第7話 2周目の裏ボスと意地悪


「面倒なことになったな……」



リカルドと俺の決闘の噂は瞬く間に王立騎士学校アカデミーに広まった。それもそのはずで、当の本人であるリカルドがガンガン噂を発信しているのである。


……やめときゃいいものを。俺がやろうと思えば一撃で片が付く戦いなのに。



「とはいえ、多少の有名人になっても声は掛けられないもんだな」



もともと編入組で、しかも平民出身ということで友人といえる友人は殆んどいないが、これだけ悪目立ちすれば誰かしらから声が掛けられるかと思ったが、そうでもないらしい。


まあ、そちらの方が楽だし、自由に動けて都合は良いんだけどさ。



「それよりも、勇者を倒してもループすることの方がはるかに問題だよな……」



そう、俺の目論見ではこの世界ゲームの裏ボスとして俺が勇者を倒せば、定められた運命エンディングを回避でき、それによって世界が存続されるはずだった。しかし、事実として俺の仮説は裏切られてしまった。


であれば、違う方法を検証しなければならない。……ただ、現状ではその方法が皆目見当もつかない。



「さて、どうしたもんかなぁ」


「あれ? 先輩じゃないっスか。朝振りっスね。こんなトコで何してるんスか?」


「……また君か」


「あからさまに嫌そうな顔しないでくださいっス!!というか、その呼び方、愛が感じられないっス」



校舎の裏手の木陰に座っている俺に勇者が声を掛けてくる。まだ彼女が入学してから数日しか経っていないが、何故か遭遇率が高すぎる。


付けられているような気配は一切感じないため、純粋な偶然か、彼女の嗅覚が鋭いかのどちらかだとしか思えない。…いや、犬かよ。



「いや、そもそも君に愛情なんて抱いてないからな……で、君は俺に何て呼んで欲しいんだい?」


「なんだかんだ呼び方を聞いてくれる当たりに先輩からの愛情を感じるッス。ツンデレってやつッスね!!」


「…そんなことを言うなら一生名前を呼んでやらないぞ」


「お、怒らないでほしいッス!!えーっと…リオ!!リオって呼んで欲しいッス!!」


「リオ、だな。分かった、リオ。それで、わざわざ昼休みに俺のところに来て何のようだ?別にフラフラして偶然俺を見つけた訳じゃないだろう?」


「いや、ホントに偶然ッスよー」



勇者は視線を泳がせながら、そう言って笑顔を浮かべる。…絶対嘘ついてるだろ。


俺が咎めるように彼女をジッと見つめると、何故か頬を紅くさせる。



「い、いきなりそんなに見つめないで欲しいッス。照れるッスよ」


「嘘つくのが悪いんだよ。俺に構っても良いことなんて無いんだから、早く聞きたいことを聞きなさい」


「そんなことはないスけど…噂で聞きました。リカルド先輩と決闘するんスか?」


「ああ、そんなこと。するつもりだが…負けたほうが良いか?」


「絶対勝ってください!!」



…今のは俺が意地悪だったな。


彼女の返答がわかっていて、試すような言い方をしてしまった。それにしても、なぜ勇者は俺との相棒バディに拘るんたろうか。



「まあ、負けることはないだろ」


「なんスか?私はデュース先輩のモノだから渡さないってやつッスか?いや~、先輩の愛が重くて困っちゃうッス!!」


「ああ、そうかもな。なあ、リオ?」


「へぁ?」



調子乗りな後輩への意趣返しに、俺は彼女の手を握って膝をつく。騎士が姫に忠誠を誓うようなポーズで彼女を見上げると、勇者の顔が真っ赤に染まっていた。



「な…デュースせんぱ…なにを…」


「フフッ、冗談だ。これに懲りたら、あんまり変なことを言わないことだな。それじゃ」



固まっている勇者を置いて俺はさっさと退散する。我に返った勇者が追いかけてくるのを撒きながら俺は足早に演習場へと向かう。



「ちょ、待って欲しいッス〜」


「ほれ、そろそろ予鈴がなるぞ。早く教室に戻りなさい」


「先輩はいいんスか?」


「残念。あいにく俺は演習場行きだ」



俺は校舎の裏手を迂回して演習場に向かう。

教室の方は反対側だが、何故か勇者も諦めずに付いてくる。



「あだぁっ!! い、痛いッス!!」



その時、ドサッという音とともに勇者の悲鳴が聞こえてくる。思わず振り返ると、勇者は尻もちを付いて額を擦っている。


……淑女なら脚を閉じたほうがいいと思うぞ。何が、とは言わないが見えてるぞ。



「どうした。木の根っこにでも躓いたか?」


「あ、ありがとうございます…」



置き去りにするのも忍びないから、俺は引き返して彼女に手を差し出す。素直に差し出された手を取った彼女を立ち上がらせる。



「大丈夫か?」


「だ、大丈夫ッス。なんか…気づいたら倒れてたっス」


「それは、大丈夫なのか?」


「えへへ。先輩、やっぱり優しいッス」



《〜〜♪》



その時、次の授業を告げる予鈴が鳴る。

そろそろ行かなければ。


勇者を見ると彼女も少し焦ったように頷く。

俺達は急いで校舎の方に駆け出そうとして……



「あだぁっ!!な、なんでッスか!!?」



勇者が倒れた。


再び尻もちを付いた彼女が不満げに声を張り上げる。まるで、見えない壁にぶつかったように崩れ落ちた彼女の額が赤くなっている。



「ほんとに大丈夫か?」


「あたた…痛いッス……って、エラーメッセージ?」


「エラーメッセージ、だと?なんて書いてある?」


「へ?あ、えーっと…“このエリアはロックされています”って書いてあるッス。って、なんでデュース先輩が……」



…しまった。思わず反応してしまったが、あくまで俺はモブであって、勇者の見れるステイタスなどは知ってるはずがない役割だ。



「なんのことだ?それより、急いで授業に行くぞ」



俺は無理矢理に会話を終わらせると、勇者の手を取って校舎の表へと駆け出す。何故か勇者も素直に付いてくる。


……結局、授業には遅れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る