Chapter3-不機嫌な義妹-

休日、ソファで休む隼を上から見下ろす。



「――兄さん、何してるんですか」



「そんなことは見れば一目でわかります。私が言っているのは、何故まだ学生真っ盛りの兄さんが、休日に遊びに行くでも勉強をするでもなく、朝からソファーの上でぐうたらしているのかということです!」


隼の言葉に呆れた様子を浮かべる。


「……その発言、まるで休日にだらける父親の如くですね」


「なんですか、それ。では、お父さんやパパとでも呼べばいいですか?」


ちょっと引いた表情の小春。


「……なんで、ちょっと嬉しそうなんですか」


ため息を吐きながらぼそっと呟く。


「全く兄さんは……私が居ないとホントダメなんですから(ぼそっ)」


「いえ、何でもありません。それよりも兄さん」


ソファでだらける隼へと顔を近付ける。




「そんな風にぐうたらするほど暇ということは、私にお付き合いいただいても構いませんよね?」




「そうですね……実は友達からゲームの誘いを受けているのですが、如何せん私はそれほどゲームが得意ではありません。なので、私にゲームの手解きをお願いしたいと思いまして」


嬉しさを隠しながら、表情には出さずに。


「……いいんですか?」


「あ、いえ。では、ゲーム機を取ってきますので待っていてください」



……。

…………。

………………。



「では兄さん、そこに座って下さい」


(隼が座る)


「はい、それでいいです。では私は、兄さんの足の間にっと」


(隼の股の間に座る小春)


「良いではないですか、兄と妹なんですからこの距離でも。それにゲームの手解きをしてももらうなら距離は近いに越したことはないですからね」


ちょっとからかうような視線で隼を見る。


「……それとも兄さんは、妹相手に下品なことでも考えているんですか?」


「ならばいいではありませんか。それより、兄さんは私を抱き締めるように手を前に出してプレイして下さい」


隼の言葉にちょっと不機嫌になる。


「文句あるんですか?」


「はて、私の機嫌が悪い?何を根拠にそんなことを言っているのでしょうか?」


「口調?いつもと変わらないと思いますけど」


隼の返答に一瞬拗ねたような表情になって、小声で呟く。


「……ばか(ぼそ)」


「なんでもありません。それよりもゲームですゲーム」



……。

…………。

………………。



(画面を見ながらコントローラーをカチャカチャする)

隼の股の間で体を揺らしながら画面を見る小春。


「えい、やー、むー!兄さん、やりますね」


「え、あ!ま、それやめっ!あ、あー」


(コントローラーを床に置く)

隼へと視線を向ける。


「下手な私が悪いんですから、兄さんが謝る必要はありませんよ……ええ」


隼の発言に小春の圧が強くなる。


「そろそろ休憩?何を言っているんですか?まだ、私が勝っていません」


「言っておきますが、私が勝つまで続けますから。あ、わざと負けようとか考えてたら絶対許しませんからね?」


画面の方へと視線を向き直し、小声で呟く。


「……せっかく友達に借りたのに、負けたままでは終われません(ぼそっ)」



……。

…………。

………………。



(再びコントローラーをカチャカチャ)

視線が画面の方を見ており、テンションはさっきよりも高め。


「今度こそ、こうやって、えい!そりゃ」


「ふふ、舐めないでください!えいえい、やっ!これで――フィニッシュですっ!」


(コントローラーを置く)

勝ち誇ったような笑みを浮かべて隼へと視線を向ける。


「ふふん!兄さんに勝ってしまいました。流石は私ですね!」


呆れた表情の隼の言葉に頬を赤らめ、視線を逸らす。


「……う、うるさいですよ。何回負けても、最後に勝てばいいんです」


「ふふん!素直に負けを認めるんですね」


顔を近付けて、微笑む。




「――なら、ご褒美をいただけませんか?」




(隼の股の間に座る状態で、体をグルッとまわして体ごと隼の正面へ)


「お金のない兄さんにモノなんて要求しませんよ。そうですね、では私の頭を撫でてください」


「はい、それで構いません。兄さんは安上がりな妹をもてて幸せですね。もっと有り難さを感じなくてはなりませんよ?」


(隼に頭を撫でられる)

喜びつつも幸せそうな吐息を漏らす。


「んっ、兄さんの手ゴツゴツしてて大きいですね。私の手とは大違いです。あっ、もうちょっと優しく……そうです、それ、んっ、いいです」


「んっ、当たり前ですよ。シャンプーもコンディショナーもいいものを使っていますから。女の子は見えないところで結構努力しているものなんです」


頭を撫でられた状態で少し頬を膨らませる。


「な・の・で、もっとちゃんと見てあげないといけませんよ?」


「そうですよ、全く」


(手を止めて、何かに気付いた様子の隼)

隼が小春の機嫌が悪かった理由を言い当てる。

それに驚きつつも、不満げな様子を滲ませる。


「っ、今頃気がついたんですか。そうですよ、兄さんと私がこうやってお休みの時にゆっくり話すのなんて、しばらくぶりですから」


(再び頭を撫でる隼)


「勘違いしないで下さいね?別に兄さんが構ってくれなくて拗ねていた訳でも、構って欲しくてあんなことをしたわけではありませんか、ぁん」


小春は隼の視線と手に少し照れてしまう。


「あ、あの、兄さん。さっきよりも優しい目をして頭を撫でないでくださいっ!な、なんだか凄く気恥ずかしい気持ちになるのですが!」


段々と恥ずかしさが勝ってくる。


「その『俺はわかってる』的な顔もムカつくのですが!?」


「うっ!もう、いいです!!」


隼の手を振りほどき、バッと立ち上がる。



「え、きゃぁあ!!」



(倒れ込んだ際に隼が下敷きになって、ドンという音が聞こえる)

足が痺れて上手く立ち上がれなかったため倒れてしまう。


「っぅ、なにが」


目を開けると隼に抱き締められていて、隼の顔が目の前にあった。


「ふぇ!?お、に」


「な、何でもありません!な、なぜ兄さんが私を抱き留めて」


「う、そうでした。立ち上がろうとしたら上手く立ち上がれずに」


「お手数をお掛け――っ」


キスが出来そうな吐息さえ当たる距離だと気付き戸惑う小春。


「に、兄さん、この距離キ、キス」


「な、何を赤くなっているんですか、変態ですか!」


「わ、私は兄さんに抱き留められて赤くなっているのではなく、少し暑くなっただけで、と、とにかくもう大丈夫なので!」


隼が小春を離すが、それに対して一瞬寂しそうな声を出す。


「ぁ――ごほんっ」


立った状態で正面で向き合う。


「兄さん、助けていただきありがとうございます。その、私はちょっと部屋でゆっくりしていますから!また後で!!」


(フローリングを走っていく)


「うぅ、ううっ!」


変な声を出しながら、リビングのドアを閉め、階段を上がっていく。




◆◆◆




(勢いよくドアを閉める)

床に腰が抜けたように座り込む。

顔を真っ赤にしながら、両手で覆う。


「ふぁぁあ!お兄ちゃんにあんな力強く抱き締められるなんてっぇえ!!そ、そそ、それに私がキスって言った時のお兄ちゃんの照れた顔、うぅうう、ドキドキが止まりませんよぉぉおお!!」

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