幕間 -光があれば影が落ちる-
夜空の影に月の光が霞んでいる。
光は柔らかく夜に溶け、とろとろと空からこぼれ落ちそうだ。
「どうだった?」
影が言う。
こんなに美しい夜なのに、いつもあの人の周りは暗くて寂しい。
「良い方でした。可愛くて、責任感のありそうな男の子でしたよ。」
足元の白い花が風に揺らされて、さらさらと小さな音を奏でている。
「騙されそうな、お人好し?」
「そんなことは言っておりません。良い子だったと言っているんです。」
「あいつは、いつだってお人好しの皮を被った偽善者だ。」
影から手が伸びる。
その手が月光に闇を作り、長く伸びる影が足元まで這い絡みつくような恐怖が足元からせり上がってくる。
風が止み、花は歌うことを止めた。
「忘れるな、あいつの本性を。私のことも、裏切ってはいけない。」
「私の心は常にあなたのそばにあります。離れることはありません。」
「お前には、私しかいない。」
「はい。」
「……忘れるな。」
遠ざかっていく足音が聞こえる。
影から伸びていた恐怖が和らぎ、花はまたさらさらと可愛らしい音を奏で始めた。
思わず足の力が抜け、その場に座り込む。
見上げた月は遠い。
エリシオンが本当にあるとすれば、こんなところなんだろうか。
どちらにしても、関係ない話だ。
私は、何処へも行くことが出来ないんだから。
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