第2話 義昭、越前を発つ
信長は思案をしていた。
義輝が都で殺害されてから、国中が動乱に陥ることを早くから察知していた。
この機をどうとらえて進むのか。早くから義秋を供奉することで上洛することを考えていた。誰よりも早く。それが大切であることを直感していた。
「惟政」と、短く呼んだ。
「ここに」と、惟政。
「義昭殿から使者が参ったようだ」
「やはりでございますか。遠回りをしたようですが、ようやく気が付かれた由」
「御内書とともに、明智光秀と申す者の添状があるが。知っておるか」
「しかとは知りませぬが、われら一族と同じ、幕府直属の奉公主ではと思われます」
「御内書にはなんと」と、惟政が聞く。
「上洛するので予に供奉せよとのことである」
「義輝様の落命以来、三七を伊勢神戸に出し、津田を安濃津に入れ伊勢を治め、その時が来るものと備えてきた。上杉、大和の松永、柳生、甲賀の山中、六角の永原と入魂し、近江一円を抑え込んだ。上洛の準備は整った」と、信長。
「それでは、兵を動かしまするか」
「である」
信長の意を受け、和田は明智宛に返書をしたため使者に持たせた。
―信長様は、岐阜の立証寺で待つとのことでございます。道中には家中のものを迎えにやらせるとの由-
その報を聞いた義昭は、すぐに上洛の準備に入った。
「のう、十兵衛。この様子をみて義景はどう思っておるのかのう」
「もう、自らの時代ではないこととおもっているやにも。この一乗谷の優雅な生活に満足しておられるのではないでしょうか」と、十兵衛。
「そのようなことで、この世をわたっていけるものとはとても思えぬ。よいは。見送らせてやろう」と、自らの数奇な運命を振り返るようにして義昭は信長とともに上洛することを義景に伝え見送るようにと促した。
そのようにして、義昭は、永禄十一年七月十六日に一乗谷を発った。
「やれやれでござる」と、独り言のように、義景は云った。
「ああ、よき日であることよ」と、青空を見あげながら、こんどは大きな声で言った。
義景は、半ば厄介払いができたと思いながらも、残念そうな顔をしてみせ、義昭を近江国境まで見送ることにした。
翌、十七日、予てからの親戚筋であった近江の浅井氏に一行を引き継いだ義景は、そそくさと越前への路を取って返した。彼のこの先の人生はこの一瞬に決まったともいえる。
信長は、この先の義昭の路地警護を、妹婿の浅井長政に頼んでいた。
浅井・久政・長政はこのような名誉なことはないと、信長の妹市を長政の嫁にもらい受けたことを感謝し、信長の依頼を快く受け入れて義昭を三日三晩もてなした。
そして、七月二十五日に、立政寺に義昭は到着した。
信長は、それより二日後の二十七日に立政寺に到着した。
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