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「これから私に用事があるときも、お前に旦那様を任せるかどうかは考えないといけないな。」

「えぇ!!そんなこと言わないでよ!意地悪だよ!お兄ちゃんのイケメン!」

「確かに咲夜くんはイケメンだね。」

「お褒めに預かり光栄です。」

「もしかして、イケズって言いたいのか?」


イケメンなお兄さんは、自分の額を軽く抑えてから妹の綺麗な額に軽くデコピンをお見舞いした。

全く痛がらない妹にまた軽くため息をつき、じんわりと赤が滲んでいる彼女の額をグイグイ押している。


「なぁ、来栖そんなに既存の部が気に入らないか?」

「気に入らないって訳じゃ無いけど。」

「……お前がその気なら、部活に入る以外にもう一つ裏技がある。」

「え?何、何?」


赤羽の予想外の提案に、思わず身を乗り出す。来栖兄弟も戯れ合うのをやめ、ひたと赤羽に視線を寄せている。


「新しく部を作るんだ。代表生徒以外の生徒五人以上と顧問の教師、明確な活動内容があれば部の新設は比較的容易に通る。」

「部を作る……?」

「既存の部活が厳しそうで嫌、先輩との関係構築が煩わしい。部に入る理由がそう言ったものなら、自分で納得のいく部を作ればいい。」


なるほど……?

赤羽の提案は盲点だった。確かに、納得のいく部がなければ自分達で作ればいい。

言われてみれば、その通りだ。


「そんなに簡単に通るものなの?」


我が校の特性を鑑みても、彼の言う「比較的容易」は疑わしい。

僕は疑い半分、期待半分で彼に問い返す。この時点で僕は「部を作る」という秘密基地建設のようなワクワクを胸の片隅で燻らせ始めていた。


「ああ、難しいことはない。うちの学校は、廃部になる部活が多い分、新設の部も多い。誰にでもチャレンジするための門は開かれている。まぁ、そういえば聞こえはいいが、要するに失った分を補填する必要があるんだ。思ってるよりも大人の事情だな。」


そう言うと彼は、僕の手からヒョイとリストを取り上げ、そこにまた丸をつけ始めた。そこには四つの丸がついている。

古代ローマ再現部・演劇部(2,5次元限定)・架空旅行ツアー部・ゲーム料理部。どれも個性豊かでなかなかパンチが聞いた部活名だ。


「この四つが今年から新設された部活だ。見ての通り、活動内容に制限はない。好きなことをやればいい。まぁ、来年生き残れるかは知らないけどな。」


生き残りたいなら、もっと現実的な部活を考えろということだろうか?


「へぇ、でもいいこと聞いたなぁ。そうか、部活を作るか。それもいいなぁ。」

「参加する生徒や顧問のあてはあるのか?」

「えーと、僕でしょ。」


僕は自分を指差す。それから、その指をすーと横にスライドさせる。


「咲夜くん。輝月さん。それから松田。で、赤羽。これで五人!」


赤羽はあからさまにため息をついた後、右手の掌の中に、左手の人差し指を一本付け加える。


「”代表生徒以外の五人”だ。だから、実質的には六名必要。」

「えー、詐欺だ……。」

「詐欺な訳あるか。ちゃんと話を聞け。そう言うところ、ちょっとバカなんだよな、お前は。」

「おい、旦那様に不敬な口をきくな。」

「そうやって、いちいち噛みついてきて。結構な忠犬だな、咲夜くん。来栖も鼻が高いだろう。おっと、犬じゃ人間とは対等な位置にはいられないかもしれないけど。」

「は、ご愁傷様。こっちは忠犬で十分だ。お前は世間体を気にしてこんなところに引っ張り込まないと旦那様に言いたいこともしたいことも出来ないかもしれないけどな、犬は違う。せいぜい悔しがって地団駄を踏むことだな。」

「あー、またやってるけーえんの仲。本当飽きないよね。」


さっそく飽きたらしい輝月さんが、僕の後ろからリストを覗き込んで「うーん。」と困った声を出す。

彼女はそのまま僕の肩に、慣れたように顔を預けるとリストを顔に近づけるように僕の手を取った。

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