カントリーロード

とある猫好き

第1話

 午前七時。受信トレイに一通の音楽ファイルが届く。


 決まった時間。決まった件名。



 ───差出人不明。



 もう慣れたことだ。少年は寝癖をいじりながら、湯気立つ珈琲にため息混じりの息をかける。

 煙越しに見える再生ボタンにカーソルを合わせ、一呼吸後、マウスを叩く。



 

 流れる音楽は決まってピアノと誰かの歌声。


 それになんとオリジナルだ。

 



 音量を上げ、飲むことができなかった珈琲をテーブルに置く。重い腰を上げ、床に落ちた楽譜達を足でどかしながら洗面所に向かう。

 顔を洗い、手を拭きながらじっと鏡も見る。


 そんな少年をどこか不機嫌な顔が見返す。


 いや、やっぱり笑顔だった。


 

 

 自室に戻り、床に散乱した楽譜を適当にまとめ、クリアファイルに入れる。


 ───送られてきた音楽は、転調したサビに入る。


 私服に着替え、荷物をまとめる。


 ───サビが終わり、終わりに向かう。

 

 リュックを背負い、湯気が立たなくなった珈琲を一気に飲み干す。




 ようやく見慣れてきた東京の景色。

 眠ることを知らず。だがそこで暮らす誰しもが夢を見る、そんな都市。




 これは故郷に音を置いて上京した青年が、自分の音を取り戻す物語。





 流し台には洗われていないコップが一つ、少年の帰りを待っている。

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カントリーロード とある猫好き @yuuri0103

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