第9話 2周目の裏ボスとアカデミア勲章



「……なんスか?」



明らかに不機嫌な表情でリオネがリカルドを睨む。……この子も手厳しいな。可哀そうに、リカルドも少し悲しそうじゃないか。


というか、そもそもリオネは何故俺にこんなに懐いてるんだろうか?俺的にはよっぽどリカルドの方が魅力的に見えるぞ。



「いや、リオネ嬢に用があったわけではないんだが……デュースと決闘のことを話したくてな。それにしても、君達は仲が随分良いようだな。知り合いだったのか?」


「いや、俺は知らん。この子に聞いてくれ。」



俺がそう言って振り向くと、勇者は何故かそっぽを向いている。頬っぺたをわざとらしく膨らませて……何してんだ、マジで。



「……リオって呼んでくれる約束っス」



「…………うん。それで、リカルド、何の用だ?」


「ん? ああ、決闘の場所と報酬の話だが……いいのか?無視して」


「何のことだ?」


「いや、なんでもない。それで、決闘の場所だが、大講堂を借りることになった。話が大事になってな、他の生徒たちが観戦できるようになった。まあ、観衆の目があれば聖なる決闘の場で不正が出来なくなるからな」


「話を大きくしたのは君だろ。それに俺が不正をするかのような言い方だな」


「いや、俺は君がどうやって俺に挑むかが楽しみなだけだよ。」


「ふふっ。……あっ、なんでもないっス。続けてください」



勇者よ、1周目の仲間を笑ってやるなよ。まがいなりにも君の右腕だった男だぞ。


リカルドはリカルドで得意げな顔をするなよ。圧倒的勘違いだと思うぞ。どうせ、自分が決闘に勝てば惚れ直す、とか思ってんだろ。



「それで、場所の件は分かった。報酬ってのはなんだ?」


「ん?ああ、俺の報酬はリオネ嬢を相棒バディにすることだが、君はどうするんだい?」


「俺の報酬か。まあぶっちゃけなんでも良いんだけど……」



チラッと勇者を見るとリカルドに舌を出してあっかんべーをしている。…そんなことをして、淑女がはしたないぞ。


でも、確かにリカルドが嫌がりそうなことをしたいな。そんなことを考えながらリカルドを眺め、閃く。



「そうだな。うん、決めたぞ。だが、それなりの報酬になるが……大丈夫か?」


「何にするつもりかは分からないが……俺ができる範囲でなら何でもいいぞ?貴族として、俺に二言はない。そもそも、君に負ける気はないからな。」


「そうか、そうか。」


「……デュース先輩、悪い笑顔になってるっス」



俺がリカルドの胸元に光る“それ”を見つめると、リカルドは俺の視線に気付き、少しだけ顔を青ざめさせる。リカルドの胸には学年の中でも特に秀でた学生にのみ与えられるペンダントであるアカデミア勲章が輝いている。



「デュース。お前、本気か?」


「貴族に二言はないんだろう? それに、君だって彼女の一生を賭けているようなもんだ。そのペンダントなんぞ、それよりは軽いだろう? それともあれか、平民の一生なんぞ貴族様の名誉より軽かったか」


「…………分かった。この勲章を賭けよう」


「よっ、潔い!! リカルド先輩、カッコいいっスよ!!」


「うむ。そうだろう、そうだろう」



リオネの煽りに、リカルドが満更でも無く頷いて見せる。……いや、リカルドよ。君、チョロすぎないか? というか、もう部屋に戻りたいんだが。窓を見てみろ、もうとっくに暗くなってるぞ。



「よし、話は終わったな。それじゃ、俺は部屋に戻るぞ」


「えー、先輩ツレないっス」


「はいはい、それじゃまたな。リカルドも、じゃあな」


「うぅ...分かったっス。それじゃ、デュース先輩、おやすみっス」


「ああ、また明日」



不満げな表情を浮かべる勇者にヒラヒラと手を振って俺は教室を後にする。


というか、よくよく考えると4限から6限以降の放課後まで机で寝ていたことになる。誰にも起こしてもらえないとか、クラスメイト達も俺に興味なさすぎないか? まあ、嫌われているだけかもしれないが。



▼ △ ▼



「さて、どうしたもんかなあ」



夜の寮室。


俺は窓から見上げる月を眺めながらぼんやりと呟く。リカルドとの決闘は一大イベントになってしまった。目立ってしまうのはもはや不可避だ。


負けてやるつもりは鼻からない。

“勝てる場所で戦う。勝てるなら勝ちきる。”これが俺のモットーだ。



「問題はどうやって倒すかなんだよな。殺さないように気を付けないと」



俺はストラテジー・ブックを展開させるとリカルドの情報を確認する。


当然すべてのステイタスが俺よりは低いが、勇者パーティーになるだけあってバランスの取れた構成となっている。魔法に寄っている俺のステイタスとは対照的だが、逆に基礎の体力や攻撃力などのステイタスは魔法よりはマシな差だと言える。



「こうなったら俺はせめて防御魔法だけにするか、いっそのこと魔法は使用禁止だな」



正直そのハンデがあっても歴然とした差があるのは事実だけど、一級魔法で即戦闘終了という事態は避けられる。それに下手に魔法を使ってリカルドに即死された日には堪ったもんじゃない。


恐らく俺を知っている生徒は普段のローブの印象だけで俺が肉弾戦ができることを知らないはずだ。


そうなれば、多少魔法のインパクトが無くても十分目新しく感じてもらえるだろう。



「せっかく観客もいるんだ。楽しんで貰わないとな。そうだろう、ウィズ?」



俺がそう言って目を細めると、月明かりを背景にこちらに飛んでくる影が見える。黄金の瞳を持つ黒梟クロフクロウが嬉しそうに鳴くと、ゆっくりと俺の肩に着地した。



「すまなかったな。まさか君も転生してると思わなかったよ。」



授業中、寝ながら空を飛んでいた鳥に意識を飛ばして魔力探知して得た成果。それが王立騎士学校アカデミーの上空を旋回していた俺の武器にして相方の黒梟ウィズ。


指で優しく頭を撫でてやると、嬉しそうに足を跳ねさせる。ウィズが戻ったことで俺個人の戦闘力は世界を支配した1周目の最後と変わらない。



……今更だが、2周目の世界で、俺がわざわざモブである必要もないのかもしれない。


勇者も1周目と比べるとネジが3本くらい抜けているようだし、何故が俺に絡んでくるし、それならいっそ思いっきり定まった行程ゲームのシナリオから逸脱するのも面白い。


ならば、思いっきり暴れてやろうじゃないか。





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