第2話 人生2周目の裏ボスとステイタス
誰もいない
穏やかな日差しが差し込む噴水の中庭を通り過ぎて、俺は男子寮へと向かう。
…………なんとも懐かしい景色だ。
記憶が間違っていなければこの先にあるはずの男子寮に俺の部屋がある。ってことで、まずは拠点の確認からしよう。
「この学校ごと、無くなるんだもんな...」
まあ、この学校をいずれブッ壊すのは俺なんだけどね。……ああ、本当に懐かしい。春の陽気のせいだろうか、歩いていると1周目の記憶が蘇ってくる。
▽ ▲ ▽
俺の名は、デュース。デュース・ヘラルド。
王国東側に広がる賢者の森の程近く。小さな村の出身で、魔族と人間のハーフ。本来なら村の外を知ることなく、人生を過ごすはずのキャラクターだった。
そんな俺の人生が変わったのは、ほんの些細なキッカケからだった。
当時9歳だった俺は獲物のウサギを追いかけて故郷の村の近く、”賢者の森”と呼ばれるエリアに深入りしてしまった。……まあ、要するに遭難した。
帰り道も分からないまま夜の森を彷徨い続け、歩いて、歩いて、歩き疲れて、朦朧とした意識で俺は倒れた。その時、俺の頭が何かにぶつかった。目の前にはただ森が広がるだけ。なのに、そこには見えない壁があり、俺はそれに頭をぶつけていた。
なんで壁があるのが分かったのか。
なぜなら、俺の石頭がぶつかった場所に
その日、俺には2つの能力を手に入れた。
1つはステイタス・ブック。もう1つはストラテジー・ブック。
自分や他人の基礎情報や能力を観れる能力と、この世界のあらゆる情報を閲覧できる能力。
この時、俺は”この世界”の主人公が誰なのか、この世界がどんな運命をたどるのか。そして、俺がストラテジー・ブックに名前が載ることすらないモブであることを認識した。
これは絶望であり、反逆の始まりだった。
俺は英雄に憧れていた。悪と戦い、世界を救う。そんな英雄になりたかった。
だからこそ、決意したのだ。
モブで終わる運命なんか超えてやると。
魔王が斃れて終わるこの世界を救ってやると。
▲ ▽ ▲
「ああ、こんなんだったな。俺の部屋。」
男子寮の一角、狼403号室。
あまり整理整頓されていない机には乱雑に魔法の本が並び、淹れっぱなしの紅茶が置かれている。当時の俺はとにかく魔法に入れこんでいた。魔族とのハーフで比較的に魔法の適性があったというのもあるが、今思えば、あまり友達がいなかったのが最大の原因だった気がする。
「…懐かしいな」
広げられた魔法書を見ると、空間転移にまつわる魔法の文献だった。
この頃の俺は、この世界を丸ごと異空間に転移させることで
「よくよく考えると、親も死んで、友達もいないくせに世界を救ってやろうって思ってたんだもんな。良いヤツかよ、むかしの俺。そういう意味では今でも良いヤツではあるんだけど。」
ベッドに腰掛けてステイタスを展開し、俺は少し目を見開く。そこに表示されたのは学生時代のステイタスではなく、1周目の最後、世界の裏ボスとしての俺のステイタスだった。
―――――――――STATUS―――――――――
【名前】デュース・ヘラルド
【レベル】150(MAX)+++SSS
【属性】ワールドボス・魔族系・人間系
【性別】男性
【職業】魔術師
【称号】閲覧者・魔族の王・不死者の王・魔術の極致
【拠点】
【HP】20,000(+蘇生3回:蘇生につきHP×1.5)
【MP】5,000,000
【ATK】16,000
【DEF】8,500
【STR】1,200
【AGI】1,200
【VIT】1,200
【MAG】19,000
【MIND】5,000
【LUCK】1,200
【特殊スキル】
・ステイタス閲覧
・ストラテジー閲覧
【スキル】
・真魔王の権能
・不死王の権能
・魔術を極めし者
【武器】
・オード(魔術杖・フクロウ):離脱中
【配下】
・■■■■:離脱中
・■■■■:離脱中
・■■■■:離脱中
・■■■■:離脱中
―――――――――――――――――――――
うん、間違いなくヤバい奴です。
こんなんが貴族のご子息様の通う学園に紛れ込んでたらまず許されない。というか、このレベルの実力があるヤツなんてこの世界に1人もいない。……とりあえずステイタスを偽装しよう。勇者も他人のステイタスを観れるはずだからバレたら俺の学園生活は即終了だ。
とはいえ、別に
「うーん、魔王城は喪失中か」
魔王城。つまるところ魔王の居城。
たしかに、この段階では魔王も魔王城もこの世界には出現していない。では、どこにあって、どこにいるのか。実は今俺のいる
近い将来、勇者がこの学園を巣立った後に、俺の手によってそれは出現する予定だ。
龍脈の調査をしていた俺の魔法によって魔王は復活を遂げ、魔王城が学園を持ち上げる形で出現する。要するに、この学校は魔王城の一部であり、現在は丘に埋もれた部分に魔王城としての姿が隠されている。
魔王城の出現から、王国、ひいては世界には魔王討伐という使命が課され、魔族との戦いが始まる。そして、あの小さな赤髪の少女が勇者として運命を背負うことになっていく。
「そういう意味では、あの子も被害者ではあるんだよな」
ふたたび俺の脳裏に赤髪の少女がチラつく。
俺にとってはこの世界を終わらせに来る侵略者であった彼女だが、別に個人的な恨みがある訳ではない。なんなら、彼女もまた、俺が救おうとするこの世界の一部だ。
俺はステイタスを閉じて今度はストラテジーを展開する。
「……まだ魔王城の情報は出てないか。」
ストラテジー。つまりは攻略情報。
この世界のあらゆる情報が表示されるスキル。
その段階での最新の情報が掲載されるこのスキルにはマップから主要人物の情報、ダンジョンの位置やモンスターの情報まで、あまねく勇者たちの冒険の手助けとなる情報が掲載されている。
当然ながら、まだ魔王城の情報は表示されていない。復活させようと思えば今すぐにでも復活できるのかもしれないが、考えれば、その行為は
幸いなことに、彼女達の卒業までは時間がある。
その間に俺も”この世界の救い方”を模索すればいい。
「っと、そろそろ入学式も終わるかな。あの後って何があるんだっけ?」
1周目では確か勇者の様子を観察してたはずだけど、あんまり覚えていない。たしか新入生歓迎イベントがあったような、なかったような。
まあ、どうせボッチだった俺は図書館に行ったか部屋に戻ったかのどっちかだろう。
「……いや、寂しすぎないか、俺」
もはや魔法は極めた。
今更そんなものの勉強をする必要もない。
せっかくだし少しイベントの様子でも見に行ってみるか。
一通り情報を確認した俺は、部屋を出て学園の中央広場に向かう。そして、中央広場のど真ん中で、俺はこのプロローグの冒頭の場面に辿り着くわけである。
▲ ▽ ▲
新入生歓迎イベントの真っただ中。
そのイベントの中心たる中央広場のど真ん中。
「あ、あのっ!!」
目的もなく歩く俺を引き留める存在がいた。
リオネ・メリュジーヌ。
「あの………」
「どうかした?」
赤髪のボブヘアーにアホ毛。前髪の特徴的な白銀のアッシュとそこから覗く、深く青い瞳。
春の暖かな風に前髪を揺らし、真新しい王立騎士学校アカデミーの制服を纏った少女が俺に向かって手を差し出してくる。
「―――デュース先輩、好きです。私の
……はい? この勇者は、何を言ってるんだ?
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