第5話 2周目の裏ボスと寿限無
「ちょー、せんぱーい。待って欲しいっス」
「付いてこないでくれ。君だって授業があるだろ?」
「先輩が
「なんで君は嬉しそうなんだ……それに言ったろ、君にはもっと相応しいバディがいるよ」
1限のある演習場に向かって足早に進む俺を勇者リオネが追ってくる。いや、ホントにどういう状況だよ。
いよいよ演習場が近づき、授業も始まりそうだ。振り返ってみると未来の勇者さまがニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「ほれ、授業が始まるから教室に戻りなさい」
「……何言ってるんスか、先輩」
「何を言ってって……」
「次の授業、私達新入生と先輩のクラス、合同授業ッスよ?」
「なっ⁉」
「なはは~、恥ずかしがってる先輩かわいいっス」
「…………うるさい。ならさっさと演習場に行くぞ」
「はいッス」
気が付けば完全に勇者のペースである。調子が狂って仕方がない。1周目の勇者はもう少し大人しかったはずだったが、何か心境の変化でもあったのだろうか。
2人で演習場に入ると好奇の視線が突き刺さる。
俺はなるべくそれに気が付かないふりをして3年生の集団に合流するが、同級生達も既に昨日の勇者の告白まがいの
…勇者の方はと言えば、新入生らしく同級生達とはしゃいでいた。
▲ ▽ ▲
教師の号令で俺達は演習場に整列する。
今日の授業は新入生のレクリエーションと
そんなことを考えているうちに教師の説明が終わる。具体的には10m離れた藁人形を各々特異な魔法で攻撃すればいい。
「それでは、始めっ!!」
教師の号令で実技が始まる。
まずは3年生から。リカルドを含めた1列目の10人が一斉に魔法の詠唱を始める。
「……あ、そっか、ちゃんと詠唱しなきゃなのか」
生徒は各々がぶつぶつと詠唱をして魔法を発動させる。無詠唱で魔法が打てるようになってすっかり忘れていたが、この頃はわざわざ長い呪文を詠唱していたのだった。……ちなみに、俺が魔法を撃つ時に技名を言うのは、ただカッコいいからである。
詠唱が終わり次々と魔法が放たれる。
「……しょぼ」
俺が思ったことと全く同じ呟きがどこかから聞こえた。振り向いてみると、勇者がしまったとばかりに口を抑えている。
感覚を鍛えていた俺が聞き取れただけで、周りには聞こえていないと思うが……未来の英雄として、それは言っちゃあいけないぞ、勇者よ。
「……ファイア・ボム!!」
その時、リカルドが炎魔法を発動し、新入生たちが騒めく。2つの火球が藁人形を襲ってメラメラと燃える。それを見た一部の女生徒からは黄色い声も上がっている。
リカルドの奴、これから勇者パーティーになるだけはあって、魔法の筋は良いな。……別に羨ましくなんてない。俺の方がもっと凄い魔法撃てるし。
「次、2列目!! 前に出ろ!!」
教師の掛け声で列を入れ替える。
他の生徒に合わせて俺も前に出ると、藁人形と対峙する。
…さて、どんな魔法を撃つべきか。
今後の展開を考えれば、ここで目立ちたくはない。
「はじめっ!!」
教師の号令とともに他の生徒が詠唱を始める。
とりあえず俺も適当に変な事を呟いておく。
「じゅげむじゅげむ、ごこうのなんたら、かんたらのなんたらまーつ……」
意味もない言葉を発しながら後ろを確認すれば、こっちをジッと見ていた勇者の視線と目が合う。……いや、手を振ってくるなよ。てか、マジでどうしよ。
初級魔法なら誤魔化せるか?
「ウィンド・カッター」
2枚の風の刃が藁人形を襲い、表面の藁が揺らめく。ただ、俺の魔法の効果はそれだけで済んだ。藁人形が倒れたりすることはなく、案外良い感じに周囲に馴染むことができたと思う。なんならミスったくらいに思って貰えたかもしれない。
「……先輩、嘘つくのはダメっスよ」
小さく呟かれた声に俺が勇者の方を見ると、彼女は立ち上がって俺の攻撃した藁人形に人差し指を向けていた。咄嗟にカバーに入ろうとしたのも遅く、彼女が魔法を発動する。
「アイズ・アロー」
2本の
……バレてたか。だるま落とし方式で切断した藁人形がその場に留まるようにしたんだけどな。
「おおっ!!凄いぞっ!!君、名前は何て言うんだ!!」
「じ、自分っスか? いや、今のは違くて……!!」
勇者の魔法を見ていたリカルドが彼女に近寄る。
……これはラッキーかもしれない。
俺はさっさとその場を離れて3年生の集団に紛れる。勇者のインパクトが凄かったのか、あの藁人形を直前に攻撃したのが俺だということには気付かれていない。すぐさま何人かの野心的な3年生がリカルドに続くように勇者のもとに駆け寄っていく。
囲まれつつある彼女と目が合う。
…とりあえず口元に指を立てて口止めのお願いをしてみる。ウィンクもしてみたりして。
「違うんスよっ!!今のはっ……ひゃ…かわ…………ち、違くないっス。私の魔法っッス」
何故か頬を紅潮させた勇者が口止めに応じてくれた。精神魔法を掛けたわけではないけど、ご厚意には甘えておこう。
結局、その後の授業は勇者の魔法お披露目会になった。
瞬く間に新入生リオネ・メリュジーヌの名前は学園内に広まり、それとともにリカルドが彼女に
そして、すぐに彼女がリカルドの誘いを断ったことも公然の事実となることになる。
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