公衆電話

近所の電話ボックスを通るたびに思い出す。


あの日、鳴っていた公衆電話の受話器を取った。

それが、初めて彼の声を聞いた日だった。


それから毎週金曜日、毎晩彼と受話器越しで仕事の愚痴を言い合った。


名前も顔もわからない彼と。


やがて電話の目的は愚痴ではなく、

彼の声を聞くことに変わり、用意する10円玉も増えていった。


今はもう...


「ただいま。」


ドアの向こうには彼が待っている。


今はもう、電話ボックスで話す必要はない。

彼の目を見ながら、手の温もりを感じながら、10円玉を用意せずに話せる。


今日は金曜日。


またいつものように仕事の愚痴を言い合う。


彼の腕の中で。

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