第3話 絵の作者を探して

手紙を専門家に預けた数日後、僕はふとした拍子に絵の作者についても気になり始めた。この美しいヌード画を描いた人物が誰なのか、なぜ祖父の家にそれがあったのか。手紙の解読には時間がかかると聞かされていたので、手がかりを待つ間、絵そのものについても調べてみようと思ったのだ。


まずは、祖父に再び話を聞くことにした。祖父はこの絵を戦時中に譲り受けたと言っていたが、それ以上の詳細は知らない様子だった。しかし、何か思い出してくれるかもしれない。


「おじいちゃん、この絵を描いたのは誰か覚えてないかな?」


祖父はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。「確か、その絵は疎開先で親しくなった画家から譲り受けたものだったと思う。名前は…ん、たしか『伊藤』とか『佐藤』とか、そんな普通の名前だった気がするんだが…。はっきりとは覚えていないんだ。」


名前がはっきりしないという情報に少し失望しつつも、疎開先で親しくなった画家から譲り受けたという話は新たな手がかりだった。僕はその画家が誰なのかを突き止めることが、手紙や絵の謎を解く鍵になるかもしれないと感じた。


その日から、僕は疎開先で活躍していた画家や戦時中に活動していた芸術家たちについて調べ始めた。近所の図書館やインターネットを駆使して、当時の美術家たちの名前や作品を検索し、手がかりを探した。


ある日、地元の図書館で「戦時中の日本画家」という本を手に取った。ページをめくりながら、ある名前に目が止まった。「伊藤圭介」という画家がその本に紹介されていた。彼は戦時中、疎開先で絵を描き続けたという。さらに、彼が描いた作品には女性のヌード画も含まれているという記述があった。


「もしかして…」


僕は急いでインターネットで「伊藤圭介」についてさらに調べた。彼は戦時中、疎開先で多くの作品を制作し、その多くが戦後も高く評価されたという。しかし、彼の作品は散逸しており、すべてが現存しているわけではないらしい。


さらに調べていくと、伊藤圭介が描いたある作品が美術館に展示されていることを知った。その作品が今、僕の手元にある絵と関連しているかもしれないという期待が膨らんだ。


「これは、直接見に行くしかない。」


そう決意した僕は、次の日、美術館へ足を運んだ。展示されている伊藤圭介の作品は、戦時中に描かれたものであり、確かにどこか僕の絵に通じるものがある。しかし、明確に同じ画風とは言い切れなかった。


美術館のスタッフに尋ねてみたが、彼らもこの画家の作品については限られた情報しか持っていなかった。ただ、あるスタッフが「伊藤圭介に詳しい研究者がいる」と教えてくれた。その研究者は、戦時中の日本美術に関して権威とされている人物で、個人で収集した資料も豊富だという。


「その人に会ってみたい。どうすれば会えるでしょうか?」


僕の熱意を感じ取ったスタッフは、その研究者の連絡先を教えてくれた。僕はその場で研究者に連絡を取り、会う約束を取り付けた。伊藤圭介に詳しい人物に会えば、僕が持っている絵の秘密に少しでも近づけるかもしれない。


家に帰り、絵を再び見つめた。美術館で見た作品とは違う何かを感じる。それが何なのか、まだ言葉にはできなかったが、この絵が持つ魅力と謎はますます深まっていく。


次の日、僕は研究者との面会に向けて準備を始めた。この絵に隠された真実を探し出すために、これからどんな旅が待っているのか、胸が高鳴るのを感じながら。

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