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「噂の双子ちゃんたちはどこだー!」


購買のパンやおにぎりが詰まってパンパンになったビニール袋を振り回しながら松田が教室に駆け込んできた。


周りからは「松田うるさい!」「松田いい加減にしろ!」と罵声が飛ぶ。


「うるせー!俺にも双子ちゃんを見る権利はあるだろうが!」


彼は一目散に僕の席の前まで走ってきた。

僕の机の横には赤羽が座っていて、息を弾ませる松田を見て顔を顰める。


「おっと、赤羽。何も言わなくていいぞ。今日はお前に用事があったわけじゃない。噂の双子ちゃんと話をしにきたんだからな!あと兎於菟の様子見に来た!クラスに馴染めてるか?」


パシリと乾いた音がした。


驚いて右側を見ると、僕の肩を叩こうとした松田の腕が中途半端な位置にある。

松田の手の付け根のあたりに、輝月さんの腕があり、手にはご飯と炒り卵が入ったタッパーが握られている。


勢いがよかったせいか、タッパーからは炒り卵がポロポロとこぼれ落ちてしまっていた。


「あー!卵!!ちょっと、君のせいだからね!!」

「ああ!ごめんごめん!!」


松田はパッと身を引き、輝月さんに謝った。

教室の床に黄色の小さな丸がぽつんぽつんと落ちている。


「食べられなくなっちゃった。」


床に落ちている炒り卵を悲しそうに見つめる彼女に、松田は慌てて自分のビニール袋の中から小さいなチョコレート菓子を取り出した。


「なんか、俺が悪かった?いや、よくわからんけど悪かったわ!これあげるから、それで許してくれない?」


松田は輝月さんがいきなり手を出してきたのかは聞かずに、彼女の机の上にそのお菓子を二つ乗せた。

それからついでにと僕らにもそれぞれ一つづつお菓子を配る。

咲夜君はお礼を言いながらも、チョコレートに触ろうとはしない。


「ありがとう。ええと、誰?なんで兎於菟のこと叩こうとしたの?」


チョコレートを受け取り、少し機嫌が治った輝月さんが不思議そうに松田を見ている。

咲夜君も同じように松田を見ていた。

期せずして双子の視線を一身に浴びた松田は少し顔を赤らめて視線を彷徨わせている。

松田が照れるなんて珍しい。

僕がニヤニヤして見ていると、それを見咎めて気まづそうに悪態をつく。


「こらぁ、ととちゃん。いい顔してるな!俺だって、こんな美形に見つめられたら照れちゃうの。」

「松田も可愛いところあるなと思って。素直なのはいいことだよ。」

「素直すぎるのはお前の欠点だぞ。」

「ああ言えば、こういうねお前たちは!」


中身が詰まったビニール袋を僕の机の上に投げ、赤羽を椅子の上から追い立ててその場所に収まってしまった松田は、佐藤先生のような下手くそな空咳のあとにわかりやすく居住いを正した。


「初めまして!一年生の頃から来栖くんと仲良しの松田蒼です。部活はサッカー部で、趣味は料理、チャームポイントは八重歯です!どうぞよろしく!」


たった今紹介したばかりのチャームポイントを輝かせながら、二人の前に手を差し出す。


教室の隅から「松田うるせー。」という野次が飛んできた。

確かに身内の自己紹介にしては彼の声は大きすぎる。

教室全体に響き渡る声量に咲夜君の鉄壁の笑顔も心なしか剥がれ落ちそうだ。


「咲夜・クルスと申します。と、とぉとさんがお世話になっております。」


彼は早速僕のリクエストに答えてくれようとしたらしいが、舌がもつれてしまったのか発音が辿々しい。そんなに緊張しなくても良いのに。


「輝月だよ!兎於菟のお友達だったら、そう言ってくれればいいのに。」


松田が差し出した手を、輝月さんが快く引き受ける。

思い切り上下に振られる手に、松田の体が腕ごともっていかれそうになり、慌てて体を椅子から浮かせた。


「元気いいね!輝月ちゃん!ちょ、ちょっと手離してもらっていいかな?」


手がぱっと離されると、松田は放り出されるように椅子に尻餅をついた。握手をした右手をさすっているが、顔は楽しそうに笑っている。


「すごいな、めちゃ力強いじゃん!」

「松田さん、申し訳ありません。輝月は力の加減がどうしても下手でして。」

「おい、松田。こいつの優等生キャラに騙されるなよ。こいつは猫を被ってるだけで、本性はとんでもないやつだぞ。」

「ええ……優等生キャラで猫被ってんのとか、お前だけで十分なんだけど。」

「俺は猫なんて被ってない!」

「私も猫なんて、とても……。赤羽さんはどうか知りませんが。」


爽やかな作り笑いを浮かべる咲夜くんに、今にも噛みつきそうな赤羽のコンビは本人たちの意思とは反してなかなか良いコンビに見える。

赤羽がこんなにわかりやすく感情を出す相手はめずらしいし、不満そうな顔が高校生らしく年相応で可愛らしい。

彼もまだ、ただの子供だ。

今朝の彼が脳裏に浮かぶ。

「大丈夫だから」という彼の言葉には重さが混じり、視界を塞ぐ朝霧のように彼にまとわりついていた。


「なんかよくわからんけど、気が合いそうな友達が出来て良かったな赤羽!」

「全然合いそうじゃ無い。なんで笑ってるんだ来栖。」

「別に笑ってないよ。友達同士が仲良くしていて安心しただけ。」


松田に取られてしまった席を仕方なく辞した彼は、いつもの窓枠に腰を預けて弁当を食べ始めた。

松田も袋からパンやらおにぎりやらを取り出す。

僕が決して少食な訳ではないけれど、松田の食べる量は僕より断然多くて、同じ運動部の赤羽も上回る。

そして輝月さんよりも少し少ない。


食べ盛りの男子高校生という感じがして、彼の食べっぷりは良くて、見ていて心地よい。

今日からここに輝月さんが加わるんだから、人が食事をするのを見るのが好きな人間(?)としては幸せな限りだ。

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