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「何百年ぶりに自分のもの以外の血を体内に入れたんですから、少し不調を伴うのも当たり前です。好転反応のようなものですよ。」

「好転反応。」

「兎於菟、ご飯食べられそう?食べさせてあげようか?」

「血を飲んでもご飯は必要なの?」

「それとこれとはまた別物だよー。ご飯は美味しいしね、気持ちも楽しくなるでしょ?輝月はみんなでご飯食べるの好きだよ。また兎於菟と一緒にご飯食べられて嬉しい。」


吐き気のせいで食欲は削られているけれど、輝月さんがスプーンでスープをひと匙とり、こちらに傾けてくれるのを拒めなかった。


彼女たちにとっては違うかもしれないが、僕にとっては同い年くらいの女性から食べ物を食べさせてもらうのは非常に恥ずかしい。

けれど、曇りのない目の輝きの前に勝てる人間なんてよっぽど捻くれているやつか空気が読めないやつに決まっている。

残念ながら、こっちは空気しか読まずに生きてきているんだから、仕方ない。


「おいしい。」


コンソメと野菜の味が胃の中を温かくする。不快感が少し和らいだ気がした。


「美味しいよね!お兄ちゃんは料理上手なの。お弁当も楽しみだなぁ。」

「旦那様の今の好物を教えていただければ、お作りいたします。なんなりとお申し付けください。」


彼はティッシュで僕の目に滲んだ涙を優しく拭ってくれた。

ご飯を食べさせてくれたり、涙を拭いてくれたり、頑張ったご褒美のように好きな献立を作ってくれようとする。


「前の僕って本当に大人だったの?五歳児じゃなくて?」

「兎於菟は大人だったよ!すごく格好良かったんだから!あ、今の兎於菟もかっこいいよ!でも、可愛いの方が似合ってる感じするかなぁ。」


輝月さんはそう言ってくれるが、二人のあまりの献身ぶりに以前の自分がよほど甘えたの坊ちゃんか子供であったような疑念が拭い切れない。

もし二人にこんなことをさせるのを当然のように受け入れる大人であったら、最悪だ。


輝月さんに二匙目を食べさせてもらう前に、僕は自分の分のスープ皿とスプーンを持ち上げた。


「そういえば二人とも荷物はどうしたの?」

「旦那様と輝月が寝ている間に運びました。最低限必要なものは揃えてあります。」


喋りながらもテキパキと食事をすすめていく咲夜君につられて、僕の食事のペースも早くなる。


パンに目玉焼きを乗せながら、ふと昨日のクラスの様子が頭の中に浮かんできた。

僕の右側の席と前の席は空席だった。

いや、まさかな。流石にそんなことはないだろう。僕は軽く頭を振り、朝食を食べることに専念する。


パンの上に目玉焼きを乗せる。

目玉焼きがパンから滑り落ちないように慎重に齧り付くと、半熟の卵がとろりと口の中に溶けて、黄身の濃い味が口の中一杯に広がった。

それをスープで軽く流し込み、千切りにされたキャベツとトマトを口に入れる。

完璧な朝食だった。あの背徳の液体を除いては。


朝食後の後片付けを誰がするかで一悶着あった後、片付けの権利を無理やり獲得した僕はあたふたしている咲夜君を居間に残してさっさと朝食の食器を洗った。

洗った食器を輝月さんが拭いてくれる。

あっという間に朝の片付けは終わってしまった。


その間、悪者に捕まったお姫様みたいに居間の端っこで不安そうにしている咲夜君は可愛かったけれど、口には出さないでおいた。


これから一緒に住むなら、家事の振り分けはきちんとしないと。

些細なことで喧嘩なんてしたくない。

夫婦の綻びは家事からと、どこかのネットニュースで読んだことがある。

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