第24話

「お前っていっつも怪我してんのな」


「うぅ……」


 注目を集めてしまった駅前を離れた裏路地。ペダルを漕ぎながら荷台に座る、あちこち傷だらけの残念美少女に声を掛けると、うめき声のような返事が返ってきた。


 恥ずかしいのか、傷が痛むのか、はたまたそのどちらもなのか、俺に知るヨシはない。


「とりあえず、家に送ればいいよな……その顔で人前に出るのはちょっとアレだし」


「う、うん」


 今回も前回も滝沢が怪我をしてしまった要因は俺にもある。

 罪悪感がないのか、と問わればノーとは言えない。


 今回、俺に助けを求めてきた事も含めて、一つ提案をすることにした。


「スマホの修理だけど、明日でもいいか?明日の放課後なら付き合うからさ」


「い、いいの?」


「いいのって、その為に俺を呼んだんだろ?」


「う、うゆ」


「うゆってなんだよ?噛んだのか」


 少し小馬鹿にしたような声色で話しかけた。元気づけるつもりだったのだけれど、しばらく返事は返ってこなかった。心配になって後ろをチラッと盗み見ると、顔を手でおさえて俯いていた。


「傷が痛むのか?大丈夫?」


 慌てて自転車を停めて降りると、体で自転車を支えながら滝沢の方に振り返る。


 滝沢が、顔を上げる気配はない。


 心配になっておさえている手の下から顔を覗き込んでみると、首筋を紅潮させ、唇を一文字に引き結んでいた。


 首筋が赤く見えるのは、乾いた血液のせいかもしれないと一瞬思ったけれど、測らずも街頭の真下に自転車を停めたおかげでしっかりと見る事ができたから見間違いではないと思う。


 擦りむいている可能性は否めないが。


「み、見ないで、ひ、ひどい顔していると、お、思うかりゃ」


 また語尾を噛んでいたみたいだけど、これ以上、からかうのも可愛そうな気がしてきて、自転車に跨り直した。


「わかった。ただ、このまま走り出すと、掴まってないと危ないから、しっかり掴まってくれ」


「う、うん」


 そう返事をした途端、滝沢の両手が俺の腰に回される。


「べ、別に掴まるのは荷台の後ろでもいいんだじぇ」


 突然の滝沢の行動に、一瞬で心拍数が跳ね上がる。

 あまりに驚いたもんだから、俺まで噛んでしまった。

 俺のミスに滝沢が突っ込みを入れてくる来る事はなかった。そのかわりに、少し湿り気を帯びた声色で、耳元で囁いた。


「だ、ダメだった?」


「ダメでなないぞ!直ちに出発する」


 背中に感じる柔らかい感触と、体温を感じながら、全力でペダルを漕ぎ出した。


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