-5
コンコン。
「……。」
コンコンコンコン。
「……。」
コンコンコンコンコン。
ガンッ!!!!!!
明らかに上履きで思い切りドアを蹴った音が部屋の中まで響いてきた。
赤羽は面倒臭そうな声を隠そうともせず、ドア越しの訪問者に声をかける。
「どなたですか?」
「鍵なんかかけやがって!旦那様を返せ、このエセ優等生!!」
「エセ優等生はお前だろうが。」
「兎於菟ー!!ここにいるの?ねぇ、ここにいるの?」
「鍵なんてかけてたの?」
「邪魔が入ったら、困るだろ。俺も、お前も、入ってきたやつも。」
最後の一言は、聞かなかったことにしておきたい。
「ねぇ、もう面倒臭いから、これ蹴破ってもいい?」
「ああ、やれ。」
咲夜くんのGOサインの後に、靴が軽く床を蹴る乾いた音が、生徒会室の年季の入ったドア越しに聞こえる。
こんなボロボロのドアなんて、彼女の蹴り一発で粗大ゴミ行きまったなしだ。
「ちょっと、止めなくていいの?生徒会書記。」
「……はぁ。ほんとめちゃくちゃだなあいつら。おい!開けるから蹴るな!!」
赤羽が渋々ドアに近づき、鍵を開けて引き戸を引く。
瞬間、風を切る音がここまで聞こえてくるほど鋭く響いた。
輝月さんの足が開いたドアから勢いよく飛び出し、赤羽の腹部に届く直前に、ピタリと止まる。
直後、鋭い残風が僕の皮膚をひりひりと裂きながら後ろへと流れていった。
「あっぶなー!!危ない危ない!いきなり開けたら危ないよ、アカバネ!」
「開けるって言っただろ!」
「チッ。」
「おい、舌打ちするな。兄。」
輝月さんの全力キックを運良く回避した赤羽は、思わずといった感じで撃ち抜かれずに済んだ腹部に手を添えて軽くさすっている。
ああ、そういう気持ちはすごくわかる。
未遂の怪我ってどうして、局部に違和感を感じるんだろう。
そこだけ火傷のようにじんわり熱くなったり、冷凍庫の中に入れたみたいにひんやりと感じる時がある。
僕は無意識に左手の包帯に触れていた。
あの火傷は、日に日に良くなり咲夜くんが言った通り、四日目の今日の朝にはほんの少し赤い線のようなものを残すばかりになっていた。
今日の夜に消毒を終えれば、明日の朝には綺麗さっぱり元通りだろう。
手の甲の傷が薄くなるたびに、表情に出さずとも咲夜くんが喜んでいるのがわかった。
この左手に今、いろんな選択肢と決断が乗せられている。
「本当に、油断も隙もないな。」
「アカバネ、ダメだよ!兎於菟を好き勝手に連れ回しちゃ。ダメダメ!!」
僕の腕がぐんと引っ張られ、体が輝月さんの隣に音も無くはまり込んだ。
彼女の隣には咲夜くんが立っていて、その二人の隙間にパズルのようにはまってしまったのだから「はまり込む」で間違いないだろう。
「連れ回すも何も、来栖が俺を訪ねてきたんだ。」
「そうそう。僕が赤羽に用事があったんだ。ごめんね、心配かけて。」
「そうだよ!本当に心配したんだから!お兄ちゃんは園芸委員の当番の件で職員室に呼ばれてるし、その間は輝月が一緒にいたはずなのに!……あれ?なんで輝月、兎於菟と一緒にいなかったんだろう?!」
自分の行動が信じられない!むしろ今知りました!と言わんばかりに驚き、飛び上がった彼女は呆然と僕を見て、首を傾げる。
「輝月、何してた?」
僕も彼女の真似をして、少し小首を傾げる。
「クラスの子に、家庭科室に連れていかれてたよ。お菓子を作り過ぎたから食べないかって。」
「あ……うぅ……。そうだった。」
腹の底から搾り出すようなか細い声で彼女が呻く。そんな声も出せるのか……。
「お菓子、美味しかった?」
「プリン食べた……。美味しかった……。」
脳から蹴り出されていた記憶が戻ってきたのか、彼女がスカートの端を握り締めながら頷く。
素直に「美味しかったー!」と喜んでいいのに。むしろ、そう素直に喜んでくれた方が僕としては気持ちが和らぐ。
「……。」
しかしこの双子の兄はそうは思っていないようで。
こちらから見ても冷めた目をした咲夜くんは、その冷たい目線で容赦なく妹を貫くと、僕の腕を少し引いて気持ち自分の側へ引き寄せた。
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