メイク

声を変えられる歯磨き粉が発明された。


やがて人々はお気に入りの声に変えた。

私はその日の服装によって声を変えている。


「今日の声どう?」

「え、かわいー!」

「え、あなたのもかわいい!というか上品じゃない?」


こんな会話は今では街中に溢れている。

がゆえに、よほど親しくなければ本来の声など知らない。


そんなある日、私は歯を磨く時間もなく、マウスウォッシュで済まして出勤した。

満員電車にもなんとか乗り込むことができた。


「すみません...」


誰かの足を踏んでしまい、不意に謝った。

その時に気づいた。


「私、今日の声すっぴんだ...」


恥ずかしく思いながらも出勤し、挨拶をする。

すると、普段仲良くしている同僚が駆け寄ってくる。




「今日の声、今までで一番かわいい!」

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