第2話 ホラー実況なのに怖くない

「コホン、えー……あまり納得はしてないけれど、Vチューバーを目指すなら絶対これだという君の意見を取り入れたので、ほんっとうに納得はしてないけれど、怖いゲームの実況をやってみたいと思うよ」


「はぁ…」


(さらに近づいて)


「はぁ……」


(耳元で)


「はあ……なんでホラーなん?」


(最初に話していた位置に戻る)


「君が教えてくれたこのゲーム、『16丁目』ってやつね。まあまあ。血がね、プチャー、ドビャー、イテテって感じなホラーじゃなくて、なんかゾクゾクしてびっくりするようなホラーだっていうから渋々納得してる感はあるよ。あと大人気だってところはポイント高いよね」


「でもね、そもそもあたしはとっても怖いのが苦手なの。君も知ってると思ったんだけどな。ちょっとあたしを見ている時間が少なすぎるかもね」


「無駄話はいいから早くってやろうって? 君、いきなり強気に出てきたね。タ、タブレット電源はついてるじゃん! やろうと思ってたの!


(無言)


「すぐやるからあ。心の整理があるの」


(大きく深呼吸をする)


「よし! スタートします。えっとこのアプリかな……。ぽちっとニャー」


「ひい……、もう初めの画面がいや……。何このマンション……。 絶対腐ってるよ。そのうち爆弾でズドーンって壊されるやつだよ……」


「うわ! いきなりはじまったよ!? 主人公の顔とか名前って付けられないの? あたし的にそこが一番の見せ場だと思うんだけど」


「うわ……誰も住んでないのに立派なマンションだね……昼間来よう……夕方に来るなんて意味ないって。もう、こいつバカなの?」


「よかったー。主人公カスタムあるじゃーん。あたしの名前つけよーっと。『あめあささん』っと」


「ボデーも決まられるのね。ちっちゃい感じにしよーっと」


「……ちょっと、現実はデカ女のくせにって思ったでしょ? 165㎝は普通の範囲内です。すべてが平均なのがあたし」


「髪はもちろんピンクだよね。めっちゃかわいいし。服は……あんまり種類ないのかあ。ヒラヒラがよかったなあ。この黒のドレスでいいや」


「……このゲーム、基本おっぱいが大きすぎない? 一番ちいさくてFはあるよ? 貧乳は存在しないってこと? ひどすぎる。貧乳にも人権ください」


「あははっ! バランスわるー。身長ちっちゃいのに。しゃーない。これでいいや。けってーい。なんか君好みな形になったような気がするよ。おっぱいでかーな感じが特に」


「はじまった!」


「おおっ! ちょっとびっくりした。なんだただのカラスか……。驚かせやがって」


「そっかあ。心霊スポット配信者なんだね。……やっぱりこの主人公バカだよ! わざわざこわいとこ行かないで近くでご飯食べよう? ね、あたしが奢ってあげるからさ」


(少し近づいてくる)


「うへー……すっごいリアルなマンションだね……。友達の家に似てるかも……。エレベーターは……やっぱり動いてないよね。わかってた……階段だよね……」


「うう……。なんで誰も住んでないのよお。階段の音響かせないでえ……。うう……」


「はあっ! 濡れてる? 雨漏り……? あれ? あの扉開いてる……?」


「行ってみよう、じゃねーよ! やっぱお前バカだよ! ミイラ取りがミイラになるタイプだろこの主人公! おっぱいでかい癖に危機意識が低すぎだよ!」


「ふう……ふう……」 


(呼吸が荒くなっていく。さらに近づいてくる)


「いや……ほんといや………ふう……ふう……。うっ……あっ……見ちゃ駄目だって……。ほんと……お願い……一生のお願い……。そんなに開かないで……ああ……」


「あーあーあー……うう………うええやっぱりなんかある………。見たくないよう……」


「うわああああ! なにか追っかけてきた!!! おっさん! おっさんが突然追いかけてきた!!!!」


「いや!!!! 来ないで!!!!! なんでおばけ!!!? おばけってハゲるの!!!? いや、でも来ないで」


「行った? もう行った? まだ行ってない?」


「いた! きゃはははははは! なんか怖さよりも笑えてきた! これ、でかいおっぱいの子をおいかけてるヤバいおっさんじゃん! ある意味ほんとこわい!!!」


「はあ……おじさん行っちゃったみたいだね……。よかったあ……」


(耳元で)


「思ったよりよかったから、もう少しだけ遊びたいな。大きい声だすのってちょっとスッキリするね」

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