運命の糸

私には運命の糸が見える。

世間では運命の相手と繋がる「赤い糸」があると言われている。

もちろん、この説は正しい。

しかし大抵の場合、初めから赤いわけではない。

現に街中のカップルや夫婦を見ても、糸の色はそれぞれだ。

言い合いをしている二人が赤い糸だったり、

仲良くしている二人が真っ黒の糸だったりもする。


かくいう私も例外ではない。

妻とは40年以上同じ家で暮らしてきた。

人並みに喧嘩もしたし、手を繋いで眠ることもあった。

それでも妻との糸は真っ白のままだった。


そして今日、おそらく私は死ぬだろう。

病室でも私の横には妻がいた。

幾度となく手に感じた温もりがそこにあった。


だんだんと視界が朦朧としてくる。

涙を浮かべる彼女の顔を見ながら、ふと自分の小指を見てみる。

やはり最後まで真っ白だった。


本当に、幸せな人生だった。

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