花屋

僕は父の花屋が好きだ。

幼い頃に母が亡くなり、父は花屋を受け継いだ。

美しいうちに儚く散った、花のような女性だったというが、顔も思い出すことができない。


そんな母は店づくりにおいてあるこだわりを持っていた。



お客さんが華やかになるお店をつくる。



花を選んでいるお客さんを見て、店の前で足を止める人が時々いるくらいだ。

そして、悩んだ末に花を買わなかったお客さんには一輪の花を手渡す。


感謝の気持ちに花を添えるそうだ。

父もこのルールだけは今も必ず守っている。


そんなある日、1人の女性がお店にやってきた。

どこか儚く、美しい女性だ。

店内を見回して首を傾げたり頷いたり、腕を組んで顔をしかめたりしている。


しばらくして何も買わずに出て行く女性に、僕は一輪のすみれを手渡した。


それを見た女性はニコッと笑い、花を受け取らずに人混みへと消えていった。




遺影の母はいつの間にか、すみれを持っていた。

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