プロローグ

第1話 世界の終わり、そして物語の始まり。


赤髪のボブヘアーにアホ毛。前髪の特徴的な白銀のアッシュとそこから覗く、深く青い瞳。

春の暖かな風が彼女の前髪を揺らし、真新しい王立騎士学校アカデミーの制服を纏った少女が俺に向かって手を差し出してくる。



「―――デュース先輩、好きです。私の相棒バディになってくれませんか?」



そう言って少女はキラキラとした視線を真っ直ぐにぶつけてくる。眩しささえ覚える視線から目を逸らしながら、俺は溜息とともに体感ではつい数時間前の記憶を蘇らせていた。


そう、この世界ゲームのエンディングになるはずだった・・・・・・・、あの場面を。



▽ ▲ ▽



この世界には“選ばれた人間”と“選ばれなかった人間”がいる。そんなことはない、ともしかしたら誰かは言うかもしれない。


ただ、俺は知っている。

俺は“事実”としてそれを知っている。


この世界の”主人公”が誰なのかを。


この世界が”造られた世界ゲーム”であることを。

この世界の運命が、定められたものであるということを。


俺は知っている。



だから決めたんだ。


クリアされれば消滅するこの世界を、救ってやろうと。定められた、このクソッたれた世界の運命に抵抗してやろうと。


そう。その代償として――――


たとえ、その代償として君を殺すことになったとしても。


一抹の罪悪感とともに、俺は自分の座る玉座の間へと近付いてくる少女の顔を思い浮かべる。



「そろそろか…」



少しづつ大きくなる足音に耳を傾けながら、俺は瞳を開ける。玉座から立ち上がれば、傍らに控えた黒梟フクロウが魔杖へと姿を変えて俺の手元に納まる。


ガチャリという音と共に重い扉が開かれ、勇者一行が姿を現す。



「よく来たな、勇者よ。我は真の魔族の王にして冥府を司るもの。ここまで辿り着いたこと、褒めて遣わそう。正直、驚いたぞ。」



「アンタが…アンタがぁ…‼」



赤髪の勇者が俺を睨みつけてくる。

…まあ、そりゃ恨まれるよな。仲間を殺し、友を奪った相手であれば、そうなるのも頷ける。



「ふふふ、良い瞳だ。これなら、後ろめたさなく始末できる」


「死ぬのは、オマエだっ‼」



勇者を筆頭に、仲間達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。…ああ、遅い。まったく遅すぎる。だが、今はそれがありがたい。



「別にお前達に恨みがある訳ではないが、すまない。この世界の為に死んでくれ。運命を恨めとは言わない。せめて俺を恨んでくれればいいさ。――――”ステラ・カデーレ”」



玉座の間が漆黒と無数の煌めきの魔術で塗りつぶされる。禁忌なる魔法は全てを呑み込み、その後には屍のみが残される。



「英雄よ、せめて安らかに眠れ。」



俺が小さく呟いた刹那。視界がガクッと揺れ、身体が宙に浮く感覚に包まれる。視界が真っ暗に染め上げられ、俺は藻掻くこともままならずに手だけを前に伸ばす。



「――――――なっ!!」



まるで何者かに引きずり込まれるように俺の意識は漆黒の底へと沈んでいく。


真っ暗な視界の上部でぼんやりと文字が浮かび上がるのが見える。



〘REPLAY?〙



白い矢印が1つしかない選択肢に近づいていき、そのボタンが押される。


強制的に薄れる視界と意識の中で俺はそれをただ見ることしかできなかった。



《...》


〘...……〙


〘……DATA SAVE CANCEL〙


〘……...PLAYER DATA DELETED〙


〘…………DATA ReBUILDin///////////////ERROR//ERR///〙


〘…………………DatA rEsEt dONe...fiN了〙



▲ ▽ ▲



「――っ!!」



気が付くと、俺はのどかな春の陽気が差し込む王立騎士学校アカデミーの講堂にいた。

もはや懐かしい学校長の演説が講堂に響き渡り、俺は理解する。自分の計画が失敗したことを。


王立騎士学校アカデミーの入学式。この世界ゲームの冒頭の場面。俺は、そこにループしている。



「ああ…そうなったか」



俺は自分の絶望を慰めるように呟いて、講堂の天井を仰ぐ。…とりあえず、ここから抜け出そう。今は1人になりたい。ああ、最悪の気分だ。


気配を消して生徒の列から離れる。当然、それに気付く者はいない。



「新入生代表挨拶。リオネ・メリュジーヌ」


「はいっ‼」



講堂の出口を出ようとした刹那、つい先ほど自らの手で倒した人物の名前が耳に入り、俺は思わず立ち止まってしまう。赤髪の勇者。この世界の主人公。それこそが、壇上にいる少女リオネ・メリュジーヌである。


……当分関わることはないだろう。なんせ、この段階での俺は、この学校のいわゆるモブの1人に過ぎないのだから。



「それじゃ、失礼」



俺は誰にも気付かれることなく俺は講堂を後にする。少しだけ振り返った時に、壇上の少女と目があった...気がした。



「さて、どうしたもんかな……」



誰もいない校舎を俺は目的もなく歩く。

まずは状況確認が先決だな。とりあえず男子寮に向かうか。



▲ ▽ ▲



―――かくして俺の2周目の人生が始まった。



これは赤髪の転生勇者と人生2周目の裏ボスが、世界ゲーム終りエンディングの、その先を目指す物語。まあ、せいぜいみんなが面白がってくれれば、嬉しいよ。

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