第25話
朝学校に向うために家を出ると、夏もいよいよ陰り始めたようで、心地よい風が吹き抜けて行った。
爽やかな風を受けて、思わず清々しい気持ちになってしまう。
もしかしたら、昨日家に帰ってから、良い知らせがあったせいかもしれない。
あれから一週間と余日。ストリーについて意見を交わしたり、動画を共有したりして、あまり得意ではなかった陽川姫とも分かりあえるようになって来たのだ。
その証拠とも言わんばかりに、昨日の夜はグールプトークではなく、個人トークが陽川姫の方から飛んできたのである。
『あんたの事、エマに近づく害虫みたいに思っていたけど、そんなに悪いやつじゃないのかもね』
見る人が見たら卒倒してしまいそうな文章ではあるが、個人的には達成感を感じていた。
矢野さんをグールプトークに参加させる為には、陽川を懐柔する事が必要不可欠だった。
そんな難解なタスクを、一週間と数日を使っただけで達成することができたのだ。猛獣使いのスキルを手に入れたと言っても過言ではない。
これも恋愛心理学における、単純接触効果の賜物なのだろう。単純接触効果とは、特定の相手とさり気なく会う回数や、会話を交わす事で、自然と高感度を上げていく手法だ。
滝沢は単純接触効果の使い方を間違えていた。
けれど、ある程度の距離感を保ち、正しく心理学を用いれば、正しい結果が得られるのだ。
決して俺が考え出した技術ではないけれど、今日の所は少しくらい調子に乗ってもバチは当たらないだろう。
なんせ、今グループトークのメンバーは四人に増えている。
吉岡、陽川姫、俺、そして矢野エマだ。
あとはここになんとかして滝沢凛を参加させるだけ。
それもあの手この手を尽くして、なんとか了承が得られそうな所までもってきた。
さり気なく、三人でいる時は滝沢の事を褒めるようにはしてきた。
恋愛心理学によれば、仲良くしている人物が誰かを褒める時、ウインザー効果という物が働くらしい。
ウインザー効果と言うのは、周囲の人に、良い噂を流して貰うと、そういう物だと信じさせる効果の事を言う。
今回においては、滝沢凛が停学処分をくらっていたのが幸にも良い方向に向いた。
俺がどんなに自然な感じで滝沢を褒めても、奇行を繰り返す本人がいたんじゃこうはいかなかっただろう。
今ではなんとか、滝沢凛と言う人物は人と接するのが不器用なやつ。元いたグループの二人にはそう認知される所までなんとか持って来ることができたと自負している。
唯一の不安材料はと言えば、今日、謹慎が開けて、滝沢が登校してくる事くらい。
どんなに高感度を上げても滝沢の行動一つで全てをぶち壊す可能性があるのが恐ろしい所だ。
しかし、ここ数日は、できるだけ滝沢の家まで通い詰めて、どうすれば人とうまく接する事が出来るのか、俺なりに説いてきたつもりではある。
どこまで伝わったか定かではないが、できるだけ近くにいて、フォローはしてあげようと思う。
果たして今日はどんな一日になるのか。
まるで入学式初日のような、ワクワク感と若干の不安が入り交じった気持ちを持って、通学路を歩き出した。
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