第11話

 岩上院ダイヤによる決闘騒動は、風紀委員会による長時間の取り調べの結果、破損の発生した海岸公園の清掃ボランティアへの協力という罰則によって幕を閉じた。

 ニチカとダイヤは、風紀委員会からの命令通り、清掃ボランティアに3日間参加した。

「旭様! 今日のために岩上院印の全自動掃除機をご用意しましたわ! これで旭様のお手を煩わせる事なく公園が綺麗になりますの!」

「これ本当に掃除機なの? 超巨大な扇風機にしか見えないけど」

「この掃除機は超強力なプロペラの回転を利用した掃除機ですわ! 重さ100キロのものまで吸い込んで砕く超強力仕様! これでどんなものでも掃除できますの!」

「そんなの使ったら、私たちも危ないよ! それと、旭様は恥ずかしいからダメ!」

「そんなぁ〜! せめてニチカ様とお呼びさせてくださいませ!」

 その3日間は、すぐに発明品を使おうとするダイヤを、ニチカが止めるという光景が何度も見られた。

「女王さすがだな……お転婆な発明家お嬢様を手懐けてるよ」

「あの岩上院さんを従える旭さんて、やっぱりとんでもない人だよね?」

 ニチカの正体もダイヤにしか知られなかったため、ルビーの女王についての噂が広まることはなかった。

 しかし、それとは関係なく、ボランティアが終わる頃には、ニチカはさらに注目される存在になっていたのだった。


 そうして、ボランティアを終えた次の日の放課後から、ついにダイヤが円卓ルームへとやってきた。

「それでは改めまして、円卓クラブの新メンバーの岩上院ダイヤですわ! これからニチカ様の右腕として、円卓学園の平和を守らせていただきますのでお見知り置きを!」

「よろしくね! ダイヤちゃん!」

 その挨拶と共に、ドカンと背後で閃光が輝く。どうやらダイヤが演出として用意した室内照明によるものらしい。

 ちなみに、ダイヤが入部したことによって、円卓ルームの様子が大きく変わることになった。ダイヤが持ち込んだ北欧家具によって、一気に高級ホテルのラウンジのような雰囲気になったのである。

 ダイヤが言うには、「お父様とお母様を説得して、女王として相応しい家具を用意してもらいました! 応援してくれるようです!」とのことである。

 ニチカは、円卓ルームのかっこいい変わりように、ワクワクする気持ちを抑えられずにいた。

「……相変わらず騒がしいお嬢様だね」

 一方で、ハートは目が笑っていないまま、ダイヤに向かってため息をついた。

「何をおっしゃているんですの雁夜君! ニチカ様はこの学園の女王! その女王の側近が地味では、女王のイメージも地味なものになってしまいますわ! わたくしは誰よりも輝いて、ニチカ様をサポートしますの!」

「だからって前が見えないレベルの照明を持ってこないでよ! それに、勝手にニチカの右腕を自称しないでくれ!」

 ニチカの目の前ではハートとダイヤが言い争いを始める。

 どうもハートとダイヤの相性が良くないようで、ちょっとしたことで、すぐに小競り合いに発展してしまうのだ。

「右腕を自称するなら、せめて僕との勝負に勝ってから言ってくれ」

「望むところですわ! あなたなんて、ボッコボコのけちょんけちょんにして差し上げますわ!」

「言ったね。なら、僕が得意なトランプゲームでもいいかな?」

「当たり前ですわ! テーブルゲームは上流階級の嗜み! あなたとの経験値の差を見せつけてあげますわ!」

 そんな感じで始まったゲームは、ポーカーであったのだが、勝負は、一瞬で決着がついてしまった。

「ああああああああ! なんでですの! なんで勝てないんですの!」

 ダイヤは、岩上院シリーズの発明品で圧勝を宣言したものの、結局は全戦全敗であった。

「わたくしが今つけているカチューシャ――――『よく覚える君』は少しのトランプの傷を覚えて、わたくしに振動で教えてくれますのに、なんであなたはわたくしのカードより強いカードを必ず引いてますの!?」

「カードを覚えたところでポーカーは勝てないよ。そもそもその道具、振動してるのがこっちに見えてバレバレだからね」

「あっ!? しまったですわ!」

 ダイヤはがっくりと肩を落としたのだった。

 ダイヤは発明の天才であるが、うっかりの達人でもあったのだ。

「さて、勝負はついたね、これで僕が、ニチカの右腕だ」

「うう……幼なじみ補正には敵わないんですの? ですが、仕方ありません。わたくしは左腕として、ニチカ様のサポートをしますわ!」

 そんなこんなで勝負を行った二人は、ニチカの横に座る。ハートが右側。ダイヤは左側である。

「……あの、もしかして、勝負していたのは、席の場所を決めるためだったの?」

「そうですわ! ニチカ様は左目を隠しているのですから、見やすい右側を取るのは側近として絶対条件なのですわ!」

「あ、そ、そうなんだね」

 そんなの決めなくてもいいんじゃ無いかとニチカは思ったが、なんだか本人たちは真剣そのものだったので、スルーすることにした。

「岩上院はいつもうるさいから、左側でニチカに姿が見えていない方がちょうどいいでしょ」

「きぃ! 適当なことを言わないでくださる! 今日は負けましたが、何度でもその席をかけて勝負させてもらいますわ!」

「まあ、いくら騒いでも、僕の方がニチカのことはよく知っているんだから、右腕は僕に決まってるからね」

「ニチカ様! 雁夜君を、即刻円卓クラブから追放してください! この男は、ニチカ様を惑わせる毒蛇ですわ!」

「誰が毒蛇だ!」

 ニチカは、二人の会話が、もはや漫才の掛け合いのように見えて、微笑ましいように思えていた。

「なんだか、思った以上に仲良くできそうだね」

「どこが!?」

「どこがですの!?」

 ツッコミも息ぴったりだった。

「二人とも、私のことを思って、色々してくれているのは分かっているよ。だから、私にとっては二人は同じくらい大切な存在なんだからね」

 そうニチカが屈託のない笑顔で言うと、二人ともぴたりと動きを止めた。

 ハートはいつものポーカーフェイス。だが、ニチカは気づいていないが、耳が赤く染まっていた。

 ダイヤはわかりやすく、顔を真っ赤にしていた。

「岩上院、分かったかい? これが、ニチカなんだ」

「ええ。よく分かりました。雁夜君よりも、ニチカ様の方がずっと危険かもしれませんね」

「? どういうこと?」

 ニチカは、よく分かっていないようだった。

「全く、鈍感なんだから」

「朴念仁なところがあっても、わたくしはお慕い申し上げますわ」

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