26-2・キーホルダー捜索~仙木の心の声~バイクNG

-小体育館-


 紅葉と真奈は、卓球部の練習場に来て、半田好代を探す。手前の台でオールラウンドのゲームをしていた紅葉の友人・藤林優花が紅葉達に気付いて手を振った。


「どうしたの、紅葉ちゃん?」

「ちぃ~す、ユーカ!半田サンに会いに来たんだけど居るっ!?」

「いるよ!好代ちゃ~ん!」


 半田好代は奥の台でダブルスの練習をしていた。優花に呼ばれて、一緒に練習をしていたチームメイト達に「ちょっとゴメン」と言ってから、紅葉達の所に寄ってくる。優花も、ゲームの区切りが付いたので、寄ってきてくれた。


「早速だけど、依頼内容を詳しく聞かせて。」

「うん。」


 依頼内容は、生まれて間もない頃に祖父母からプレゼントされた「パンダのぬいぐるみキーホルダーの捜索」。

 物心つく前からパンダのぬいぐるみと一緒に居た好代は、パンダが大好きになり、自然とパンダグッズを集めるようになった。彼女にとって、パンダのぬいぐるみは『生まれて初めての友達』、そしてキーホルダーは小学校時代から鞄に付けていたお守りだった。

 その大事なお守りが無くなった。好代は、うっかり落とさないように、いつもパンダのキーホルダーには気を遣っていたから、落とすはずがない。学校に来た時は確実にあったのに、昼休みを過ぎたら無くなっていた。


「他の人には、ただのキーホルダーなんだろうけど、

 私には、とても大切なお守りなの。

 鞄や机の中は何度も探したし、念のためにゴミ箱も見たけど無いの。

 探すの手伝ってもらえるかな?」

「好代ちゃんが、いつも大切にしていたキーホルダーなんだよね。

 私と好代ちゃんも探したいんだけど、

 来週、冬季大会があるから部活をサボるわけにもいかなくて・・・。

 私からもお願い、紅葉ちゃんと熊谷さんで、探すの手伝ってあげて!」

「そっか~・・・そんなに大切なキーホルダーなんだぁ~。」

「解った、探してみるよ。」

「ありがとう、お願いします。」


 紅葉と真奈は、とりあえず、好代が所属する2年E組の教室に行って捜索をする。だが、それらしき物は見つからなかった。「絶対にあったはず」の物が、無くなったって事は、盗まれたのだろう。真奈は、話を聞いた時点で何となく察しが付いた。

 好代への嫌がらせのセンが強いか?聞き込みをすれば、誰が恨んでいるか、もしくは、虐めているかは解るかもしれないが、容疑者を問い詰めたところで、知らないふりをされたら終わり。容疑者の机の中や所持品検査をしても、見付かる可能性は低いように思える。


「こんな時、今までなら、ど~してたの?」

「いつも、依頼人に、もう少し色々聞いてから、また探してたよ。

 でも、2~3日探して、それでもダメなら、

 『見付かりません、ごめんなさい』してたかな。」

「ありゃ?ミッション失敗してたの?」

「うん、推理研究会が私1人じゃ、限界があるからね。

 一緒に探してあげて、依頼人の方が、何となく、諦めが付いて、お終いって感じ。

 田村先輩のお父さんのバイクの時みたいに、クリアできた事の方が少ないよ。

 でも、いろんなお手伝いをしてるお陰で、人脈には自信はあるよ。」

「・・・んぁっ?」

「どした?何か見付けた?」


 紅葉の≪アホ毛レーダー≫が反応して、直ぐに収まった。


「みっけたんぢゃなくて、ヨーカイの反応があったの。」

「えっ?怖っ!近くにいるの?」

「多分ね。でも、直ぐに消えちゃったから、よくワカンナイ。」


 紅葉と真奈は、妖怪を気にしつつ、再び、パンダのキーホルダーを探す。紅葉は、容赦無く、人の机の中を覗き込んで、トランプ等を見付けて引っ張り出した。そして、真奈に「トランプしよう」と言って怒られる。別の机の中からコミックを引っ張り出して読み始めて、真奈から「関係無いことをするな」を注意される。


「E組の教室のは無さそうだね。」


 気が付いたら、すっかりと日が暮れていた。キーホルダーは、また明日、探すことにして帰宅をする。




―翌朝―


「おはようっ!」

「んっ!ちぃ~っす!」 「おはよっ!」


 紅葉&美穂&真奈が並んで登校をしていたら、逆方向から半田好代が寄ってきた。自転車カゴのある鞄には、パンダのキールダーは付いていない。


「念の為に、帰ってから、家の中を探してみたけど、やっぱり無かった。」

「そっかぁ~・・・やっぱ、学校で無くなったんだねぇ。」

「もう一回確認だけど、朝、学校に来た時はあったんだよね?」

「うん、絶対にあった。」

「昼休みに見たら無かったんだよね。

 登校から昼休みまでに、何回くらい教室から離れた?」

「昨日は、トイレに行った以外は、始業式の時くらいかな。」


 好代がクラス内で仲間外れにされていた場合、好代が席を立った隙に、意地悪グループにキーホルダーを盗られた可能性はある。2Eで聞き込みをすれば、一定の証言は取れるだろう。だが、始業式で全員が教室に居なかった時に盗まれたのなら、捜索の難易度は急激に上がりそうだ。


「なぁ?何の話だ?」


 会話の内容が解らない美穂が、真奈に訪ね、説明を聞いて「あぁ、その件か」と納得をした。そして、生徒玄関で好代と分かれたタイミングで、真奈に呟く。


「なぁ、真奈。アイツ(好代)、モテるのか?」

「え?なんでですか?」

「話した感じ、いじめられっ子とは思えないからさ。

 キーホルダー盗ったっての、アイツ(好代)を好きな奴なんじゃねーの?」


 紅葉&美穂&真奈の後ろを歩いていた男子生徒が、美穂の言葉に対して表情を引き攣らせたが、紅葉達は気付かない。

 男子生徒は、2Eの下駄箱に行って靴を履き替えてるところで、好代に挨拶をされる。


「センキチ君、おはよう。」

「うん、おはよう。」


 ボソボソと小声で挨拶を返す男子の名は、仙木智(せんき さとし)。好代と同じ2年E組の生徒。仲間達からは、センキチという渾名で呼ばれている。センキチは、ワザとマゴマゴと手間取りながら靴を履き替えて、先に教室に向かった好代の後ろ姿を眺める。

 好代は、紅葉や麻由のように華のある目立った生徒ではない。ルックス的には普通くらい。だけど、誰にでも優しく接してくれる。学力的には、3年生進級時には特進クラスが楽に狙えるレベルだ。

 対するセンキチは、好代と同じ文架西中出身で、頑張って好代と同じ高校に進学したが、到底、特進を狙える成績ではない。2年生になって、同じクラスに振り分けられた時は、「これは運命」「絶対にコクって交際をする」なんて思ったが、何も行動を起こせないまま、3学期になってしまった。

 パンダのヌイグルミのキーホルダーは、「好代が大切にしている物」と知って、好代を身近に感じたくて、昨日の始業式で、皆が教室から出たタイミングで盗った。今は、自宅に置いてあるので、学校内をどんなに捜索しても、見付かるわけがない。

 好代に焦がれる想いと罪悪感。人知れず返却するべきか、このまましらばっくれるか、センキチは迷っている。


「わぁっっ!!」 「うわっ!」


 ボケッと好代を眺めながら下駄箱スペースから出てきたセンキチが、同じく下駄箱スペースから飛び出してきた真奈とぶつかる。


〈半田さんを独り占めしたいっ!!〉


 その瞬間、真奈の脳内に大声が聞こえた気がした。


「えっ!?」


 耳ではなく脳に聞こえた?誰の声?妄想?ただの気のせい?周囲を見廻す真奈。センキチは、「ごめん」と小声で謝罪をして、足早に立ち去っていった。


「ダイジョブだった、マナ?」

「う、うん。・・・今、あの人(センキチ)、何か変なこと喋った?」

「ぅん、マナに『ゴメン』って言ってたよ。」

「いや、そうじゃなくて・・・あれぇ?やっぱ気のせいかな?」

「なにが聞こえたんだ?」

「聞こえたって言うか、急に『好代ちゃんを独り占めしたい』って感じて・・・。」

「なんだそりゃ?

 オマエ(真奈)の妄想か?そんな趣味があるとは思わなかった。」

「ち、違います!私はノーマルですっ!」


 アナザービーストに狙われる危機に陥った事、無意識にカマイタチの依り代になっていた事、そして強制的にリベンジャージャンヌのマスターになった事。それらの非日常の連続が、真奈の能力を覚醒に導いてるのだが、まだ、この時は特殊能力を身に付けつつある事に気付いていない。




-昼休み・生徒会室-


 大量のパンが入った袋を提げた麻由が、生徒会・会計の甲斐敬子(かい けいこ)に呼ばれて入ってきた。室内には、同じように呼び出された冨久海跳、副会長の間地芽江(まじ めえ)、議長の木調進(ぎちょう すすむ)、庶務の塩尾夢(しおお ゆめ)が居る。


「推理研究会・・・じゃなかった、愉怪な仲間達宛ての依頼が来ているんだけどさ。

 ・・・ちょっと見てもらえる?」

「えっ?もうですか??昨日の今日で依頼が来るなんて、耳が早いですね。」

「君の友人からの依頼が一通、そして、君本人からの依頼が一通。

 議論するレベルの内容ではないが、

 君が、こんな突拍子も無い依頼を出すなんて、予想してなかったぞ。」

「えっ!?私が依頼人ですか??」


 麻由は、海跳に促されて、生徒会室に備え付けられたパソコンのメールを確認する。

 一通は、差出人が源川紅葉。「昼休みの時間を今の倍にする」「職員室を潰して学食を広げる」「授業は午前中だけにして、午後からは放課後にする」これらが実施できるように、生徒会と愉怪部で活動をする。言うまでも無く議論の必要すら無い提案だ。


「授業時間とカリキュラムは、文部科学省で定められている。

 一日の授業時間を減らすと、3年間で高校を卒業できなくなるのだが、

 君の友人は解っているのか?」

「おそらく理解していません。良く言い聞かせます。」


 もう一通は、差出人が葛城麻由。現校則の「取得しても良い免許は原付のみ」の撤廃と、「在学中の自動二輪、及び、自動車免許の取得」の許可。「学校へのバイク通学」の解禁。これらの要望を生徒会主導で教職員に働きかけるという内容だった。


「・・・こ、これは一体?」

「君の依頼ではなさそうだな」

「も、もちろんです。私が、こんな突拍子の無い依頼をするわけがありません。」

「・・・だろうな。君から直接聞けて安心をしたよ。

 バイクは、昨日議題にした無許可ライブとはワケが違う。

 優高生には必要の無い、卒業後に自己判断で楽しめば良い事だからな。」


 麻由は、こんな依頼をした覚えが無い。バイク通学や、在学中の免許取得なんて、必要が無いと思っている。

 誰が麻由の名を語って依頼をしたのか、直ぐに見当が付いた。これでは、「愉怪部を私物化して、強権を発動させるのでは?」と生徒会役員達が危惧したのが、まんま当て嵌まってしまいそうだ。麻由は、大きな溜息をつく。




-放課後・2A教室-


 昨日に引き続き、愉怪な仲間達部の打合せが始まった。

 早速、麻由が声を荒げる。推理研究会→愉怪な仲間達の改名が承認された事は、既に昨日のうちにLINEで伝えてあるので、本日のお題は、生徒会経由で寄せられた依頼について。


「美穂さんが私の名前を語った依頼ですね!」

「ありゃ?バレちゃった?」

「当たり前です!

 私の名で、こんな突拍子も無い依頼をするのは、

 美穂さん以外には考えられません!」

「突拍子無いか?結構、便利だと思うんだけどなぁ。」

「こんな議案が通るわけがありません。卒業後に進学先で取得すれば良いのです!」

「そこを何とかするのが生徒会長だろ?

 普通は、16歳になれば中型バイクまで取れるし、

 18になれば普通免許を取れるんだ。

 これといった理由もなく、こんな旧態依然とした校則があるのはどうかと思うぞ。

 役員共を説得して、校長に掛け合って、バカげた校則は撤廃しろよ。」

「それは暴論です!

 日常的にバイクに乗り回すなんて、

 優麗高の質実剛健の本分から外れてしまいます!

 そもそも、原付バイクでの通学禁止と、

 在学中の自動二輪や普通免許の取得禁止は、入学時の規約ですよ!

 不満があるのなら、別の学校に入学してください!」

「卒業後に進学しないで就職する奴はどうするんだよ?

 就職先で免許無しは可哀想だぞ。」

「その為に、原付は、登下校には認められていませんが、取得は許可されています!

 卒業式を終えれば、卒業生は3月中に教習所に通えます!

 美穂さんだって、それを知っているから、

 原付の免許は持っているのでしょうに!」

「まぁ、そう怒るなよ。生真面目すぎるぞ。」

「ミホゎナイショでバィク・・・・もがもがぁ」

「オマエは余計な事を喋るな!」


 紅葉が「美穂はバイク通学をしている」と喋りそうになったので、美穂が慌てて紅葉の口を塞ぐ。


「美穂さんが不真面目すぎるんです!これが怒らずにはいられますか!

 愉怪部は、私が強権を維持する為の私物集団と思われてしまいますよ!」

「毎日、何キロも自転車に乗って通学なんて体力の無駄じゃん。

 バイク通学が出来れば、その体力を、授業や自学の集中の為に使えるんだぞ。」

「その程度で消耗するなんて、体力が不足しすぎです!

 それを理由にして勉学に励めない生徒は、

 バイク通学になっても勉強はしないでしょうね!

 部活動で、体力を消耗させた上で、一定の成績を修めている生徒は、

 全国に幾らでも居ますよ。」

「高校生のうちから交通ルールを学んでおけば、後々、役に立つぞ。」

「交通ルールなら、卒業後に学んでも遅くはありません!」

「高校生のうちに学んでおけば、将来の事故率がさがるんじゃねーか?」

「ならば、そのデータを示してください!」

「普段からバイクに乗ってれば、妖怪が出た時に、現場に急行できて便利だぞ。」

「た、確かに、それは事実ですが、あくまでも、私達の個人的事情です。

 高校生活とは関係ありません!」


 美穂の主張は一貫性が無い為、麻由の正論を覆せない。


「紅葉もなんか言ってやれ!紅葉は今まで無免許でモトコンポに乗ってんだぞ!

 免許無きゃ、モトコンポ禁止だぞ!」

「んぇぇ!!?妖力で召喚した☆綺羅綺羅☆(モトコンポ)もダメなの!?」

「あれは、バイクの形をした自転車です!

 原動機で動くのではなく、紅葉の自力(妖気)で動いているので、

 無免許は関係ありません!

 ただし、例え自転車でも、法定速度以上で走れば、

 スピード違反にはなってしまいます!

 私だって、その程度の事は調べました!」

「いちいち、バイクを召喚して、自力で現場に行って、到着した時にはバテている。

 ・・・それじゃマズいだろ。」

「ただの言い訳ですね!

 常時、カロリーメイトなどの非常食を携帯しておけば、どうとでも成ります!

 そもそも、今までは、その様にしていましたよね?

 急に『体力が消耗する』等と言われても、後付けの理由にしか聞こえません!」

「ジャンヌのバイクは!?」

「あれは、バイクの形をした馬です!

 そもそも、ジャンヌは、優麗高の生徒ではありません!

 言うまでもなく、ユニコーンで空を飛んでも、飛行機の免許は必要ありません!」


 結論から言えば、紅葉が乗り物を召喚しても免許は必要無く、法定速度以下で走れば道路交通法違反にもならない。ジャンヌの空飛ぶ馬も免許は必要無し。ついでに、空飛ぶバルミィは、鳥や虫が飛ぶのと同じ扱い。

 卒業後に大半が就職する高校ならともかく、進学校の優麗高で、在学中の免許は必要無い。そもそも、学校の方針なので、生徒間の協議でクリア可能な問題ではないし、仮に先生が許可をくれたとしても、PTAが猛反発をして「今期の生徒会がバカの集団」として汚名を着るのは間違いが無いだろう。

 最初は、軽く考えて、口八丁で麻由に「バイク免許の取得」の許可運動をさせるつもりだった美穂だが、麻由の剣幕に負けてしまった。これ以上粘ると、美穂の原チャ通学がバレそうなので、あまり深入りできない。


「半分冗談なんだから、そんなに怒鳴らなくても良いじゃん。

 オマエ、バイクの議題と、オマエの名を語ったことの、どっちに怒ってる?」

「私の名を語ったことです!他の名前で論外な依頼が来ても、相手にしません!」

「そっちで怒ってんのかよ?・・・小せ~なぁ。」


 美穂は、「麻由を怒らせたら厄介」「アプローチ方法を間違えた」と改めて学習した。

 その日は解散になり、紅葉と真奈は引き続きパンダのキーホルダー捜索へ、麻由は部活動へ、美穂は帰宅をする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る