冷めた詩と燃える文
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憂鬱な時、死に瀕するとき、それを救う文があるとすれば、それは詩だ。
たとえそれが詩と名乗らなくても心を救い、罪を贖い、命を拾うものは詩だ。
芸術は個人を広く『個人的に』救済するメディアで、しかも救済を目的とはせずに創り出される。技術の誇示を目的とした彫像が人を救うこともある。だからこそ文による芸術、詩は人の救いだ。
だからなのか、私も心の危機には自然と詩を書く。もちろん別にそれ以外の時期でも様々な目的で詩は書くが、小説などが書けない時には詩を書く。
無力な自分を描き見るため、あるいは自分を救済するため、もしくは誰かのため……。様々な理由と目的で詩を書く。
だが、そういう詩は冷めている。己の心の冷たさが言葉に乗ってゆく。冷製の料理みたいなものだ。これはこれで良いが、延々とこれを繰り返すのは、少なくとも自分は嫌だ。
私は熱のある文が好きだ。
冷たいながらも人に寄り添う文も良いが、熱さで人を沸き立たせ、薙ぎ倒し、押し勝つ文が好きなんだ。
仄かな優しさではない、むしろ敵意のようにグラグラとしたマグマのような熱だ。嫉妬と上昇志向と勝ち気と悪戯、そんな熱を求めているのだ。
だからこそ沸き上がる私の情熱は純粋な敵意や悪意によって点火される。
『勝ちたい』
『見返したい』
『チヤホヤされたい』
『良いものを書きたい』
『ふんぞり返りたい』
『ひとしきり騒ぎたい』
私はそんな刹那的で愚かな欲望から情熱を点火する。私は欲深なのだ。そしてその事を悪いと思っていない。むしろ良いことだと思っている。
何故なら欲が無いことは情熱もなく、心もなく、生きる事さえもないことだとよく知っているから。
欲望という醜悪で矮小な火の粉が情熱という大火を作る。
純粋な欲望を私は燃やす。
そして誇大妄想によってそれを拡大する。
『私のライバルは全世界だ。ものを作った時点であらゆる創作者がライバルなのだ』
『JKローリングも、トールキンも、夏目漱石も、芥川も、あの先生も、この先生も、アニメもマンガもゲームも映画もテレビも詩も短歌も俳句もYouTubeもストリーミングも何もかも全てライバルなのだ!』
『負けられない闘いだ! 負けられない闘いに負け続けても食らいつくのだ!』
『おれは作家だ! 作った時点で作家だ! 人が見てくれている作家だ! 勝つのだ!』
欲望の火種に誇大妄想を焚べ、情熱は燃え盛る。そして私は勝つことを考える。この勝負は個人的だ。誰かが負けと言っても、自分が負けと思っても、勝つことはできる。
死ぬまで私は勝てなくても、死んでいなければ本当の負けはなく、勝つことはできる。
では何が勝ちか。私が感じれば勝ちだ。
私は満足しない。この勝負に勝つつもりだが、勝つ基準は無い。正に永遠の闘争だ。
この勝負は、他人には無意味に見えるかもしれない。だが、私には間違いなく意味があり、この勝負の、この構造こそが最も人間の『意味ある』ことだと私は確信している。
そして、これこそが情熱の根源だ。
火種に薪を焚べ、燃え上がり、その炎から形を見出す。欲望に誇大妄想を与え、そこにある情熱を考える。
そうして私は、私の中の情熱を取り戻す。
さあ、これが燃え盛る文だ。
露悪的な欲と世界に対する妄想で溶けた鉄のような文だ。
これをいつでも書ければ良いが、そうもいかない。だが今はたしかに燃えている。
これが情熱か!
これが熱か!
さあ、これを読む諸君もこの熱に浮かされろ!
どうせ私も諸君らもすぐ熱から冷めるだろうが、その時は私がまた書く!
また書けばまた燃える!
それで良し!
それがベスト!
それ以外は、無い!
多分きっとおそらくメイビー。
今回は終わりだぁッ!
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