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春は出会いの季節だというけれど、この学校の二年生にとってはその出会いはあの双子以外に他ならなかったようだ。
休み時間ごとにいろんな教室から生徒が訪れ、みんな横目に彼らを見ては黄色い声や何か囁くような声を残して去っていく。
二人に話しかけようとする猛者もいたが、輝月さんはともかく咲夜君は相手に笑顔を向けるばかりで、取り付く島もないようだった。
おまけに二人とも僕と一緒に行動しようとするから、いやでも僕にも視線が集まる。
少なくとも僕とは一年以上一緒にいるわけで目新しいものは何もないだろうから、二人目当てで教室に来る生徒は僕がおまけに視界に入ってしまってさぞ迷惑だろう。
絶え間ない訪問客たちのせいか、午前中は嵐のように過ぎ去り、気がつけば昼休みを告げるチャイムが鳴り出していた。
僕は早速今朝、咲夜君が作ってくれたお弁当を取り出す。
タッパーはご飯とおかずに分かれていて、ご飯の上には黄色の炒り卵が乗っかっていた。
おかずには卵焼きと野菜炒め、それとタコさんのウィンナーが2本が入っている。
「よくうちの冷蔵庫の中身からこれが作れたね。すごい……。」
お箸でタコさんを掴みあげる。
油でツヤツヤひかるタコさんの目は黒胡麻で出来ていて、素朴な顔が可愛らしい。
僕が幼児だったら飛び跳ねて喜んだだろう。
今も表情に出さないようにしているだけで、喜びはようは幼児並みだけど。
「喜んでいただけて光栄です。今朝も含めて今日は卵料理が多めですが……。卵は一日に三個以内というのが理想だと聞きます。まぁ、ギリギリ大丈夫かと。今日の帰りに当面の食材を買って帰る予定です。旦那様は何かリクエストはございますか?」
「あ、あのさ咲夜君。」
彼に手招きをして、顔をコチラによせてもらう。
手で口元を覆い隠し、周囲に聞こえないようにできるだけ小さな声で話しかける。
「その旦那様って、せめて学校ではやめない?だいぶ不自然だよ。」
彼が僕の真似のように、口元を手で覆い隠して同じように僕の耳元に口を寄せる。
「ですが、旦那様は旦那様です。」
「えっと、だから輝月さんみたいに、呼び捨てでも全然構わないから、様づけはやめよう?」
「ですが、それでは不敬に……。」
「不敬もクソもあるか。昨日あんなことしたやつが良く言うよ。」
赤羽が自分の弁当を持って、僕の席の前に立っていた。
昼間の太陽が彼の全身を照らし、正義の化身の如く輝いて見える。
「自分の席に戻ったらどうだ?生憎ここは満席だ。」
「自分の椅子を持ってきたから問題ない。」
「一人で食事も出来ないのか。」
「その言葉、そっくりそのまま返す。」
「私の席はここだ。それに私が旦那様の隣にいるのは当然かつ必然。お前はお呼びじゃない。」
見えない火花がバチバチと散っている。
咲夜くんの顔には薄く笑みが浮かんでいるが、目は笑っていないし赤羽の顔に至っては笑みも浮かんでいない。
確かに赤羽にとっては二人はまだよくわからない存在で、その二人が突然学校にも現れたとすれば警戒するのは当たり前だ。
僕ももっと警戒したり疑ったりするべきなんだろうけどどうにも当事者としての緊張感が湧いてこない。
二人に対しての警戒心というのが欠如してしまっている。
これも二人が言う以前の僕と関係があるんだろうか。
「お兄ちゃんとアカバネくんはけーえんの仲だね。」
空になったお弁当箱を積み重ねながら、輝月さんが男二人の口喧嘩を興味深そうに見物している。
彼女のお弁当のタッパーにはご飯と炒り卵が三パック分。
野菜炒めと卵焼きがそれぞれ二パックづつ入っている。
「輝月、あんまり口喧嘩得意じゃないんだよね。お兄ちゃんはすごいよ、輝月だったらすぐに手を出しちゃうかも。」
そう言いながら、彼女が手に持ったフォークで卵焼きを真っ二つにする。卵焼きの中にはチーズが入っていて、それがタッパーにとろりと垂れてきた。僕は彼女と喧嘩をした相手の末路を卵焼きに重ねてしまい、まだ見ぬ相手に心の中で十字を切る。
「兎於菟、卵焼き好きなの?あげようか?」
「いや、大丈夫だよ。」
僕は輝月さんの申し出をやんわり断った。
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