Chapter4-嫉妬する義妹-

リビングの灯りも点けずに待ち構える小春。

(ドアが開き、足音が聞こえる)



「――兄さん、お帰りなさい」



「電気もつけずにどうした、ですか?」


冷たい視線を隼へと向ける。


「……ご自身の胸に手を当てて聞いてみてはいかがですか?」


「はぁ?わかりませんか?では、ヒントを差し上げましょう」


(椅子から立ち上がり、スリッパで隼の元へ)

隼へと詰め寄っていく。


「先ず一つ目、です」


「これだけじゃわからないですか……仕方ありませんね。では、次に二つ目、です」


隼の発言に更に機嫌を悪くする。


「……違います。はぁぁぁぁ、三つ目はです」


「まだ、気付きませんか?いいでしょう、最後四つ目はです」


「ふん。どうやらようやく気付いたようですね。そうです、兄さん」


隼の目の前に立つ。




「――あの女、誰ですか?」




視線を逸らす隼を見て、更に冷たい視線を向けていく。


「答え辛いですか。では、質問を変えましょう」


「兄さんはあの女と楽しそうにデートしてましたよね?」


顔は笑っているようにも見えるが、その目は全く笑っていない。


「ええ、バッチリと。私が食材の買い足しをしていた最中、兄さんが見ず知らずの女と共に買い物をしていて、ふふ」


「いえ、ただナニを――っと。何をしていたのかと思いまして」


批難めいた視線を隼に向ける。


「兄さんはてっきりバイトだと思っていたんですよ?だから、そんな兄さんに美味しいご飯をと思って、たくさんの食材を買っていたのに……そんな妹の気遣いにも気付かずにデートしているなんて、兄として情けないと思わないんですか?」


「へぇ、そんな関係じゃない、ですか。ふーん」


隼に顔を近付けて、匂いを嗅ぐ。


「……くんくん、やはり匂いますね」


「関係ないと言いながら、兄さんからは普段しない香りがしていますよ?具体的には淫乱な雌犬の発情したフェロモン臭が」


未だに誤魔化す隼に、小春は顔を下に向けるポツポツと呟く。



「……いけませんね」



「兄さんにそんな余所者の匂いをさせたまま過ごさせるわけにはいきません、ええ、そうです」


バッと顔を上げて、ハイライトが消えた目で隼を見る。


「お風呂でしっかり洗い流す必要がありますよね?」


「今からです。何を当たり前のことを言っているんですか、兄さん?」


「では、行きますよ。ほら、着いてきてください」


(隼の手を握り、歩いていく)




◆◆◆




(隼がシャワー中)

脱衣所から声をかける。


「どうですか、しっかり洗い流せていますか?」


「そう言われても、今の兄さんには全くと言っていいほど信頼度はありませんから」


「なので、私が確認します」


(シャワー中にお風呂のドアを開ける)

バスタオルを巻いた小春が中へと入る。


「そのまま、ジッとしていてください」


顔を近付けて匂いを嗅ぐ。


「ふむ、確かにさっきより匂いは薄くなっていますが、それでもまだ足りませんね。こうなっては私がしっかりと兄さんを洗う必要がありますか」


呆れた口調ながら、顔には笑みが浮かんでいる。


「ふぅ、やれやれです。これも妹としての務めですね」


(隼がシャワーを止める)

隼にバスタオル一枚の姿を指摘されるが、全く気にした様子はない。


「格好?ああ、これですか」


「何を騒いでいるんです?下にはちゃんと水着を着ていますよ」


顔を隼へと近付けて、からかうような笑みを浮かべる。


「――もしかして裸だと思いましたか?」


「赤くなって、もしかして図星なんですか?兄さんったら」


隼の耳元へ。




「へ・ん・た・い♥」




戸惑う隼の様子に、笑いながら距離を取る。


「ふふ、冗談です。それよりも今からは私がしっかり洗うので、覚悟しておいてください」


座る隼の後ろに立つ。

(シャンプーを手の平に出してくちゅくちゅと泡立てる)


「では、先ず頭から洗います」


(隼の頭をゴシゴシと洗っていく)


「ごしごし、ごしごし、どうですか兄さん?力加減は問題ありませんか?」


「それなら良かったです」


「頭は頭頂部にかけて血流が悪くなるみたいなので、こうやって、んっしょ、マッサージするように揉んで、っん、血が巡るようにしてっ」


頬に笑みが浮かぶ。


「んしょ、んんっ……ふふ」


「え、どうして笑ってるのかですか?んー、こんな風に兄さんの髪の毛を指で洗う感覚、不思議な気分だなと思いまして」


「あ、段々と泡立ってきて、ん、ごしごし、兄さんの声も気持ちよさそうですね」


「……うん、もういいでしょう。では、流しますね」


(シャワーを使って髪のシャンプーをおとしていく)


「本来であればここでリンスーもするところですが、このシャンプーはオールインワンタイプみたいですから……残念ですが今回はこれでいいでしょう」


髪に顔を近付けて匂いを嗅ぐ。


「くんくん……うん。女の匂いは消えていますね」


「ん?何を風呂から上がろうとしているんですか?」


「え?ではありません。次は体の方をしっかり洗わないといけませんよね」


(抵抗する隼が椅子をひいて立ち上がろうとする)


「いいから、座ってくださいっ!えい!」


隼を後ろから抱き締める。


「兄さんの動き、止まりましたね。それに、心臓がドクンドクンってここからでも気付くほど脈打っているのが伝わってきますよ?」


「いいから離れてって酷いですね……あ、そうです」


(ボディーソープを手に取ると、容器に入っている液体を胸元に垂らしていく)


「んっ、では、洗いますね――んっ」


おっぱいスポンジ状態。

(クチュクチュとボディーソープと体が擦れる音がお風呂場に響く)


「何って……こうやって、ンッ、洗いながら私の匂いも、んっ、擦り付けているんですよ?」


「マーキングですよ、マーキング」


「兄さんが一体誰のものであるのか、んっ、ハッキリと余所のメスどもに分かってもらえるように、ぁん、しっかりと匂いをつけて、ぁ」


「兄さんの体、んぁ、ビクビク震えてますよ、んんっ」


(洗う胸を止める)

後ろから耳元へ顔を近付ける。


「――そんなに、私のおっぱい気持ち良いんですか?」


「ふふ。耳まで真っ赤にして、どうしたんですか兄さん」


顔を耳元から離して、再び洗うのに集中する。

(再びおっぱいスポンジで洗い始める)


「私だって全く恥ずかしくないわけではありませんが、んっ、水着越しですし、それに、っん、兄さんの方が緊張している様子を見ていたら、ぁ、逆に少し落ち着くといいますか」


「あ、兄さんのここ、硬いですね」


「ん?何を勘違いしているのかわかりませんが、私が言っているのは肩ですよ肩。それに腰の方も、っん、少し張ってる気がしますね」


「こんな状態になるまで放っておくなんて、日頃から頑張りすぎではありませんか?あ、流しますね」


(シャワーで泡を流していく)

心配する様子から段々と機嫌が悪くなる。


「そんなことないって言いますが、兄さんはいつも頑張りすぎです。特にここ最近はバイトで帰りも遅いですし……もしかして、あの女のためですか」


「違う?そうは信じられませんが……」


「あ、すみません。つい、洗い流す手に力が入って」


「……まぁ、そこまで言うなら信じてあげてもいいですけど」


(シャワーを止める)

顔を近付けて首元へ甘噛み。


「あむっ!かぷかぷ」


口を離す。


「何って、甘噛みしただけですよ?」


「兄さんが妹である私以外を優先したことへのお仕置きです。本当はもっと酷いことを考えていましたが、これで許してあげると言っているんです」


「……それとも兄さんは、体中に噛み跡が欲しいです?かぷかぷ」


「よろしい。では、兄さんから女の匂いは落とせたので、私は先に上がらせてもらいます」


(ドアを閉めて、タオルで体を拭いていく)



「ふぅ、まさかあんなことまでしてしまうなんて、流石に自分を抑えられなさすぎではないでしょうか?」



少し沈んだ様子をみせる。


「……でも、お兄ちゃんが私以外の女と仲良くしてるのなんて…うー、でも、それが兄さんの幸せなら……私達はですし」


「……嫌、ですね。兄さんが私以外の誰かと付き合うなんて」

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