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「そして、私たちの存在ですが。私たちは旦那様の血を与えられた者です。」


お兄さんがさっきと同じ言葉を繰り返す。血を与えられた者。僕はさっきまで彼らも吸血鬼という種類の一部なのではと思っていた。でも、彼は僕が持てない銀のコインを持つことができるし、わざわざこんな言い方をするというとは、彼は吸血鬼とは違う種類の何かであるが、それは人間ではないということだろう。


「旦那様、おかしいと思いませんか?」

「今日はおかしいことだらけだよ。」

「ええ、それは否定しません。」


彼は口元に微かに笑みを浮かべた。そういえば、彼の笑った顔は初めてだ。心がぽっと明るくなる。つられて僕の眉も下がった。

すると彼は突然動きを止め、なぜか慌てたように咳払いした。それも、大人びた子供のような仕草に見えてなんだか可愛らしく見えてくる。


「修三様が先ほど述べた吸血鬼の特殊能力ですが、今の修三様にはその片鱗は見られません。」

「それって、僕のそういう力的なものも、僕の年齢や記憶と同じように風になって飛んでいっちゃったてこと?」


それが一番あり得る説なんじゃないかなと思った。年齢の不足や記憶が蘇生に影響するなら、力に関してもそれに起因していてもおかしくない。


「いえ、力に関しては他とは異なるのです。特殊な力は吸血鬼が吸血鬼であるために不可欠な能力です。血を得るためにも、吸血鬼という希少な種族が生き抜くためにも欠かすことはできません。」


「吸血鬼が弱々だと、みんな血を採られたくないからすぐに殺そうとしちゃうでしょ。本当人間って野蛮だよ!」

「まぁ、確かに一理ある。」

「ですから、吸血鬼が蘇生した場合に力が不足するということは考えられません。いままで蘇生したケースというのはあまり多くは聞いておりませんが、そのいずれもそのようなケースには当てはまりません。」

「でも、僕は実際そういう力は持っていないよ。普通の人間と同じ。」


試しに居間に置いてあるちゃぶ台に思い切りパンチしてみたけれど、そこそこ大きい音がして自分の右手が赤くなっただけだった。


「兎於菟、痛そう。」

「あまり変なことはなさらないでください。すぐに治るといっても、痛覚はあるはずです。」

「ごめんなさい。」


僕はすぐに謝って、右手を膝の上に戻した。


「吸血鬼には特殊な力がありますが、もう一つ。まだ修三様に言っていないものがあります。それが、私と輝月の正体です。」

「さっきから言ってる【血を与えられた者】っていうのだよね。」

「ええ、そうです。文字通り、私と輝月は修三様から血を分け与えられています。私たち二人の血にはあなたの血が混ざっているのです。」

「血が混ざる……?」

「ええ、遺伝子的に。というわけではありません。最初に輝月が言いましたよね。私たちはあなたの子供では無いと。私たちがあなたの血を得たのは後天的なものです。」


彼らとは血のつながりはないが、彼らは僕と同じ血を持っている。人間の血と吸血鬼の血の両方を持っていて、両方の特性があるということなのだろうか?


「ですから、私たちは人間のように銀に触れることが出来ます。」

「兎於菟ほどではないけど、体も丈夫だよ。あんまり風邪もひかないし、骨折くらいならすぐに治るし。」

「え、いいとこ取りってこと?」


それなら吸血鬼より、断然そちらのほうがいい気がする。こっちはうっかり銀に触れると手が火傷どころかステーキになるのだ。


「確かにそのように聞こえますが、もちろんデメリットはあります。私たちは不死ではありません。首が飛べば死にますし、ただの出血多量でも死にます。まぁ、死ににくい体ではありますが。それに、不老でもありません。加齢のペースは普通の人間よりゆっくりですが、歳はとります。怪我や病気では死なずとも、いずれは老衰で死ぬでしょう。」

「普通の人よりちょっとタフって感じかな?」

「大分タフだと思うけど。」


ちょっとどころではない。おそらく彼らの話している感じだと、きっと年齢は百歳を超えているはずだ。一体いつから生きているんだろう。

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