第2話
私は彼女の家を離れた。私の足は静かに、しかし強く垂直に自転車のペダルを漕ぎ出した。夕陽が落ちた後の街には、薄暗い道の遠くに街灯が連なって白い光を落としている。彼女の手の温かさ。彼女の作る笑顔。私は今、長谷川さんの「友達」である。彼女が「友達から始めましょう」と言って私の手を握った時、彼女はどんな気持ちだったのか。私はついと立ち漕ぎを始めた。
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次の日、学校に向かう途中も彼女のことをぼうっと考えていた。昨日の帰り道を、なにか私が話しかけ続けていたら彼女は喜んだのだろうか。あるいは、もう少し愛想よく振る舞うことはできただろうか。そんなことを考え続けた。
私は気づくと教室のドアを開けていた。そしてまた気づくと、教室の左後ろ自分の席に座っていた。不意に私の目は彼女を探した。彼女は教壇の前の席で一人本を読んでいるようだった。私はそれを暫時見続けた。しかし同時に、次第に複雑な心情が私を取り巻いてきた。
私は確かに昨日、彼女に告白した。ともかく私は今、歴とした彼女の友達のつもりである。私が別段彼女に話しかけて悪い道理はない。しかし、私はこの教室において、彼女に話しかけることを億劫に感じている。それは、私と彼女と二人きりではない、教室に他の人がいるからなのだろうか。いずれにしても、私は彼女に気兼ねなく話しかけて良いはずの関係であることを確認したのに、何かが私を妨害するのである。しかし彼女は、昨日に私が告白をする前から、しばしば私に話しかけている。何か、私と彼女とで、違うのである。
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放課後私は帰り支度をし、彼女の方を見やった。彼女は、その声が私に届かないほど遠くで、彼女の女友達らと談笑していた。ぼんやりと彼女を見続けていると、不図彼女は私に目を合わせて微笑んできた。驚いた私は慌ててだらしない姿勢を直した。すると彼女は友達らにさよならを言ったようで、机々の間を縫って私の元まで歩いてきた。突然のことに、私は彼女の顔をずっと見てしまっていた。
「長谷川さん、今日は一緒に帰りますか。」
「もちろん、一緒に帰りましょう。少し待ってね。」
彼女は自分の机へと帰っていって、支度を始めた。今度は私が、彼女を追いかけるように彼女の席まで行って、
「君の友達らのことは良いんですか。」
と言った。彼女は笑みをまた少し作ってから、「良いのよ。さ、帰りましょう」と言った。
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