部屋の星空と七夕の夢

へこあゆ

夜と地図と鏡

僕の部屋の天井には、星空が広がっている。


その星空は、僕が敷き詰めたものではない。

この部屋の前の入居者が照らした天井がそのままになっているだけであった。

内見した時、何故かその部屋に惹かれ、すぐに契約をした。

夜になると僕の部屋では夏の大三角が見える。

僕は毎晩その星空を見ながら、いつか本当の満点の星空を見てみたいと思うようになっていた。


僕の家は東京の中心にあり、海の見える場所までいくのに3時間はかかる場所にあった。

7月7日。織姫と彦星が出会える日。

天気予報士が、今年の七夕は数年振りの晴天だと言っていた。

僕の部屋からだと、街が明るすぎて綺麗な天の川は見れないだろう。

僕はその日仕事を休み、夜に備えて日中は寝ていた。


夜になり、僕は車を走らせる。

カーナビを房総半島の海沿いに設定し、1人で運転していた。

僕は車を運転しながら綺麗な天の川を見れることに心を震わせていた。

車の中ではカーナビの音声が響き渡る。

知らない道を走る僕は、これから向かう未知の景色に心を震わせていた。


目的地に向かうにつれてどんどん都会の喧騒は無くなっていき、人は誰もおらず、真っ暗な世界になっていた。

カーナビが案内を終了します、と言った時、

そこには満点の星空が広がっていた。

僕は煙草を蒸しながら、今年こそは織姫と彦星が出会えるのか、やっと2人は結ばれるのか。

織姫と彦星の声が響いてるような気がした。

そんなことを考えているうちに、自然と感涙にむせべっていた。


海に目を落とすと、海の底に夏の大三角が映っていた。

その海に落ちる星空は僕にとって永遠の思い出となることを確信し、目に焼き付けた。

こんな星空を今後一生見ることはないだろう。


僕は帰り道、高速道路を走りながら感傷に浸っていた。

時々うとうとしながら、何度か車にぶつかりそうになる。

眠気を覚ますために時折煙草を吸い続けながら、僕はこのまま死んでもいいと思った。


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部屋の星空と七夕の夢 へこあゆ @hekoF91

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