第21話
『太陽の国のお姫様、ストリーちゃんの配信にようこそ!このチャンネルは、日出る国のみんなと仲良くなるために〜、お姫様であるストリーちゃん自らが!矢面に立って体当たりな企画に挑戦しているんだよ!』
ハツラツとしたアニメ声が、俺の部屋の中に響き渡る。
スマホの小さな画面の中で、ヴァーチャルキャラが所狭しと動き回っている。
動画の冒頭が流れた所で吉岡はスマホに手を伸ばし、動画をストップした。
「これが俺の推し『ストリーちゃん』だ。どうだ可愛いだろ。ムフフ。可愛いだけじゃなくて元気いっぱいでドジっ子な所がたまらないんだけどね」
俺とは目も合わせず、かなり早口にそう言い切った。
付いてきた陽川はと言えば、自らが好きな相手である吉岡の《推し》を受け入れられないのか顔を逸らし、明後日の方向を見ていた。
怒っているのか、横顔が赤くなっているようにも見える。わかるよ。君の気持ち。
「吉岡ってこういうのにも興味あったんだな。前は声優のアイリ?だか、なんただかが好きって言ってなかったけ?」
「
メガネなんてかけていないのに、吉岡はメガネを直すような仕草をしてからニヤリと笑った。
「そうそうその子」
「ふふふ。これを聞いて欲しい」
吉岡は開いていたヴァーチャルキャラの動画を閉じると、アニメの動画を開きシークバーを慣れた手つきで動かし、真ん中辺りから再生を始めた。
見たことのあるアニメだった。つい最近放送していて、かなり話題になっていたアニメ。たしか、タイトルは『ホライゾン&メソッド』だったかな。
正直、アニメには詳しくないから内容は知らない。
吉岡のスマホから、再度アニメ声が流れ出す。
『この水平線の彼方にきっと、君の求めている物はある。でも、行かないで欲しい!私のそばに居てよ!』
吉岡はそのセリフを聞いてニヤリと笑うと、動画の再生を停めた。
そして、もう一度シークバーを戻して再度再生しようとしたところで停めた。
「声が似ているとか?」
「御明察!しかし、その回答では五十点しかあげられないね」
チッチと人差し指を立て、吉岡は瞳を怪しく光らせる。
少し腹が立つな。
「……と言うと?」
「ふっ」
吉岡は呆れたように笑うと、先ほどと同じシーンをもう一度流し、その後に最初に見せられたヴァーチャルキャラのオープニングの紹介部分を再度流した。
「気がつかないか?まあ無理もない。ちょっと演技の仕方が違うからな。訓練されたヲタクでもない限り、わからないか・も・な」
別にわかりたくもないのだけど、無性に腹が立つ。しかし、これも滝沢との約束のためだ。ぐっと堪えた。
「わからないな」
「そうだろう。わからないだろう。アイリは年齢非公表だが、俺達と同年代くらいだと言われている。可愛らしい美貌に、屈託のない笑顔、元は子役で演劇もこなし、現在は声優業へと転身したマルチタレントだ。演技力も申し分なく、アニメ業界やヲタクからの評価も高い────そして、」
かなり早口で何を話しているのかすら理解できないでいると、吉岡の演説を遮るように陽川が口を開いた。
「中身は同じって噂よね」
まるで興味なさそうに、こちらを見ることもなく、めんどくさそうにそう言った。
「お、おう。大正解だ!なんだ姫、知っていたのか!」
遮られて怒るかとも思ったが、吉岡は怒ることなく、嬉しそうに陽川に向き合った。
「まあね」
いつもの陽川なら吉岡に褒められたら大喜びしそうなものなのに、少し不機嫌そうな様子だ。
きっと、複雑な気持ちなんだろうな。
「そうなんだ。全く気が付かなかった。でも、言われてみれば確かに声が似ているな」
「これだから素人さんは。それに比べて姫は偉い!」
吉岡に頭を撫でられて、陽川は満更でもなさそうに笑った。
でも、目が合って俺が見ていると気がついたらまたフンとそっぽを向いた。
「そうだろう。そうだろう。だから俺は推し変をしたわけではないからな。ずーっと、アイリ一筋なのだ」
「あくまで噂だけどね」
聞き取れるか聞き取れないかくらいの声量で陽川は呟いた。
「まあ、公式から正式に発表はされていないんだけどね、否定もされていないから間違いないだろうよ。俺達のような肥えたヲタクが騙されるわけがない!」
「はあ」
興味がない適当な返事をしたあとに、自分から吉岡を誘った事を思い出して慌てて言葉を続けた。
「アイリとストリー、どっちのほうが推している比重が高いんだ?」
「うむ」
吉岡は腕組みをして少し悩んだような仕草を見せたあと、一つ頷いてから答えた。
「アイリ三のストリー七かな。でもまあ、どっちもアイリだから合計十だな!」
なぜか、吉岡の横に座っている陽川の表情が一瞬綻んだように見えた。
まあ、気の所為だとは思うけど。
「なるほど。……だったら今日は、ストリーについて詳しくご教授願えるか?」
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