第3話 プロローグ Side リオネ
20XX年、日本。
某都内のマンションの一室で私はPC画面を覗き込む。
画面内にはファンタジー乙女ゲーム『マジカ・カーニバル』の裏ボス、デュースくんとの対戦場面が映し出されている。
《よく来たな、勇者よ。我は真の魔族の王にして冥府を司るもの。ここまで辿り着いたこと、褒めて遣わそう。正直、驚いたぞ。》
「デュースくん、かわいいっス」
映し出される黒髪に黄金の瞳を宿した青年を、私は画面越しに撫でる。
……あっ、この語尾は許して欲しいっス。配信のキャラというか、興奮するとつい出ちゃうというか、簡単に言うと癖みたいなものっス。
そしてPC画面に映っているのは、デュースくんこと、デュース・ヘラルド君。このゲームにおける裏ボス的なキャラクターにして私の最推し。そのルックスと外見の割に渋すぎる声のせいもあって攻略対象じゃないのにプレイヤーから一定の人気を得ている彼は、まさに私の癖のど真ん中だった。
《ふふふ、良い瞳だ。これなら、後ろめたさなく始末できる》
「うへへ……かっこいいッス」
彼は私の唯一の癒し。
とある理由で体力的にも精神的にも疲弊しきっていた時に主人公キャラに親近感を感じて何となくポチってみた乙女ゲームで出会ってしまった彼に、私は一目惚れした。……そこからはあっと言う間に私の部屋は、アクスタやぬいぐるみといったグッズからポスター、タペストリー、同人誌などなど…とデュースくんに浸食されていった。
《別にお前達に恨みがある訳ではないが、すまない。この世界の為に死んでくれ。運命を恨めとは言わない。せめて俺を恨んでくれればいいさ。――――ステラ・カデーレ》
「いけないっス。見惚れてて攻撃ターン逃したっス……って、あれ?負けてる?」
私が画面のデュースきゅんにかかりっきりで操作をしていなかったからか、ストーリー内のミニゲーム的な立ち位置の裏ボス戦で、何故かデュースくんに負けている。ストーリー的に絶対負けることないはずなんだけど……もしかしたら聞いたことないボイスが聞けるかもっ!!
「えっ、ゲームオーバー? ボイスはないんスか?」
画面には無常にもコンティニューボタンが表示されている。私は渋々ながらカーソルを操作してボタンをクリックして――――――
「へ?」
―――突如として身体に浮遊感を感じながら、私は眩い光に思わず目を閉じた。
▲ ▽ ▲
「ま、ま、まじッスか~!!!!」
目を開けた私が目にしたのは、鏡に映った、赤髪碧眼の女の子の姿だった。
名前は……たぶんだけど、リオネ・メリュジーヌちゃん。だって、どっからどう見ても、さっきまでプレイしていた『マジカ・カーニバル』の主人公の姿そのものだったから。
「これが……転生ってヤツっスね。……いや、マジっスか?」
私は何度も頬っぺたを叩いたりツネったりする…………痛い。
受け入れるしかない…これは、転生しちゃったってパターンに間違いない。
私がまじまじと見つめる鏡に映るのは、何度見ても赤髪と銀のメッシュとアホ毛と青い瞳。
……我ながら違和感がないのは、ちょっと複雑な気分っすね。だって、このキャラ、私が引退したVtuberのアバターにそっくりなんだもん。まあ、そこに親近感を感じてこのゲームを買ったんだけどね。
「……あれ?……ってことは、この世界にデュースくんもいるってことっスよね?」
我ながら自分の鼓動が高まるのが分かる。……え、それはヤバい。
まさか、まさか、リアルデュースくんに会えちゃう?そしたら尊死する自信しかない。
てか、なんならデュースくんって主人公と学生時代が被ってるはず……ということは、これからは会おうと思えば毎日会えるってこと?…………ここってもしかしなくても天国ですか?
「リオネちゃーん!!入学式始まっちゃうよ!!」
その時、部屋に1人の女の子が入ってきた。
この子は…たぶんゲームの序盤でガイド役になってくれるユーリちゃん、かな? 流石ゲーム転生、リアルでもかわいい。
「はいッス!!今行くッスよ〜」
私はとりあえずユーリちゃんを追いかけて部屋を出る。
入学式ってことはゲームの序盤のシーンってことだよね………いきなり転生しといてあれだけど、正直ワクワクが止まらない。
こうなったら、デュースくん……っと、ここではデュース先輩ッスね。デュース先輩と理想の学園生活を送る!!
リオネ・メリュジーヌ、燃えてきたっス!!
▲ ▽ ▲
面倒くさい入学式を終えた私は今、人生の最推しを探して新入生歓迎イベントで盛り上がる学園内をウロチョロしている。デュースくん、全然見つからないっ!!
というか、入学式もめっちゃ面倒だった。
先生が近づいてきたから何かと思えば、首席だから挨拶してくださいって、入学式の30分前に言います?それ。
とにかく、私は今、推しに癒してほしいのだ!!
「んんうぅ〜!!デュース先輩、どこっスか!!?」
地団駄を踏む私は学園を一周して中央広場に戻っていた。
…どうやらデュースくんは歓迎会に参加してなかったってことですね。ゲームのシナリオだと赤の他人だし、そう上手くいく訳ないよね…あはは…
「あっ!!!!」
その時、私の視界の端が彼を捉える。
あの黒髪。金色の瞳。間違えるわけない、デュースくん!!
気づけば走り出していた。
なんて声をかけるかも考えず、気づいた時には、私はデュースくんに声を掛けていた。
「あ、あのっ!!」
デュースくんが振り返る。
ヤバ、目が合った。と、溶ける…じゃなくて、なんか言わなきゃ。ヤバ、なんも考えてなかった。
「あの………」
「どうかした?」
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
どうしよう。めっちゃデュースくんに見られてる。なんか言わなきゃ。えーっと、握手してください?……いや、アイドルの握手会じゃないんだから。あっ、
「―――デュース先輩、好きです。私の
あれ?これってめっちゃ告白しちゃってる?
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