どこへ消えた

鈴鹿 葦人

母は知っている

高校から秀一しゅういちが帰り、急ぎ足で自室へと向かう。

ドタドタと足音を立てながら、階段を駆け上がり、部屋に鍵をかける。


クローゼットに買ってきた本を投げ入れ、机の前に座…………机に置いていたが無い。

代わりに一枚のメモが置かれていた。


帰ったら話があります。

       母より


この一文で秀一は事態を理解した。

しかし冷静。至極当然だ。


だってんだから。


どうせいつかはバレるのだ。

それはそうと、この先どうするべきかを考えていると


トン!トン!


部屋のドアがノックされる。

母だ


唾を飲み込み深呼吸をしてドアを開ける。


「…あの、話ってなに、ですか?」


思わず敬語で話してしまった。

恐怖で母の顔が見れない。

一瞬の沈黙が永遠のように感じる。


「机の上にあったモノについてです。」


「…はい。」


「やっぱ気付くよね」


「そりゃあ気付くわよ、部屋に入ってすぐの机には手錠と同人誌、本棚の方に至ってはご丁寧に自作のポップまで作られてんだから」


呆れた様子で母が言った。

そして、目線を下げて何かを見ると。

秀一に問いかける。


「ていうかこのポップ、実際にヤったぐらいなまめかしく…」


(………)


母が冷や汗をかきながら秀一を睨みつける。


「…それになによ、この子なんて■■が体に巻きついて、あらら■■が■の中に…」


やめろ!性描写無しなんだぞ!


「そもそも!健全な男子高校生なら■■本や■■■本の1冊や2冊持ってて当然だろ?なんで駄目なんだよ!」


「持ってる事に怒ってるんじゃないの。隠して無いことに怒ってるの。」


「なんでやましく無いのに隠す必要があるんだよ!」


「やましく無くても、やらしい物を隠さないのは恥ずかしい事なのよ」


母の正論がこじらせた秀一の心に刺さる


「それはっ…」


「…」


10秒か20秒。いや、それ以下かもしれない。

二人が少し冷静になり、地獄の様な空気が流れていた。

気まずさに耐えられなかった秀一が口をひらく。


「とにかく!俺もそういう時期だから!許可なく部屋に入らないでよ!」


「…わかったわ、じゃあ掃除とか、今度から自分でしてよね。」


「あい、あい」 


「ちゃんと隠しなさいよ!」


「うるせぇババア!」


バンッ!


秀一が母を無理矢理部屋から押し出し、鍵を閉め直す。

閉めた瞬間、肩の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。


「ふぅ、こっちはバレなかったか。」


「良かった〜。」


そう言うと、秀一はゆっくりと立ちあがり、クローゼットの扉を開けた。


中には女が一人、隅の方でうずくまっている。

分厚い布で目隠しをされ、口にはタオルを詰め込まれており、手足には新品の手錠、関節部はベルトできつく縛られていた。


秀一がそっと頬を撫でると、

ビクッと体をはねさせた後、女が静かに泣く。


そんな事は気にも留めず、秀一はクローゼットに投げ込んだ袋から本を取り出し、優しい声で問いかける。


「次はこの本みたいにしよっか?」


「うん!しよしよ!」


と、秀一が裏声で呟いて

ベルトで縛られた体の上から、人形を扱うように女の着せ替えを始めた。


ふんふん〜♪ふん〜♪


秀一が気分良さげに鼻歌を歌いながら、服をいじっていると、

女の口に詰め込まれたタオルがギシギシと動く。


「も…あ、、は、、ま、」


「はいはい、ちょっとまってね〜」

「今探してるから」


秀一は嬉しそうに服をかき集めて女に近寄る。

そこからは着せては脱がし、脱がしては着せを何度か繰り返していた。


結局、納得のいく格好に辿り着く頃には着せ替えを始めてから15分程経過しており、女はぐったりしている。


「よし!可愛い」


「……!」


小さく周りで鳴っていた音がだんだん大きくなっている。

その事に女が気づき、少し体が動く。

少し遅れて秀一も気づく。


「…!お前っ!」


秀一が女の耳元でそう怒鳴った直後、

ドンッ!と大きな音が鳴り、何度か同じ様な音が鳴り響いてから部屋の扉が開いた。

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どこへ消えた 鈴鹿 葦人 @hituki-nozomi

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