第22話 2周目の裏ボスとオルタフェザード
「ふふっ。あの子、ホントに慌ててたな」
深夜の生徒会長執務室。
私、コルレ・オルタフェザードは放課後の発言を思い出して微笑みを浮かべる。
「――――それでデュース君。私とデートしようじゃないか」
「は? なんて?」
「ななななっ、なに言ってるっスか、会長っ!!」
「聞こえなかったか? なら、もう一度言おう。デュース・ヘラルド君、私とデートしよう」
「いや、もう一回言っても許さないっスよ? もし先輩を借りたいなら私に許可を取ってもらわないと困るっス。もし許可したとして、デートするなら私も付いていくことになるっスけどねっ!!」
「えーっと……デート場所はどこですか?」
「デュースせんぱいっ!?」
「場所はフォルネ街だ。それとリオネ君には残念だが1年生は外出許可が降りないと学園の外には出られないんだ。安心してくれ、デートと言っても5月休暇に向けて生徒会として視察に行くだけだ。」
「安心できないっスっ!! そもそもコルレ会長はっ………!!」
「リオ、大丈夫だから。ですよね、会長?」
「うむ、安心したまえ」
「ぜんっぜん安心できないっスっ!!!!!」
生徒会室に響き渡った彼女の声を思い出して口角が上がるのを感じる。”安心できない”か。言い得て妙というか、まさにその通りではあるかもしれない。
「せっかくの
失敗とは、すなわち自身の死である。
父上がそうと決めたのであれば、私は何としても彼を抹殺しなければならない。
脳裏にチラリと自身の父親の紅く光る瞳を思い出して私は身震いをする。部屋は寒くはないが、何故か周囲の気温が下がったような感覚がする。なんと言うべきか、どこか懐かしい感覚だ。
「失敗は許されない」
そう。失敗は許されないのだ。
オルタフェザード家の次期当主として求められる資質は冷酷さと遂行能力。その体現者が父であり、オルタフェザードの歴代当主達の決定的な特徴である。その冷酷さは、たとえ身内にであっても振るわれることを私は知っている。
”失敗とは、すなわち自身の死である”
私はいくつもの名前が書かれた分厚い本の表紙を見つめる。
死を告げるその本に書かれている数多の名前のなかで最も多い姓こそが”オルタフェザード”であり、そこには私の2人の兄の名もある。彼らもまた暗殺行為の失敗によって自身の死を迎えたオルタフェザードの人間達の1人である。
正直2人の兄達に思い入れがあった訳ではないが、それでもその事実は重い。
だからこそ、コルレ・オルタフェザードに失敗は許されない。自分を護れるのも、自分を救えるのも、結局は自分でしかないのだ。だからこそ、誰よりも冷酷で非情でなければならない。
それが私に課された責務であり、運命なのだから。
「………週末が楽しみだな」
せっかくだ。サリーには暗殺を止めさせよう。
これは学園最終年の私に課された課題なのかもしれない。
ならば、自身の手でケリを付けよう。
△ ▼ △
「デュース先輩、話があるっス」
生徒会室からの帰り道。もうすぐ女子寮の入口。
中庭の横を通り抜ける廊下で私はデュースきゅんの背中に声を掛ける。
「どうかしたか? リオ」
そう言って振り返るデュースくんの優し気な表情に思わず胸が締め付けられる。気が付けば私はデュースくんの袖を掴んで立ち止まる。
「コルレ会長には気を付けて欲しいっス」
「……と言うと?」
どう伝えればいいだろう。
本当のシナリオならコルレ会長が生徒達を操って私を暗殺しようとした首謀者なんです、なんて言っても、デュースくんからすれば突然何の話だという感じになっちゃう。それに、コルレ会長が実はこの後オルタフェザード家の当主になって裏で悪事を沢山します、って言っても信じてもらえないと思う。
「えっと、オルタフェザード公爵家には黒い噂があるっス」
「らしいな。でも、噂だろう?」
「そうっスけど、本当にっ」
その時、デュースきゅんの人差し指が私の口元に触れる。
ゆっくりとデュースくんの顔が近づいてくる。え、かっこいい。じゃ、なくて、ってヤ、ヤバい。待って。もしかしてキスされる?
え、なんで? ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!!
「リオ、大丈夫だ。噂が本当として、俺が負けるわけないだろ?」
そう呟くデュースくんの声で一気に我に返る。
危ない、立ったまま気絶するところだった。推しの過剰供給で死ねる。
「で、でもっ!!」
「リオ、安心してくれ。俺は君の前から居なくなったりしないよ」
セリフが熱すぎる!! あと顔が近い!!
この推し、もしかしなくても最近私が押しに弱いの分かってきてません?
デュースくんの声にドギマギしながら私はなんとか平静を装う。もう甘やかさないんだから!!
「ぜ、絶対っスよ?」
「ああ、約束だ」
そう言ってデュースくんはやさしく微笑むと小指を出してくる。そんな笑顔、ズルい。なにも言えなくなる。
「ゆびきりげんまん、だな」
「約束破ったら、針1万本飲ますっス」
「なんか針の数が多いな。まあ、良いだろう。ほれ、さっさと寮に帰るぞ」
それだけ言うとデュースくんはウインクして歩き出してしまう。
なんというか、過剰供給過ぎて心配事が吹き飛んでしまった。いや、心配は心配なんだけど、何となく私の考えていることを見透かしているような、コルレ会長のことも分かっているような感じがした。
とにかく、デート当日は何としても学園を抜け出してデュースくんを監視しよう。ストーカー行為? いや、私はデュースくんの
そんな決意(?)を胸に私はデュースくんを追いかけるのだった。
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