第36話
声のした方に振り返ってみると、三人組のうちの一人に陽川は腕を掴まれていた。
やはり、陽川に普段のような覇気はなく、オドオドとした様子で振りほどくような仕草もみせない。
「なんか喋ってみろよ。ストリー検定段位持ちの俺なら一発で見抜いてみせるからよ」
半笑いで、その男が言うと、周りの二人も同調するようにニタニタと笑う。
一見して腹立たしい光景だけれど、俺はどうして良いものか分からずにその場に立ち尽くしていた。
陽川に俺は否定された。
そんな俺が陽川を助けて良いものかと。
むしろ今ここで助けた事で、余計な反感を買ってしまうかもしれない。
そう考えたら動くことが出来なかった。
「お前にとってさ、ストリーとは、推しとはなんだ?」
俺の背後からそんな声がして、先ほどまであくびをしていたとは思えない、キリッとした顔の吉岡が陽川と三人組の間に割って入った。
「はあ?なんだよお前。お前に用はないからさっさと散れよ」
怒鳴り声にも近い声を陽川の手を掴んでいる男が威嚇のように発するが、それを意にも介さない。
そういった様子で、吉岡は男の手を掴み、そして振り払った。
「……けんちゃん」
「お前!何すんだよ!?」
振り払われた側の男はガナリ声を上げながら、吉岡に歩み寄る。
「推しって言うのはさ、とても尊いもので、傷つけたりするもんじゃねえよな?愛でて愛でて、決して見返りは求めない俺はそう思うんだよ。同推しを持つものとして、お前はどう思う?」
怯む様子は全く見せずに、吉岡は理路整然と言葉を並び立てる。
吉岡が何を言っているのかが俺にはよくわからなかったけれど、三人組がたじろいでいるのはわかった。
ぐうの音も出ない。そう言った樣子で三人組は口をつぐんだ。
吉岡はひとつ舌打ちをしてから追い打ちをかけるように言った。
「覚悟も持たずに推しを持つな。推しに見返りを求めるな。推しは推せる時に推せ」
吐き捨てるようにそう言い切ると、吉岡は踵を返し、陽川の手首を掴んでこちらに向かって歩いてきた。
「矢野も桐生も行くぞ」
「お、おう」
頼もしい吉岡の背中を追いかけるように、俺もその後に続いた。
心なしか、後ろ姿からチラチラ見える陽川の横顔が赤くなっているような気がした。
対人スキルゼロの変人美少女が恋愛心理学を間違った使い方をしたら さいだー @tomoya1987
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