「おはよう、リオ。今日も見学か?」
「そうっス~」
旧校舎跡地で朝のトレーニングをしていると、リオネがやってくる。もはやリオネが俺のトレーンイングの見学に来るのも日課になりつつあるが、なんだか今日はいつもより眠たそうにしている。寝不足だろうか。
「そう言えば、リオに渡したいものがあるんだった。はい、護符」
「え、私にプレゼントっスかっ!! 嬉しいッス!!部屋に飾って家宝にするッス!!」
「護符なんだから持ってないと意味ないだろ……」
「了解っス!!肌身はなさず持っておくっス!!」
「さっきまで眠そうだったのに急に元気だな」
「そりゃ嬉しいッスから」
そう言ってリオネは満面の笑顔を浮かべる。
なんというか極端だな、この娘は。
「喜んでくれたなら良かった」
俺はそれだけ言ってトレーニングに戻る。
リオネもいつも通り柱をペチペチ叩きながら俺のトレーニングの見学をしている。……毎日飽きもせず柱を叩いているのは理由でもあるんだろうか?
「そういえば先輩は5月休暇は帰省するんスか?」
トレーニングの終盤、リオネが話しかけてくる。
5月休暇。それは
ただし、新入生だけは実家への帰省が禁止されている。昔は新入生も帰省OKだったそうだが、当時ホームシックになったご子息・ご令嬢が休暇明けに帰ってこない事態が頻発したらしく、そんなルールができたらしい。
とは言っても、俺は故郷の村に帰る場所もないため関係ない話だけど。
「いや、
「そうっスね。ユーリちゃんやクラスの子達とフォルネ街に行こうと思ってるっス。デュース先輩も学園に残ってるなら一緒に観光しないっスか? かわいい後輩とのデートっすよ?」
この学園は小高い丘の上に建設された学校だ。その丘の中に魔王城が隠されている訳だが、丘の下には城下町と言える街があり、普段は寮生活をしている学園の生徒達の休暇の憩いの場として栄えている。
観光地としても有名な商店街にはカフェ、レストラン、服屋、武器屋、本屋、花屋などが所狭しと並び、学生の休暇期間はさらに露店も立ち並んでより賑やかになる。そして、数々の貴族達が学生時代に恋人とデートをしていた地としても有名だ。
「……考えとくよ」
「ちぇー、素直に誘われればいいのに」
「はいはい」
不満気なリオネを軽くあしらって俺はストレッチをする。
でも、確かに休暇期間を使って学園の周辺を調査するのもアリかもしれない。それこそフォルネ街は復活した魔王城に対する人間側の最前線の村になった訳だし、地下魔王城の最下層がロックされている以上はこの機会に色々調べてみるのも面白い。
「急に難しい顔してどうしたっスか?」
「いや、フォルネ街観光も良いかもと思ってな」
「お、乗り気になったっスね!! そしたらユーリちゃんとサリーさんも誘ってみるっス。今から楽しみになってきたっス!!」
「デートって言った割には他のメンツも誘うんだな」
「……だって恥ずかしいじゃないスか」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもないっス!! それじゃ、私はこの辺で失礼するっス!!」
リオネは急に顔を赤くすると慌てた様子でそそくさと立ち上がる。ぶっちゃけリオネの小言は聞こえてはいたが、少し意地悪だったな。
「それじゃ、放課後の生徒会バックレないようにするっスよ!!」
「りょーかい、りょーかい」
「信用できないっス。それじゃ、またっス!!」
手を振って走り去っていくリオネの背中を見送って俺も男子寮に戻る。今日はいつもより時間がかかってしまった。さっさと風呂に入って授業の準備をしよう。
▼ △ ▼
「あ~、面倒くせえ〜」
放課後、俺は重い足を引きずりなから生徒会室に向かう。
授業中はほとんど机に突っ伏して黒梟魔杖ウィズに意識を飛ばしていた。ウィズを通して索敵魔法を発動し、学園内にいた監視生物を一通り掃討した頃には授業は終わっていた。倒した監視生物であるカラスの数は約30羽。……いや、多すぎだろ。どんだけ学園内を監視してたいんだよ、マジで。
「てか、多分だけどカラスを倒したのが俺ってバレてるよな。てことはコルレ嬢もブチギレてる可能性が高いって訳だ。おお、こわいこわい」
そう言えば1周目の時もこの時期にコルレ会長が話題になっていた気がする。
……たしか5月休暇の帰省中にオルタフェザード家の現当主が亡くなってコルレ嬢が跡目を継いで学校に戻らなかったっていう流れだった気がする。それでコルレ嬢の後任生徒会長を決める選挙があってリカルドが生徒会長になったんだっけか。そこら辺は正直あんま憶えていない。
とりあえず来る5月休暇にオルタフェザード家に一騒動あり、ということだ。…関わりたくねえ。もう面倒だから引き返して地下魔王城に行こっかな。
「あっ、先輩じゃないっスか!!」
引き返そうと振り返ったところでリオネと目が合う。クソ、タイミングが悪かった。
「あれ? もしかしてバックレようとしてたっスか?」
「いや? そんなことないが?」
「ホントっスか? 怪しいっスね~」
ジト目を向けてくるリオネの視線から目を逸らしつつ俺達は生徒会室に向かう。完全に逃げる機会を逃してしまった。こうなっては仕方ない。素直に生徒会室に行くとしよう。
▼ △ ▼
「失礼するっス!!」
「失礼しまーす」
リオネと俺が扉を開けて生徒会室に入ると既に幹部の面々は揃っていた。そして部屋の最奥にはコルレ会長の姿があり、ゆっくりとこちらを見つめる。
「待っていたよ、よく来たね」
「来たくなかったですけどね」
「まあまあデュース君。今日は君に提案があるんだ」
「俺にですか?」
「そうだ」
生徒会長席に座るコルレ嬢の笑みが深まり紅い瞳が輝きを増す。……マジで嫌な予感しかしない。
「――――それでデュース君。私とデートしようじゃないか」
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