第4話 青春は部活と同意義か?
ー【古典・B級映画研究部】廃部のお知らせー
『今年度におきまして、十九年の歴史を持つ【B級映画研究部】は深刻な部員不足、活動内容の不足により廃部が決定いたしました。
創設二十年を前にして、大変残念ではありますが身を切る思いでこの度の廃部を決定いたしました。
ご卒業なされた先輩方、顧問の先生方には大変申し訳なく我が身を不甲斐なく感じております。
今まで、【B級映画研究部】を愛してくださった皆様に心よりお礼を申し上げます。
つきましては備品の整理の際に……云々カンヌン……』
「あらら。」
二年の下駄箱前の掲示板に他のA4のサイズのお知らせを押しのけるようにA3サイズの紙が貼られている。
そこには【古典・B級映画研究部】の廃部のお知らせが書かれており、僕は紛れもなくその【古典・B級映画研究部】の(幽霊)部員だ。
「兎於菟、どうしたの?」
隣を歩いていた輝月さんが、僕が足を止めたことに気づいて後ろ足で戻ってくる。
その拍子にがばりと後ろから抱きつかれて思わず後ろに仰け反りそうになった。
「輝月さん、もう頚椎カラーはしてないけど、ちょっと怖いかも……。」
頚椎カラーがとれた首元にダイレクトに飛び込んできた輝月さんに念の為忠告しておくと、特に気にもしてなさそうな「ごめんなさーい。」が返ってきた。
どうやら彼女は一瞬でそんなことは忘れたようで、首に腕を巻きつけたまま僕が見ていた方向をじっと見つめた後、不思議そうに顔を傾げた。
「んー……古典とB級って一緒にしていいの?なんか違うと思うんだけど……?」
輝月さんの声が耳のすぐ後ろから聞こえてくる。
くすぐったくて身縮めると、彼女は楽しそうにもっと顔を肩に埋めて距離を詰めようとしてきた。
彼女の過剰なスキンシップは出会った日から変わらず、というか増すます遠慮がなくなり、距離感がおかしくなってきていた。そして、僕の許容範囲も日に日におかしくなりつつある。
そんな僕の目の前には彼女の手元がチラリと見えていて、その手には四日前からにはおよそ普通の学校生活には不必要な黒のトレーニンググローブがはめられている(ピンク色の月のアップリケ付き)。
オシャレにしては物騒なそれは、先日僕と輝月さんと咲夜君の三人で大きめのショッピングモールに買い物に行った時に購入したものだ。
「何かあった時に便利だから!」という理由で彼女が欲しがったそれを、「何かがないように」全力で祈りながらレジに持っていったのはまだ記憶に新しい。
その後に可愛さが足りないということで、同じショッピングモール内に入っている手芸屋でアップリケを購入して、それを咲夜君がアイロンでくっつけていた。
自分の目先でゆらゆらと揺れているピンクのファンタジックな月を見ながら、僕は自分が知っている限りの答えを披露した。
「元々は別々の部活だったんだよ。でも、両方の部員が少なくなって、同じ映画関係の部活だからって理由で生き残りのため無理やりに合併したらしい。」
「ふーん。で、今度は本当に消えちゃうんだ。」
いくら幽霊部員と言えど、ここまでズバリと事実を言われると、先輩方の執念が微量でも感じられたのか胸の奥がツンとする。
「そういえば、輝月さんは決めた?部活。」
彼女たちがこの学校に入ってもうすぐ一週間が経とうとしている、そろそろ担任からその辺りの意向を確認されるころだ。
ここ星樹学院高等学校は文武両道を学校の方針として掲げ、生徒の部活動への参加を強く推奨している。
強く推奨というのは、言い方を変えれば強制しているということだ。
暗黙の了解として、生徒は必ず文化部か運動部に必ず一つ以上は参加しなくてはならない。
「だから、輝月とお兄ちゃんは兎於菟と同じ部活に入るっていってるじゃん。何部なのか教えてよー。」
必ず部活に入らなければいけない独自の学校ルールを松田が二人に教えた日から、僕は毎日二人から質問攻めに合っている。
お互い入れ替わりで「何部に所属しているのか」探ろうとしてくるのだ。
そろそろ佐藤先生にいずれかの部への入部を突かれているのか、ここ二日間は特に追求が激しい。
今朝なんて、咲夜君がお弁当を人質に答えを引きだそうとしていたけれど、途端に顔面が青くなっていき、「私には出来ません……。」と言いながら、お弁当を渡してくれた。
「ダメダメ。教えません!」
「えー、なんでぇ!兎於菟、輝月達のこと嫌い?」
甘さを含んだ、湿った声が耳をくすぐる。
目の前を通りすぎた男子学生がこちらを見た途端に停止してしまい、同行していた女子生徒に回収されていった。
彼女の顔もほんのり赤く染まっており、その攻撃力の高さが窺える。真正面にいなくて良かった……。
「そもそも僕の家のことを知ってたり、学校を知ってたりするんだから、僕の所属してる部活動くらいすぐに調べられそうだけど?」
「〜〜〜!!!違うもん!それとこれとは違うのぉ!」
わざとなのか動揺なのかわからないが、輝月さんが僕の首に回している腕で首の筋がキマリそうになっている。
「おー!姫とととちゃんじゃん!」
すり減ったテラゾーの床を軽い足音が駆けてきて、僕の真横でぱたりと止まる。
輝月さんがぶら下がっていて首の可動域がかなり狭まっているせいで誰かははっきり見えないけれど、声からして松田で間違いない。
「マツダ!どうしたの?」
マツダの登場に、輝月さんの意識が逸れる。
抱擁ではなくほぼヘッドロックから解放され、やっと肺まで酸素が入ってきた。
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