第13話
ニチカは、円卓ルームへの道をエクスカリバー・ブックで作り、ひとっ飛びすると、そこに3つの人影を確認した。
ハートとダイヤと学園長であった。
「来たか。早速だが、連絡事項がある」
学園長は手元にあるタブレットを開き、プロジェクターに無線接続をする。
その場の雰囲気に、どことなく緊張感が漂っていた。
「何かあったんですか?」
ニチカは学園長に質問する。
見ると、どうやらハートとダイヤも、今来たばかりで、状況を把握していないようだった。
「今日の昼間に、警視庁から私に連絡があった。それを君たちに伝える」
「警視庁!?」
日本での生活が短いニチカでも、警視庁が一体なんなのかはもちろん知っている。
「まさかこの中の誰かが逮捕される、ということではないですよね!?」
「…………」
「え? なんで答えないんですか!?」
ニチカは周りを見回す。ハートがダイヤに冷たい視線を向けていた。
「ほう。やっと捕まってくれるのか? それで、何をやらかしたんだい?」
「何もしてませんわ! 雁夜君こそ、ようやく悪事がバレたようですわね!」
「ふざけたことを言わないでくれ」
「それはこちらのセリフですわ!」
ハートとダイヤは互いをじっと睨んで、言い合いを始める。このままでは一触即発である。
「学園の生徒に、逮捕状が出ているという話ではない」
学園長はさらっと言う。
(じゃあなんですぐに否定しなかったんですかっ!)
ニチカは、心の中で学園長にツッコミを入れたのであった。
「そもそも事件が起きているかは分からない。それを君たちに調べて欲しいのだ」
含みのある言葉に、三人の意識が集中する。
プロジェクターに映し出されたのは、目つきの悪い大人びた女性の写真であった。横には女性の説明が書かれていた。
「盗賊団ファントムピクシー構成員――――コードネームK。国際指名手配犯だ」
ニチカはその名前を知らなかった。
だがハートとダイヤは何かを察したようで、各々の反応を見せていた。
「世界中を騒がせている犯罪者グループですよね。美術品をまるで妖精のようにいつの間にか盗み出す、謎の多い集団だと聞いたことがあります」
「わたくしも、おじいさまから聞いたことがありますわ。岩上院グループが所有する美術品についても、彼らに狙われないように、これまで以上に厳重に保管を始めたと」
どうやらこの場でファントムピクシーを知らないのはニチカだけのようであった。
ニチカは話題に置いていかれないように、学園長に質問する。
「えっと、そのファントムピクシーが、円卓学園と何か関係あるんですか?」
「この構成員の女――――Kが、日本国内に潜入しているという情報が、警視庁から共有された」
「ファントムピクシーは、日本でも暗躍していると聞きますね。過去にも大阪の博物館で貴重な日本刀が盗まれたこともあったはずです。それがどうかしたんですか?」
ハートの質問に、学園長はタブレットをスワイプして画像を入れ替える。円卓学園の正門が映し出されていた。
「警視庁は、Kの痕跡である指紋を頼りに、彼女の後を追った。すると、指紋が、この円卓学園の正門で途切れたらしい。つまり、この学園に潜入している可能性があるという話があったんだ」
「「「!!!?」」」
ニチカたち三人は、声にならない驚きを表情で表した。
(円卓学園に、国際指名手配犯が紛れ込んでる!? 嘘だよね!?)
学園長はスライドを進める。そこにはいくつもの美術品や歴史資料が映っていた。
「知ってのとおり、この学園には値段をつけられないほどの貴重な名品が、生徒たちの研究資料として収蔵されている。常に風紀委員会や学園の警備システムによってその所在は守られているが、そこに、手練れの国際指名手配犯が入り込んだ場合、果たして無事で済むだろうか」
「……大丈夫じゃないですっ!」
ニチカは即答した。
「もしこの人が学園に潜伏しているっていうことなら、即刻捕まえなきゃいけないです! 私のこんな楽しい日々を邪魔をするような人は、この学園にはいりません!」
「邪魔しているわけでは無いと思うけどね……」
ハートが冷静にツッコミを入れる。
だが、事件が起きた場合、ニチカはその事件解決に向けて、円卓クラブとして活動しなければならないので、彼女にとっては、目の上のたんこぶであることには変わりなかった。
「警視庁は学園内での捜査を希望していた。だが、警察が学園内に立ち入ると、目立つ。潜入しているKに勘付かれる可能性があるため、私から断りを入れた」
「そうですね。危険ですが、この女の所在を僕らが知らない以上、秘密裏に動くという選択しかないですよね」
「つまり、円卓クラブの出番ということだ。君たちは、密かにKについて捜査するんだ。もしKが学園に潜伏しているようなら、Kを確保するのだ。風紀委員会には、全面的に円卓クラブへの協力を依頼している」
こうして、学園長からの依頼を、三人は理解したのであった。
「……怖いけど、放送祭の前に解決したいよねっ!」
ニチカはこれ以上トラブルが大きくならないように願った。
「ニチカ様安心してくださいませ! わたくしの発明品があれば、指名手配犯でさえも相手ではございませんわ!」
ダイヤは早速やる気になっているようだった。
「把握しました。Kの情報は、指紋と顔写真だけですかね?」
ハートは冷静に状況の整理を始める。
「指紋を変えることはできない。それは証拠になるだろう。だが、顔は整形している可能性が高い。つまり、我が物顔で学園に忍び込んでいるかもしれない」
そうなると、この写真は意味がないだろうとニチカは思った。
指紋を地道に確認するのがいいかもしれない。だが円卓学園は10000人が生活している。かなり大変な捜査になるだろう。
「そして、Kを追い詰めるもう一つ重要な情報がある。Kの指紋が正門についたと思われる日付が分かっている。それは――――今年の入学式だ」
その情報に、ニチカはひらめいた。
「……もしかして、新入生の中に紛れ込んでいるんじゃ!?」
ニチカの考えは、他の3人も同じようだった。
「うん。そうなると、新入生の女の子を中心に探ってみるのが良いかもしれないね」
「指紋の照合は任せてくださいませ! わたくしの発明品に照合装置がありますの! あとは指紋を採取してもらうだけですわ!」
どうやら、作戦は決まったようだった。
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