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玄関を出て、鍵を閉める。
借りている家がお寺の敷地内にあるため、お寺と共有の大きくて立派な門をくぐって学校へ行く。
あとで大家さんに二人のことを話さないと。
大家さんは優しい老夫婦でこのお寺の住職さんでもあるから、きっとこの訳ありの兄妹を追い出したりはしないだろう。
門を抜けると転げ落ちそうなくらい急な坂道があり、しかもそれがぐるりと渦を巻くように別の下り坂と合流するようになっているものだから道の行き先が見えない。
坂の合流地点に設置されているミラーで車がこないことを確認してから、ゆっくりと降っていく。
去年の正月に、この地獄の坂道を無理やりバンのような大型車が登ろうとしてタイヤがスリップを起こしていたのを見た時は本当に怖かった。
後ろにいた僕はそのまま車が滑り落ちてきて押し潰されるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、なんとか今ここに立っている。
その地獄の坂を越えさえすれば、あとはほとんど何もなく平坦なルートだ。
一級河川をまたぐ大きな橋を渡り、建物の影から時々見えるその川を横目に見ながらコンクリートで舗装された道を歩いていく。
通勤と通学ラッシュで混み合う駅と小さな店がより集まった集合ビルを抜けて、両脇に街路樹のある小道を辿って行けば学校だ。
この時間帯はほとんど同じ学校に通う生徒が道を占拠していて、右を見ても左を見ても、うちの制服特有の白い布がひらひらと揺れている。
昨日事故があった場所は、植え込みがえぐれてしまっている以外に変化はなかった。
校門をくぐると広場に出る、そこは大きな円状になっていて、左側に二年・三年用の下駄箱。
右側に一年生と職員用の下駄箱がある。
そういえば、彼らが何年生になるのか聞いていなかった。
「二人はこのまま教室に行くの?それとも職員室?」
「初日の朝は職員室に来いと言われています。残念ながら、しばらくお側を離れなくてはいけません。心苦しいのですが。」
「何かあったら大きな声で叫んでね!知らない人についていっちゃダメだからね!」
「発作が出そうになったときは、ボトルの【薬】をお飲みください。」
「あ。兎於菟、防犯ブザー持ってる?」
はじめてお使いにいく小学生だってこんなに心配されないだろう。
いや、されるのかな?そういう心配をされたことがないからわからないけど。
二人の心配ぶりに周りも何が起こったのかと興味ありげにこちらに目線を投げてくる。
どうしたものかと思っていると、輝月さんが僕の右手に何かを握らせる。
開いた手の平には黄色い防犯ブザーが握らされていた。
「真ん中のボタンを押すんだよ。」
彼女の長い指がブザーの真ん中についているボタンを指差す。
「いや、やっぱり私は教室までお供するから輝月は職員室へいって、先生にご挨拶してきなさい。」
「えー!お兄ちゃんだけずるいよ!輝月も一緒に行きたいよぉ!!」
話の雲行きがだんだん怪しくなってきた。
僕が頼りなく見えるからと言って、流石に二人が少し目を離した隙にすぐに死んでしまうわけがない。
僕を巣の中で口を開けて餌付けされるのを待っているだけの雛だと思わないで欲しい。
そう簡単に落っこちないように十六年間生きてきたんだから。
「朝からうるさいぞ、不審者兄妹。」
軽く腕を引かれてそちらの方によろけると、よろけた先には不機嫌そうに眉間に皺を寄せた赤羽が立ってた。
顔には二人に向けた「なんでここにいるんだよ。」という台詞が張り付いている。
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