第2話 手紙の謎

手にした手紙をじっと見つめながら、僕の心はざわついていた。古びた紙に記された「佐代子」という名前だけが、かすかな光を放つかのように浮かび上がっている。しかし、それ以外の文字は時間の経過と共に消え去り、何が書かれていたのかは読み取ることができない。


「佐代子…」


その名前が僕の頭の中で何度も反響する。祖父に手紙について尋ねたが、彼は何も知らないと言う。それどころか、絵の背面に手紙が隠されていたことすら気づいていなかったらしい。僕の中で、この手紙と絵がどのように結びついているのかを知りたいという欲求が強くなっていった。


「まずは手紙をもう一度よく見てみよう…」


手紙を慎重に広げてみると、紙質は厚手で、触れるとパリパリと音がする。どうやら、かなり昔のものらしい。ところどころに茶色く変色した部分があり、それが年月を感じさせた。唯一読める「佐代子」という名前も、書体からして古風なものだとわかる。


しかし、その他の部分は本当にかすれてしまっており、何とかして内容を読み取ろうと努力したが、無駄だった。諦めかけたその時、ふと、ある考えが頭をよぎった。


「専門家に見てもらえば、何か手がかりが得られるかもしれない…」


絵画や古文書の修復を行う専門家に頼めば、この手紙の内容を解読できるかもしれないと思った。早速、インターネットで調べ、近くにある美術館や大学の研究室に問い合わせてみることにした。


次の日、僕は手紙と絵を持って、美術館の古文書修復部門に出向いた。担当者は中年の女性で、見るからに経験豊富そうだった。彼女に手紙を見せると、興味深そうにそれを手に取り、慎重に観察し始めた。


「これは…戦時中に使われていた紙かもしれませんね。インクの成分や書体からも、その時代のものだと推測できます。ただ、かなり劣化が進んでいるので、内容を解読するには少し時間がかかるかもしれません。」


彼女の言葉に僕は期待を抱いた。時間はかかるかもしれないが、手紙の内容が解読できれば、この絵にまつわる謎に少しでも近づけるだろう。


「では、お願いします。できるだけ早く知りたいんです。」


僕はそう言って手紙を彼女に預けた。彼女は優しく微笑みながら、「お任せください」と答えた。


家に戻ると、絵の前に立ち、その美しさに再び見入った。女性の顔立ちや体のラインは、まさに完璧としか言いようがない。戦時中の混乱の中で、このような絵がどのようにして描かれたのか、そしてなぜ祖父の家にあったのか。その答えが、手紙の中に隠されているかもしれない。


その夜、僕は「佐代子」という名前を胸に抱きながら、夢の中で彼女に出会うことを期待して眠りについた。だが、目が覚めた時には何も覚えておらず、ただ絵の中の女性が僕をじっと見つめている感覚だけが残っていた。


物語はまだ始まったばかりだ。僕はこの絵と手紙に隠された真実を追い求め、次なる手がかりを探し続ける決意を固めた。

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