第23話 2周目の裏ボスと休日のデート


「すまない、遅かったかな?」


「いえ、ちょうど着いたところです」


「そうか、なら良かった。それでは、行こうか」



あっと言う間に週末が訪れコルレ嬢とのデートの日となる。


颯爽と現れた彼女は普段と変わらないパンツスタイルだが、白シャツに黒のスラックスを履いたシンプルな服装をしている。手足の長さが際立ち、片手には紺のスペンサージャケットを携えている。……なんというか、格好良いな。この人。



「なんだか機嫌良いですね、会長」


「そうかい? 男性とデートなんてあまり機会が多くないからね。少しワクワクしているよ」


「あくまで視察ではなくデートと言い張るんですね。そうですか。まあ、俺も会長みたいなお綺麗な方をエスコートできて光栄ですよ。さて、最初はどちらに向かいますか?」


「君に任せるよ。エスコートを頼むよ、デュース君?」


「はあ、完全に面白がってますね、会長。それでは露店通りを見に行きましょう」


「承知した。それと、今日は私を会長と呼ぶのは禁止だよ」


「……承りました、コルレ嬢。…………これで満足ですか?」


「うむ。満足だ。それでは露店通りとやらに向かおう」



優しい春の青空の下、オレンジ屋根の街へと俺達は歩き出す。


最初っから俺を殺す気なのであればハナから攻撃してくれれば楽だったんだけどな。とはいっても主導権はコルレ嬢にある訳だし、仕方ない、しばらくはデートに付き合うとしよう。…………索敵魔法だけは常時張っておかないとな。少なくとも既に周囲に刺客が10人、監視生物が20匹くらいいる訳だし。てか、そんだけ部下に見張られてデートとか恥ずかしくないんかな。




「そこの黒髪のお2人さん、お似合いだね!! 」


「ふふ、そうかな? ここは、何を売っているんだい?」


「うちはアクセサリーショップだよ。お似合いの2人にはペアアクセサリーなんてどうだい? 指輪、ブレスレットにネックレスまで、何でも揃っているよ!!」


「ほう、それは良い。デュース君、見ていこうじゃないか」


「コルレ嬢のお気に召すままに」


「ふふ、楽しいな。なあ、デュース君」


「そうですね」



結局ペアのブレスレットを買って俺達は露店通り散策に戻る。


ひとくちに露店通りと言っても売っているものはさまざまである。さっきのようなアクセサリーやアンティーク雑貨もあれば、絵画や家具、モニュメント、花束、古本、お菓子に串焼きまで、そこかしこに魅力や思いの詰まった品々が所狭しと並んでいる。確かにデートには最高の場所なのかもな。


……デートだけならな。普通に俺の立場ならお菓子なんて怖くて食えたもんじゃないだろう。つっても毒は効かないんだけど。



「次はどの店を見ようか、デュース君」


「そうですね。あそこで可愛らしい人形が売ってますよ」


「そうか。では、見てみよう」



怖いくらいに、穏やかに、春の陽気と休日の時間が流れる。コルレ嬢はいつ仕掛けてくるのやら。しばらくは静観だな。



△ ▼ △



「……お姫様」



アタシはデュースから貰った護符を眺める。


明け方、アタシはデュースに教えてもらった中庭にある秘密の空間で息を潜めている。恐らく今頃デュースの暗殺に失敗したアタシを狙ってコルレ会長が差し向けた刺客がアタシの居場所を捜索をしている頃だろう。


その時、物音がしする。

アタシは臨戦態勢を整えてゆっくりと閉ざされた蓋を開く。



「あれ、リオネちゃん?」


「サリーさんっ!?」


「…………こんなとこで何してるん?」


「えーっと……それこそサリーさんは何をしてたっスか?」


「ウチは……かくれんぼや。で、リオネちゃんは何してたん?」


「かくれんぼ? あ、えっと私はフォルネ街に行こうかなって思ってるっス」



フォルネ街ってことは会長とデュースの様子を見に行くつもりやな。


でもこれはチャンスかもしれない。オルタフェザード家の刺客は基本的に攻撃対象が1人でいる時に攻撃を実施する決まりになっている。なら、リオネちゃんと一緒に行動した方が安全だし、もしデュースの様子を見に行くならコルレ会長も近くにいる訳で、堂々と攻撃もしてこないだろう。



「そ、そうなんやね。そしたら、ウチと一緒に行かん? デュースの様子見に行くんやろ?」


「いいっスけど……かくれんぼは?」


「大丈夫や。それより、行くなら、はよ行かんと守衛さんにバレんで」


「そ、そうっスね。急いでいくっス!!」



急かすようにしてリオネちゃんと学園を中庭側の裏口から出る。


少し振り返ると、一羽のカラスが止まり木から飛び立つのが見えた。アタシは無言でカースドピアを放ってカラスを撃ち落とす。もう逃げられない。アタシはアタシで、大切なお姫様の為に闘ってみよう。



▼ △ ▼



昼下がりのフォルネ街。


俺とコルレ嬢は2人でカフェのテラス席で紅茶を嗜んでいる。結局コルレ嬢と俺は昼過ぎまで露店通りを満喫し、そこで串焼きだのパフェだのを食べたおかげであまりお腹が空いていないということで休憩がてらカフェに入ることになった。……ちなみに露店の食べ物には毒は入ってなかった。



「穏やかなものだな。これなら新入生も問題なく休暇に来れるだろう」


「そうですね。コルレ嬢も楽しんでいるようで、良かったです」


「ああ、とても楽しいよ。今まではこんな機会なかったし、それに君のように私をエスコートしてくれる男性が少なかったからね。どうも、男性からすると私は取っ付きづらいようだ」


「そうですかね? いくらコルレ会長と言っても、1人の麗若きご令嬢ですから」


「そんな風に言ってくれるのも君ぐらいだよ。はあ、こんなことならリカルドなんかじゃなく君を相棒バディにしておくべきだったよ」


「そう言って頂けるのであれば光栄ですね」


「…………」



少しの沈黙。そしてコルレ嬢が俺に視線を向けてくる。その紅い瞳には真剣な、少し願いにも似たように色が宿っている。



「デュース君。やはり、私の臣下にならないかい?」


「俺は誰の下にも付きませんよ」


「…………そうか。残念だよ」


「ええ。そうですね」


「…………」



再びの沈黙。


その時、にわかに街の奥から騒めきが聞こえてくる。騒ぎ声のする方に目を向けると1人の街の住人らしき男が走ってくるのが見えた。



「モンスターだっ!! モンスターが襲ってきたぞ!!」



さて、いよいよか。


案外、コルレ嬢とのデートの時間も楽しかった。

穏やかな時間が名残惜しくはあるが、ここからは少しだけ集中しないといけない。


さあ、行こうか。


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